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学園の秋期が始まった。
パリヤとマリーナの処分、セルダの立太子と婚約者の選定、アリシアの婚約解消と使用人との婚約、と、生徒達の話題にことかかず、いつもどこかで誰かの事がが話題に上っている。
「あー明日は議会か…憂鬱だな」
アリシアは寮のホリーの部屋でため息を吐く。ホリーがお茶を淹れてアリシアの前に置いてくれる。
「でも授業はお休みできるし、明日で煩わしい事がなくなると思えば、楽しみじゃない?」
「そうね。そう考えると楽しみな気もしなくもなくもない」
「どっちよ」
ふふふと笑ってから、ホリーは自分の前にあるカップを両手で持って話し出す。
「ねえ、アリシア」
「なあに?」
「…私、縁談が来たの」
-----
翌日、学園へ迎えに来たウィルフィス家の馬車が正門前に停まるなり、アリシアは馬車の扉を開く。
「お父様!」
令嬢は普通、自分で扉を開いたりしないものだ。中にいたレイモンドとジーンは揃って目を見開いた。慌ててジーンが馬車を降り、アリシアに手を差し伸べる。
「アリシア?どうした?」
「お父様!すぐにロビンソン家に縁談を申し入れて!」
馬車に乗り込みながらアリシアが言う。
「ロビンソン家?ホリー嬢に?」
「ホリーに縁談が来たの!まだ顔合わせの返事も待ってもらっているらしいけど、このままじゃ卒業と同時に結婚しちゃうわ」
「アリシア落ち着いて。グレッグは知ってるのか?」
ジーンがアリシアを宥めるように背中を撫でる。
「私も昨夜知ったばかりだもの。ああ、お兄様がいつまでもぐずぐずしてるから!」
レイモンドがクックッと笑い出す。
「アリシア、お前今日は兄の事を心配している場合じゃないだろう?…ジーンはアリシアと結婚するつもりらしいが?」
「!」
アリシアは困ったような表情のジーンと、感情の読めない笑顔を浮かべ自分を見るレイモンドとを見比べる。
アリシアは座席に座り直して父に向き合う。
「…はい。私、ジーンと結婚します」
「私が愛娘と使用人との結婚を、許すとでも?」
「お父様!でも私は本当にジーンを好きなんです!」
アリシアは身を乗り出して訴える。
「公爵家を勘当されても?」
アリシアはごくんと息をのむ。そして大きく息を吸い込んで
「…はい。ジーン以外の人に嫁ぐくらいなら」
と言った。
レイモンドは顎に手を当て、俯く。
「お父様?」
「ふっ。ははははは」
「お、とうさま?」
突然笑い出したレイモンドを、アリシアはきょとんとして見つめる。
「お前たち二人の覚悟はわかった。これから議会で議員連中を納得させたら、結婚を許そう」
先に議場へはいったレイモンド。残されたアリシアとジーンは議場の入り口で入場の知らせを待っていた。
「ジーン、もうお父様に話してたのね。何も言っていなかったから驚いたわ」
アリシアが唇を尖らせて言うと、ジーンは「ごめん」という。
「旦那様から、アリシアの覚悟も聞きたいから黙っておけって言われて」
そういえば、先程のジーンはレイモンドの前でもアリシアやグレッグを呼び捨てにしていた、と思い当たる。
「もう。ホリーの縁談の話が吹き飛んじゃったわ」
「でもその件は、動くべきなのはグレッグだからな」
「そうだけど…」
「あんまり唇尖らせてるとキスするぞ」
しれっと言うジーンにアリシアは耳まで赤くなる。
「なっ!何言ってるのジーン!ここどこだと…」
アリシアが慌てていると議場の扉が開き男性が一人出てくる。
「アリシア・ウィルフィス様、ジーン・フロスト様、どうぞ」
扉を入ると傍聴席の前だった。扇型の議員席に座る人達が一斉に振り向いてジーンとアリシアを見る。
議長席や執行部の席の前に父レイモンドが立っていて、ジーンが先に立ってアリシアの手を引いて緩い階段を降りて行く。
レイモンドの横に二人で並ぶと揃って礼を取った。
「ウィルフィス卿、今日は令嬢のみの出席ではなかったか?」
議員席の一人が声を上げる。
「二人は私が認めた婚約者同士だ。一緒に出席させて何か不都合があるか?」
レイモンドが飄々とした様子で答える。
「婚約者とは言え、使用人だろう?貴族が集う議会に相応しくない」
「そもそも何故使用人との結婚を認める?」
「アリシア嬢は王太子妃になるべく時間も人も金も費やして育てて来たのだ。すべて無駄にするつもりか!?」
段々と議員たちの声が重なって来た。
するとジーンがアリシアの手を握る。
「私は確かに一介の使用人ですが」
ジーンがゆっくりと話し出すと、議場の騒めきが収まる。
「私はアリシアを愛しています。そしてアリシアも私を愛してくれている」
アリシアはジーンの手をぎゅっと握った。
「だからと言って…」
「そもそもパリヤ殿下の不始末を、何故アリシアの意思を無視して押し付けようとするのですか?今まで費やした時間も人もお金も、無駄にしたのは、アリシアではなく、パリヤ殿下の方でしょう」
ジーンはゆっくりと議場を見渡した。
「それに…セルダ殿下の件も」
議員たちが息を飲む気配がアリシアにもハッキリと分かった。
「何故、王子殿下の『真実の愛』は許されて、私たちは許されないのですか?」
議場が、静まり返った。
