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 レイラとキャロラインは誰もいない教室で、隣同士の席に座る。
「キャロライン様、この日記よく読んでも良いですか?」
「いいわよ」
 キャロラインは学園の歴代の生徒会や委員会の役員名簿の綴られた資料を捲っている。
 レイラは分厚い日記帳を開いた。

 …毒、殺?
 レイラは心の中で呟く。
 日記には【リザが王宮で紅茶に毒を入れられ殺されかけたと聞いた。マークと先生が捕縛された。】と書かれていた。
 …紅茶に毒を入れられて殺されかけるなんて展開、ゲームにはなかったわ。そもそもこのゲームは乙ゲーの中でもライトな方で、生きた死んだの殺伐とした展開なんて皆無だった。しかも毒を盛られたリザはロイドの婚約者らしいから、どちらかと言えば悪役令嬢の立場の筈なのに。
 次のページを開くと…何も書かれていない。白紙だった。
「え?」
 暫く白紙が続く。次に文字が現れたのは、卒業パーティーの日だった。
「ああ、そこ、何故か白紙なのよね」
 レイラの声に気付いたキャロラインが日記を覗き込みながら言った。
「書いた後から消した形跡もないし、初めから何も書いてないなら飛ばす必要ないし」
「そうですね」

【ローズは先生たちが捕まったすぐ後に教唆で捕まり国外追放になったらしい。考えても分からないのだが、どうにも納得がいかない。】
 日記の主は「違和感」とよく書いている。現在と過去の状況と、記憶との違和感。少しづつ、辻褄が合うようで合わない。

「この年の生徒会なのね」
 キャロラインが資料を捲る手を止めた。
 レイラもキャロラインの手元の紙を覗き込む。
 …やっぱりそうだわ。
 見覚えのある名前が並んでいる。
「どうして生徒会のメンバーを調べようと思われたんですか?」
 レイラがそう聞くと、キャロラインは名簿を指差した。
「この副会長と、この生徒会の顧問の教師とが王弟妃…当時の王太子の弟王子の婚約者を殺害しようとして捕まったの」
「はい」
「この二人は一人の女生徒に好意を持って、その女生徒は王太子の弟王子に好意を持って…女生徒のために弟王子の婚約者を排除しようとしたのよ」
 そうね。ヒロインが特定の攻略対象者のルートに入ると他の攻略対象者はヒロインに恋をしながらも、ヒロインの恋に協力的になる…攻略対象者同士がヒロインを取り合ったりしないのもこの「恋する」の特徴だもの。特定ルートに入らずハーレムエンドに進んでも攻略対象者同士が争ったりせず、ただただ各々がヒロインに甘く迫っていくのよね。
「この二人が捕まった後、女生徒も教唆の罪で国外追放になっていて、そこからこの女生徒の行方は判らなくなっているの。そしてこの二人は捕縛された後も女生徒への好意は変わらなかったらしいの」
「そうなんですか…」
「それでもこの、副会長の方は数年後に辺境伯家の次女と結婚したんだけど、顧問の教師の方は生涯この女生徒へ好意を持ち続け、罪を犯した事も後悔していなかったらしいのよ」
「……」
「この教師かなり偏執的だと思わない?」
「…そうですね」
「でも副会長の方は他の女性と結婚した。調べてみれば、副会長と辺境伯令嬢は恋愛結婚らしいの」
「恋愛結婚」
 大きく頷くキャロライン。
「ええ。私ね、この二人の顛末と、この日記を読んで…さっき本人の気持ちや状態に関係なく状況が動いてしまう事があると推察されるって言ったでしょ?」
「はい」
「この二人がこの女生徒に好意を持ったのは、この勝手に状況が動く『強制力』や『補正』と言われる物のなんだと思ったのよ」
 ……!
 驚きに声も出ないレイラ。キャロラインは日記のページを捲った。
【冬期が始まってから卒業パーティーまでの記憶にどうしても思い出せない部分がある】
【ローズが国外追放になったのに私たちは何故冬なのに食堂へ行かず中庭で昼食を摂っていたんだろう?】
【殿下の卒業以来久しぶりにお会いした。疑問をぶつけるとロイド殿下は「補正」だと仰った。なるほど。補正か。なるほど。】
 それから更にページを捲る。一年分くらいは捲っただろうか。
【リザによれば、マークは自分への疑問と嫉妬で強制力を自身から排除したらしい。】
「…強制力を排除」
 レイラは思わずそう呟く。
 できるの?そんな事が?
 思わぬ情報に、レイラはただじっと日記の文字をみつめる。

「私がこの事に興味を持ったのは、生涯女生徒に好意を持ち続けた人物が、学園の生徒会の顧問だったから、なのよね」
 キャロラインがため息混じりに言う。
「キャロライン様…それはライアン兄様が今年生徒会の顧問になったから…?」
「ええ。何だか気になっちゃって」
 苦笑いしながらキャロラインは頷いた。




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