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学園へは15歳で入学し、四年間学び18歳で卒業する。貴族の令息令嬢は15歳までは家庭教師に学び学園へ入学するが、貴族でない者は家の都合により5歳から10歳には初等教育校へ入学し、数年間字や計算などを学び、成績優秀者やお金のある商家の子供などが15歳で学園へと入学する。
ウィルフィス家は同い年の嫡男と執事の息子に、一緒に家庭教師に学ばせ、同じように学園へ通わせた。
学園は一学年が春期、秋期、冬期の三月期制で、春期と秋期の間に約二ヶ月の夏季休暇、秋期と冬期の間、冬期と春期の間にそれぞれ約二週間の休暇がある。
何か…変わった?…大人っぽくなってる。
夏季休暇が始まり、揃ってウィルフィス公爵邸へ帰って来たグレッグとジーンを見て、アリシアは思った。
グレッグもジーンも背が伸びて顔立ちも大人びていた。春よりもグレッグは灰色の髪が伸びて、ジーンの黒髪は短くなっている。
アリシアがグレッグの部屋に入ると、グレッグはソファに座り、ジーンはグレッグの後ろに立っていた。グレッグに促されて向かい側に座る。
学園の寮に侍女侍従やメイドは連れて行けないため、グレッグが帰宅している時のみグレッグ付きとなるウィルフィス家の侍女、ケイトがお茶の準備をしていた。
「お帰りなさい。グレイ兄様、ジーン兄様」
二人に言うと、ジーンが難しい表情で「お嬢様」と言った。
「ジーン兄様?今までグレイ兄様と三人の時、そんな呼び方しなかったのに。どうしたの?」
アリシアがきょとんとして言うと
「ケジメです。本来使用人である私が気安く接して来たのが間違いですから。お嬢様は王太子殿下の婚約者でもありますし。お嬢様ももう『ジーン兄様』とは呼ばないで下さい」
ジーンは真面目な顔で言う。
「…じゃあ何て呼ぶの?」
アリシアの声は震えていた。
「ジーンと。呼び捨てで」
線を引かれたんだ。
アリシアは思った。
大人っぽくなったジーンがより遠くに感じた。
「そう…分かったわ」
アリシアはそう言って、ふらりと立ち上がると部屋を出て行った。
アリシアが出て行ったドアを見て、グレッグはジーンに言う。
「あんな突き放した言い方じゃなくても良かったんじゃない?あれ、大分ショック受けてるよ」
「…どんな言い方したって同じさ。ケイト、後は俺がやる」
ジーンは侍女に退出するように言い、ケイトはティーカップに紅茶を注いでから部屋を出て行く。
紅茶の入ったカップを両手に持ち、一つをグレッグの前に置くと、もう一つを持ったまま、ジーンはグレッグの向かい側に座った。
「お前が俺とケイトの前でだけ、砕けた態度取ってるって知られたら、俺アリシアに怒られるだろうなぁ」
「知られないように上手くやるさ。それに、知られたとしても、王太子殿下の婚約者殿に気安く接する訳にいかないのには変わりがない」
ジーンは苦々しい表情で紅茶を一口飲んだ。
アリシアが部屋に戻るとダイアナが声を掛けて来る。
「どうされました?アリシア様」
「…どうもしないわ」
ベッドの側まで歩いて行く。
「お顔が暗いですわ」
「ジーン兄様…ジーンにもう『兄様』と呼ぶなと言われただけ」
アリシアはそのままベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
「それは…パリヤ殿下が正式に立太子されて、アリシア様が王太子殿下の婚約者という立場になられたから…」
ダイアナの言葉にアリシアは枕に顔を埋めたまま
「『第一王子殿下の婚約者』と『王太子殿下の婚約者』ってそんなに立場が違うの?」
とダイアナに問う。
「…そうです」
そうダイアナが答えると、アリシアは枕をぎゅっと握った。
ジーン兄様…もう昔みたいに遊んでくれたり…笑ってくれたりしないのかな…?
もう「アリシア」って、名前で呼んでくれないの…?