学園の秋期が始まった。
パリヤとマリーナの処分、セルダの立太子と婚約者の選定、アリシアの婚約解消と使用人との婚約、と、生徒達の話題にことかかず、いつもどこかで誰かの事がが話題に上っている。
「あー明日は議会か…憂鬱だな」
アリシアは寮のホリーの部屋でため息を吐く。ホリーがお茶を淹れてアリシアの前に置いてくれる。
「でも授業はお休みできるし、明日で煩わしい事がなくなると思えば、楽しみじゃない?」
「そうね。そう考えると楽しみな気もしなくもなくもない」
「どっちよ」
ふふふと笑ってから、ホリーは自分の前にあるカップを両手で持って話し出す。
「ねえ、アリシア」
「なあに?」
「…私、縁談が来たの」
-----
翌日、学園へ迎えに来たウィルフィス家の馬車が正門前に停まるなり、アリシアは馬車の扉を開く。
「お父様!」
令嬢は普通、自分で扉を開いたりしないものだ。中にいたレイモンドとジーンは揃って目を見開いた。慌ててジーンが馬車を降り、アリシアに手を差し伸べる。
「アリシア?どうした?」
「お父様!すぐにロビンソン家に縁談を申し入れて!」
馬車に乗り込みながらアリシアが言う。
「ロビンソン家?ホリー嬢に?」
「ホリーに縁談が来たの!まだ顔合わせの返事も待ってもらっているらしいけど、このままじゃ卒業と同時に結婚しちゃうわ」
「アリシア落ち着いて。グレッグは知ってるのか?」
ジーンがアリシアを宥めるように背中を撫でる。
「私も昨夜知ったばかりだもの。ああ、お兄様がいつまでもぐずぐずしてるから!」
レイモンドがクックッと笑い出す。
「アリシア、お前今日は兄の事を心配している場合じゃないだろう?…ジーンはアリシアと結婚するつもりらしいが?」
「!」
アリシアは困ったような表情のジーンと、感情の読めない笑顔を浮かべ自分を見るレイモンドとを見比べる。
アリシアは座席に座り直して父に向き合う。
「…はい。私、ジーンと結婚します」
「私が愛娘と使用人との結婚を、許すとでも?」
「お父様!でも私は本当にジーンを好きなんです!」
アリシアは身を乗り出して訴える。
「公爵家を勘当されても?」
アリシアはごくんと息をのむ。そして大きく息を吸い込んで
「…はい。ジーン以外の人に嫁ぐくらいなら」
と言った。
レイモンドは顎に手を当て、俯く。
「お父様?」
「ふっ。ははははは」
「お、とうさま?」
突然笑い出したレイモンドを、アリシアはきょとんとして見つめる。
「お前たち二人の覚悟はわかった。これから議会で議員連中を納得させたら、結婚を許そう」
先に議場へはいったレイモンド。残されたアリシアとジーンは議場の入り口で入場の知らせを待っていた。
「ジーン、もうお父様に話してたのね。何も言っていなかったから驚いたわ」
アリシアが唇を尖らせて言うと、ジーンは「ごめん」という。
「旦那様から、アリシアの覚悟も聞きたいから黙っておけって言われて」
そういえば、先程のジーンはレイモンドの前でもアリシアやグレッグを呼び捨てにしていた、と思い当たる。
「もう。ホリーの縁談の話が吹き飛んじゃったわ」
「でもその件は、動くべきなのはグレッグだからな」
「そうだけど…」
「あんまり唇尖らせてるとキスするぞ」
しれっと言うジーンにアリシアは耳まで赤くなる。
「なっ!何言ってるのジーン!ここどこだと…」
アリシアが慌てていると議場の扉が開き男性が一人出てくる。
「アリシア・ウィルフィス様、ジーン・フロスト様、どうぞ」
扉を入ると傍聴席の前だった。扇型の議員席に座る人達が一斉に振り向いてジーンとアリシアを見る。
議長席や執行部の席の前に父レイモンドが立っていて、ジーンが先に立ってアリシアの手を引いて緩い階段を降りて行く。
レイモンドの横に二人で並ぶと揃って礼を取った。
「ウィルフィス卿、今日は令嬢のみの出席ではなかったか?」
議員席の一人が声を上げる。
「二人は私が認めた婚約者同士だ。一緒に出席させて何か不都合があるか?」
レイモンドが飄々とした様子で答える。
「婚約者とは言え、使用人だろう?貴族が集う議会に相応しくない」
「そもそも何故使用人との結婚を認める?」
「アリシア嬢は王太子妃になるべく時間も人も金も費やして育てて来たのだ。すべて無駄にするつもりか!?」
段々と議員たちの声が重なって来た。
するとジーンがアリシアの手を握る。
「私は確かに一介の使用人ですが」
ジーンがゆっくりと話し出すと、議場の騒めきが収まる。
「私はアリシアを愛しています。そしてアリシアも私を愛してくれている」
アリシアはジーンの手をぎゅっと握った。
「だからと言って…」
「そもそもパリヤ殿下の不始末を、何故アリシアの意思を無視して押し付けようとするのですか?今まで費やした時間も人もお金も、無駄にしたのは、アリシアではなく、パリヤ殿下の方でしょう」
ジーンはゆっくりと議場を見渡した。
「それに…セルダ殿下の件も」
議員たちが息を飲む気配がアリシアにもハッキリと分かった。
「何故、王子殿下の『真実の愛』は許されて、私たちは許されないのですか?」
議場が、静まり返った。
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