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 ミアがわざと私を階段から…落とした…?

「それは本当なのか?」
 アドルフが瞠目して言うと、ブリジットは頷いた。
「私が見た訳ではないのですが、現場を見ていた人がいて」
「え?誰が?」
 あの時の事、あんまり覚えてないけど、階段の上に殿下とミアがいて、私は…いつものようにミアが殿下に馴れ馴れしくしてるのに腹を立てながら階段を上って行って…そうしたらミアが落ちて来て私にぶつかって、一緒に下まで落ちた。
 私とミアが落ちた所へアレックス様とディアナ様が居たのよね?でもアレックス様もディアナ様も私たちが落ちた瞬間の事は何も言われてなかったから見ていないんだと思う。
 他にも誰かが居たの?
「ナタリア・アディントン子爵令嬢よ。生徒会長の婚約者だから姉様も知ってるわよね?」
「ナタリア様!?」
 生徒会長のジェフリー様は攻略対象者だからその婚約者のナタリア様は私と同じ悪役令嬢だわ。

「ナタリア様が生徒会室へ行くために階段へ向かったら、グレイ殿下とミアがちょうど階段の上で立ち止まって話しをしていたから邪魔にならないように少し離れた所で移動されるのを待っていたんですって。でもナタリア様からは姉様が階段を上って来ていたのは見えてなかったそうよ。そうしたら、ミアが階段の下を見て、それからグレイ殿下を見て、普段のミアからは想像できないくらいの険しい表情を浮かべて、次の瞬間、自分から階段の方へ足を踏み出した…って」
「自分から?」
 アドルフが眉を顰めて言う。
「そうです。ミアは姉様目掛けてわざと落ちたの。ぶつかって姉様を下敷きにするつもりだったのよ」
「…イライザは一週間も目覚めなくて…運が悪ければ死んでいたかも知れない。それを、わざと?」
「そう。私だってあの時は姉様を大嫌いだったけど、だからと言ってさすがに死ねば良いなんて思ってなかった。ミアだって死ねば良いとまでは思ってなかったかも知れないけど、怪我をさせる気はあったのよ。だから私はミアを許せない」
 ブリジットが怒りの表情で言った。

 私はあの時死にかけて…それで「私」と「イライザ」の人格が混じって今のになったんだけど…
 でも待って。
 目が覚める前にイライザは「私はもう消えてしまうけど」って言ったわ。
 と言う事は、あの時、以前のイライザは死んでしまったとも言えるんじゃないの?
 イライザの背中にゾクリと冷たい物が走る。
「しかし何のためにそんな事を?」
 眉を顰めたままのアドルフが顎に手を当てて言った。
「グレイ殿下の前で『虐められて可哀想な私』になるためだと」
 ブリジットが感情の籠らない声で言う。
 そう。悪役令嬢がヒロインを虐めると、攻略対象者がそれに耐えるヒロインの姿を見たり、ヒロインを庇ったりして好感度が上がる。
 だからミアは殿下との好感度を上げるためには私に虐められないといけない。
 でも階段から落ちる前の私は充分ミアを虐めてたと思うけど、何でわざわざミアはそんな事をしたんだろう?

「今日も、姉様を挑発して叩かれるように仕向けたんだわ。グレイ殿下に庇ってもらうために」
 ズキンッ。
 ミアを庇ったグレイの様子を思い出して、イライザの胸が痛んだ。
 夏期休暇で、しばらく殿下をお見掛けする機会もないから、その間にこの心のダメージから回復して、もうミアの挑発には乗らないようにしなくちゃ。
 そういえば、赤い糸を切られてしまったディアナ様とアレックス様はこれからどうなるんだろう?
 ミアはアレックス様とエレノーラ様の赤い糸を結ぶつもりなんだろうけど…
「そのミアと言う令嬢は、自分がグレイ殿下に好意を持ってもらうためにイライザを利用しているのか?」
「最初は違ったのかも知れませんけど、今はそうだと思います」
 ブリジットの言葉にアドルフはため息を吐く。
 
「イライザ、隣国へ嫁ぐのが嫌なら断ってもいいんだぞ」
「え…?」
 イライザは驚いてアドルフを見た。
「先程も言ったが、俺はイライザにもブリジットにも望まぬ結婚などはさせたくはないんだ。それにそのミアと言う令嬢の思惑通りになるのも癪だ」
「お兄様…」
「どうしても断りにくいなら…俺とイライザが結婚するという手もある」
「「え!?」」
 イライザとブリジットは同時に声を上げる。
「俺はお前たちとは血が繋がっていない。だから俺とイライザが恋仲だと言う事にすれば王宮も隣国の王子も諦めるだろう?」
「……」
 真剣な表情で言うアドルフをブリジットが目を見開いて見ていた。
 イライザはブリジットとアドルフの手首に繋がる赤い糸を視線で辿る。
「私、兄妹の恋路の邪魔をする趣味はありませんわ」
 イライザは髪の毛を肩の後ろへバサリと払った。
「…え?」
「は?」
 ブリジットとアドルフがイライザを見る。
「お兄様はブリジット、ブリジットはお兄様が好きなんでしょう?」
「「!」」
 イライザがニヤリと笑いながら言うと、ブリジットとアドルフが無言で見つめ合い、二人揃って頬を真っ赤に染めた。



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