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「アリシア、ホリーは恋人がいるのかな?婚約はしていないようだけど…」
アリシアが2年生になった夏季休暇、4年生になったグレッグが唐突にアリシアに言った。
「恋人はいないけど…」
「けど!?」
ソファの向かいに座ったグレッグが喰い気味に言う。
「すっ…好きな人がいるとか!?」
ソファから腰を浮かせてアリシアへ迫る。
「お兄様、近い!怖い怖い!な、何?お兄様、ホリーが好きなの!?」
アリシアが言うと、グレッグは頬を赤くしてソファに座り直す。
黙ってしまったグレッグを見て、アリシアはグレッグの後ろに控えているジーンを見る。
「ジーン、そうなの?」
「そのようです」
ジーンは無表情で答える。グレッグの顔はますます赤くなった。
「ふーん。ホリーは明るくてかわいくていい子だもの、お兄様見る目あるわ」
アリシアが顎に手を当てて頷くと、グレッグははーっとため息を吐きながら膝に手を当て俯く。
「どうしたの?お兄様、ホリーは伯爵令嬢だもの、正式に申し込めば良いんじゃない?」
侯爵家の令息と伯爵家の令嬢、身分は釣り合うのだ。
俯いたままのグレッグをチラッと見てから、ジーンが口を開く。
「…お嬢様、ロビンソン伯爵家はホリー嬢と妹の二人姉妹で男性の兄弟はいらっしゃいません」
「あ、ホリーはお婿さんを貰わないといけないのね!」
この国では女性が爵位を継げるのは、爵位を持つ夫が亡くなった場合のみで、それも子供が成人するまでか、親類などの男性に爵位を譲るまでの期間限定だ。
姉妹しかいない家では婿を迎え、夫が爵位を継ぐことになる。
対して、グレッグは侯爵家の嫡男で、アリシアと二人兄妹だった。
「…恋人か、好きな人がいれば諦めがつくと思ったのに」
俯いたままグレッグが呟く。
さっきの剣幕は諦めがつくとかじゃなく、ただホリーに好きな人がいるかもと思って焦ってたようにしか見えなかったわ。
「今のところ、ホリーから好きな人がいるとか聞いてないし、そんな様子はないわ」
「そうか…」
グレッグは俯いたまま動かないので、諦めがつかなくて困っているのか、ホリーに想い人がいなくて喜んでいるのか、判別がつかない。
アリシアはふと思い付いてジーンを見る。
「…ジーンには、いないの?好きな人」
恐る恐る口にすると、ジーンの無表情が一瞬崩れる。眉を少し寄せただけで「いません」と言ったが、アリシアは確信していた。
…いるんだわ。
-----
誰かしら。私の知ってる人?
ジーンとは学年も違うし、学園の生徒だったら私の知らない人かも。
…舞踏会でお兄様もジーンも女の子に囲まれていたわ。もしかして、あの中にいたのかしら。
ジーンは誰とも踊っていなかったと思うけど、実はこっそり誰かと親しくなってたの?
春期の終わりの舞踏会に、アリシアはもちろんパリヤにエスコートされて参加した。グレッグとジーンは誰もエスコートする事はなかったが、見目麗しい二人は多くの女生徒に囲まれていた。
グレッグはアリシアをダンスに誘ってくれたが、舞踏会の間ジーンがアリシアに近寄る事はなかった。
「アリシア」
…ジーンが…誰かを好きになるなんて…。
「アリシア、どうしたの?」
アリシアがハッとして俯いた顔を上げると、パリヤが覗き込んでいた。
「殿下…何でもありませんわ」
今日は王宮でパリヤと一緒に周辺諸国の歴史とこの国との関わりの講義を受けていた。
「講義が終わっても俯いたままだから、気分でも悪いのかと思ったよ」
パリヤがニコリと笑う。
「ご心配お掛けして申し訳ありません。大丈夫ですわ」
「いや、折角の夏季休暇なのにアリシアも王宮に通い詰めで疲れているんだろう。お茶にしよう」
勉強部屋から出て、庭に用意されたテーブルに着く。
「そうですわね。兄は今日から別荘へ行ってしまいましたし…少々羨ましいです。殿下もお疲れでしょう?」
「そうだね。別荘かあ~いいなあ」
パリヤが伸びをしながら言った。
アリシアは、さりげなくジーンの好きな人を探ろうかと思っていたが、ジーンは兄に伴って別荘へ行ってしまった。
しかし、ジーンの好きな人を知りたい気持ちと、知りたくない気持ちがある。離れて焦ったい気持ちとホッとした気持ちでアリシアは複雑な心境だった。
秋期が始まり、アリシアがホリーに「好きな人とか、いるの?」と聞いてみると、軽く手を振って「いないいない」といわれた。それをグレッグに報告すると、グレッグもまた複雑な表情をしていたのだった。
「アリシア、ホリーは恋人がいるのかな?婚約はしていないようだけど…」