先程のジーンの真面目な表情を思い出し、じんわりと目頭が熱くなる。アリシアは枕にますます顔を埋めた。
無邪気に「お姫様になれる」と喜んでいたパリヤとの婚約だったが、アリシアはこの婚約を初めて疎ましく感じていた。
学園へは15歳で入学し、四年間学び18歳で卒業する。貴族の令息令嬢は15歳までは家庭教師に学び学園へ入学するが、貴族でない者は家の都合により5歳から10歳には初等教育校へ入学し、数年間字や計算などを学び、成績優秀者やお金のある商家の子供などが15歳で学園へと入学する。
ウィルフィス家は同い年の嫡男と執事の息子に、一緒に家庭教師に学ばせ、同じように学園へ通わせた。
学園は一学年が春期、秋期、冬期の三月期制で、春期と秋期の間に約二ヶ月の夏季休暇、秋期と冬期の間、冬期と春期の間にそれぞれ約二週間の休暇がある。
何か…変わった?…大人っぽくなってる。
夏季休暇が始まり、揃ってウィルフィス公爵邸へ帰って来たグレッグとジーンを見て、アリシアは思った。
グレッグもジーンも背が伸びて顔立ちも大人びていた。春よりもグレッグは灰色の髪が伸びて、ジーンの黒髪は短くなっている。
アリシアがグレッグの部屋に入ると、グレッグはソファに座り、ジーンはグレッグの後ろに立っていた。グレッグに促されて向かい側に座る。
学園の寮に侍女侍従やメイドは連れて行けないため、グレッグが帰宅している時のみグレッグ付きとなるウィルフィス家の侍女、ケイトがお茶の準備をしていた。
「お帰りなさい。グレイ兄様、ジーン兄様」
二人に言うと、ジーンが難しい表情で「お嬢様」と言った。
「ジーン兄様?今までグレイ兄様と三人の時、そんな呼び方しなかったのに。どうしたの?」
アリシアがきょとんとして言うと
「ケジメです。本来使用人である私が気安く接して来たのが間違いですから。お嬢様は王太子殿下の婚約者でもありますし。お嬢様ももう『ジーン兄様』とは呼ばないで下さい」
ジーンは真面目な顔で言う。
「…じゃあ何て呼ぶの?」
アリシアの声は震えていた。
「ジーンと。呼び捨てで」
線を引かれたんだ。
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大人っぽくなったジーンがより遠くに感じた。
「そう…分かったわ」
アリシアはそう言って、ふらりと立ち上がると部屋を出て行った。
アリシアが出て行ったドアを見て、グレッグはジーンに言う。
「あんな突き放した言い方じゃなくても良かったんじゃない?あれ、大分ショック受けてるよ」
「…どんな言い方したって同じさ。ケイト、後は俺がやる」
ジーンは侍女に退出するように言い、ケイトはティーカップに紅茶を注いでから部屋を出て行く。
紅茶の入ったカップを両手に持ち、一つをグレッグの前に置くと、もう一つを持ったまま、ジーンはグレッグの向かい側に座った。
「お前が俺とケイトの前でだけ、砕けた態度取ってるって知られたら、俺アリシアに怒られるだろうなぁ」
「知られないように上手くやるさ。それに、知られたとしても、王太子殿下の婚約者殿に気安く接する訳にいかないのには変わりがない」
ジーンは苦々しい表情で紅茶を一口飲んだ。
アリシアが部屋に戻るとダイアナが声を掛けて来る。
「どうされました?アリシア様」
「…どうもしないわ」
ベッドの側まで歩いて行く。
「お顔が暗いですわ」
「ジーン兄様…ジーンにもう『兄様』と呼ぶなと言われただけ」
アリシアはそのままベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
「それは…パリヤ殿下が正式に立太子されて、アリシア様が王太子殿下の婚約者という立場になられたから…」
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ジーン兄様…もう昔みたいに遊んでくれたり…笑ってくれたりしないのかな…?
もう「アリシア」って、名前で呼んでくれないの…?
先程のジーンの真面目な表情を思い出し、じんわりと目頭が熱くなる。アリシアは枕にますます顔を埋めた。
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