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 入学式から一週間、レイラの元にカイルからの連絡はない。婚約してから三年、一週間も連絡が空いたなどなかったのだが。
「ヒロインと出会ったからよね…きっと」
 レイラは寮の部屋でため息を吐いた。

 学園は十五歳で入学し、四年間学び十八歳で卒業する。貴族の令息令嬢は十五歳までは家庭教師に学び学園へ入学するが、貴族でない者は家の都合により五歳から十歳には初等教育校へ入学し、数年間字や計算などを学び、成績優秀者やお金のある商家の子供などが十五歳で学園へと入学する。
 全寮制で、いかに高位の貴族でも侍女や侍女、メイドなどを伴う事はできない決まりだ。もちろん王族でも。

 学園は一学年が春期、秋期、冬期の三月期制で、春期と秋期の間に約二ヶ月の夏季休暇、秋期と冬期の間、冬期と春期の間にそれぞれ約二週間の休暇がある。

 出会ってから、夏季休暇の前の舞踏会までにどんなイベントがあったかしら。
 アリスは誰のルートへ進むんだろう。

 学園では、春期の終わりには夏季休暇に入る前の舞踏会があり、冬期の終わりには卒業パーティーがあるので、貴族の令息令嬢は社交を学び、貴族でない者も貴族社会との繋がりを作ろうと励む場となるのだ。

 レイラが学園に入った時から舞踏会や卒業パーティーの度にドレスを贈るとカイルは言ったが、レイラはずっとそれを拒んでいた。
 いざゲームが始まってから急にドレスを贈られなくなり、自分で仕立てたドレスで舞踏会や卒業パーティーに出なくてはいけなくなるなんて惨めすぎる。
「ドレスを頂くのはカイル殿下が卒業する時のパーティーだけで」
 と毎回レイラが言う度に不満気な表情を見せたカイルだが、レイラはそうして来て良かったと思っていた。

「レイラ…あれ…」
 食堂で、ミシェルが遠くに見える集団を指差した。

 …カイルとアリスだわ。

 生徒会の役員が揃ってアリスの座る席の周りを取り囲んでいるのが見えた。

 アリスは背も小さくてフワフワのピンクの髪の毛に青い瞳、そしてすごく目が大きくてかわいい。とにかくかわいい。
 悪役令嬢たちもアリスがかわいいと言う事には異論はないだろう。

 アリスの正面に副会長のアンソニー・フォスター。侯爵家の次男で将来は宰相かと言われている四年生。笑顔で毒を吐くタイプ。
 アンソニーの右隣にはサミュエル・セイモア。会計の二年生。宝飾品販売店の息子。貴族ではないが大金持ちだ。弟キャラだがデリカシーに欠けるタイプ。
 左隣には書記のイアン・マクラウド。ミシェルの家モーリス公爵家の執事で三年生。アンソニーとは逆に真顔で毒を吐くキャラだ。
 アリスの左隣にはフレディ・ダスティン。副会長で三年生。子爵家の嫡男。将来の近衛騎士候補。真面目で堅物。
 そして、アリスの右隣にはカイル。

 座り位置から見れば、今アリスに一番近いのはカイルね。
 一番遠いのはイアンかな。
「レイラ…」
 ミシェルが心配そうにレイラを見ている。
 それにしても、カイルの視線、アリスに釘付けね。私がここにいるのに気付きもしない…か。
「生徒会役員が一年生の女子生徒一人を囲んでるなんてちょっと異様な光景ね…」
 レイラは苦笑いして言うと、カイルたちの集団に背を向けた。
「レイラ?」
「外で食べるわ」
「私も行くわ」
 ミシェルがレイラの後に付いて歩く。
「イアンにどう言う事か聞いてみるわ」
 イアンはミシェルの家の執事だから…でも聞かなくても判ってるから良いの。
 …カイルがあんなに人目も憚らず女生徒を見つめ続けるなんて。
 やっぱりヒロインって、ゲームって凄いわ。
「でも見たくなかったな…」
 そう、小さく呟いた。

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「レイラ様!私許せません!」
「モニカ様?」
 レイラが寮の部屋でミシェルと話していると、二年生のモニカ・ガーランド子爵令嬢が飛び込んで来た。
 モニカは副会長フレディ・ダスティンの婚約者だ。
「まあモニカ様、ノックもせずに…」
「ミシェル様も!許せなくないですか!?」
「私?」
「一体どうしたの?」
 レイラが問うと、モニカはソファに座るレイラの前にへたり込むように座った。
「アリス・ヴィーナスです!あの女フレディ様にちょっかい出して!」
 モニカは悔しそうに顔を顰めて言った。



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