アリシアが2年生になった夏季休暇、4年生になったグレッグが唐突にアリシアに言った。
「恋人はいないけど…」
「けど!?」
ソファの向かいに座ったグレッグが喰い気味に言う。
「すっ…好きな人がいるとか!?」
ソファから腰を浮かせてアリシアへ迫る。
「お兄様、近い!怖い怖い!な、何?お兄様、ホリーが好きなの!?」
アリシアが言うと、グレッグは頬を赤くしてソファに座り直す。
黙ってしまったグレッグを見て、アリシアはグレッグの後ろに控えているジーンを見る。
「ジーン、そうなの?」
「そのようです」
ジーンは無表情で答える。グレッグの顔はますます赤くなった。
「ふーん。ホリーは明るくてかわいくていい子だもの、お兄様見る目あるわ」
アリシアが顎に手を当てて頷くと、グレッグははーっとため息を吐きながら膝に手を当て俯く。
「どうしたの?お兄様、ホリーは伯爵令嬢だもの、正式に申し込めば良いんじゃない?」
侯爵家の令息と伯爵家の令嬢、身分は釣り合うのだ。
俯いたままのグレッグをチラッと見てから、ジーンが口を開く。
「…お嬢様、ロビンソン伯爵家はホリー嬢と妹の二人姉妹で男性の兄弟はいらっしゃいません」
「あ、ホリーはお婿さんを貰わないといけないのね!」
この国では女性が爵位を継げるのは、爵位を持つ夫が亡くなった場合のみで、それも子供が成人するまでか、親類などの男性に爵位を譲るまでの期間限定だ。
姉妹しかいない家では婿を迎え、夫が爵位を継ぐことになる。
対して、グレッグは侯爵家の嫡男で、アリシアと二人兄妹だった。
「…恋人か、好きな人がいれば諦めがつくと思ったのに」
俯いたままグレッグが呟く。
さっきの剣幕は諦めがつくとかじゃなく、ただホリーに好きな人がいるかもと思って焦ってたようにしか見えなかったわ。
「今のところ、ホリーから好きな人がいるとか聞いてないし、そんな様子はないわ」
「そうか…」
グレッグは俯いたまま動かないので、諦めがつかなくて困っているのか、ホリーに想い人がいなくて喜んでいるのか、判別がつかない。
アリシアはふと思い付いてジーンを見る。
「…ジーンには、いないの?好きな人」
恐る恐る口にすると、ジーンの無表情が一瞬崩れる。眉を少し寄せただけで「いません」と言ったが、アリシアは確信していた。
…いるんだわ。
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誰かしら。私の知ってる人?
ジーンとは学年も違うし、学園の生徒だったら私の知らない人かも。
…舞踏会でお兄様もジーンも女の子に囲まれていたわ。もしかして、あの中にいたのかしら。
ジーンは誰とも踊っていなかったと思うけど、実はこっそり誰かと親しくなってたの?
春期の終わりの舞踏会に、アリシアはもちろんパリヤにエスコートされて参加した。グレッグとジーンは誰もエスコートする事はなかったが、見目麗しい二人は多くの女生徒に囲まれていた。
グレッグはアリシアをダンスに誘ってくれたが、舞踏会の間ジーンがアリシアに近寄る事はなかった。
「アリシア」
…ジーンが…誰かを好きになるなんて…。
「アリシア、どうしたの?」
アリシアがハッとして俯いた顔を上げると、パリヤが覗き込んでいた。
「殿下…何でもありませんわ」
今日は王宮でパリヤと一緒に周辺諸国の歴史とこの国との関わりの講義を受けていた。
「講義が終わっても俯いたままだから、気分でも悪いのかと思ったよ」
パリヤがニコリと笑う。
「ご心配お掛けして申し訳ありません。大丈夫ですわ」
「いや、折角の夏季休暇なのにアリシアも王宮に通い詰めで疲れているんだろう。お茶にしよう」
勉強部屋から出て、庭に用意されたテーブルに着く。
「そうですわね。兄は今日から別荘へ行ってしまいましたし…少々羨ましいです。殿下もお疲れでしょう?」
「そうだね。別荘かあ~いいなあ」
パリヤが伸びをしながら言った。
アリシアは、さりげなくジーンの好きな人を探ろうかと思っていたが、ジーンは兄に伴って別荘へ行ってしまった。
しかし、ジーンの好きな人を知りたい気持ちと、知りたくない気持ちがある。離れて焦ったい気持ちとホッとした気持ちでアリシアは複雑な心境だった。
秋期が始まり、アリシアがホリーに「好きな人とか、いるの?」と聞いてみると、軽く手を振って「いないいない」といわれた。それをグレッグに報告すると、グレッグもまた複雑な表情をしていたのだった。
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