上 下
3 / 33

2

しおりを挟む
2

 学園へは15歳で入学し、四年間学び18歳で卒業する。貴族の令息令嬢は15歳までは家庭教師に学び学園へ入学するが、貴族でない者は家の都合により5歳から10歳には初等教育校へ入学し、数年間字や計算などを学び、成績優秀者やお金のある商家の子供などが15歳で学園へと入学する。
 ウィルフィス家は同い年の嫡男と執事の息子に、一緒に家庭教師に学ばせ、同じように学園へ通わせた。

 学園は一学年が春期、秋期、冬期の三月期制で、春期と秋期の間に約二ヶ月の夏季休暇、秋期と冬期の間、冬期と春期の間にそれぞれ約二週間の休暇がある。

  何か…変わった?…大人っぽくなってる。

 夏季休暇が始まり、揃ってウィルフィス公爵邸へ帰って来たグレッグとジーンを見て、アリシアは思った。
 グレッグもジーンも背が伸びて顔立ちも大人びていた。春よりもグレッグは灰色の髪が伸びて、ジーンの黒髪は短くなっている。

 アリシアがグレッグの部屋に入ると、グレッグはソファに座り、ジーンはグレッグの後ろに立っていた。グレッグに促されて向かい側に座る。
 学園の寮に侍女侍従やメイドは連れて行けないため、グレッグが帰宅している時のみグレッグ付きとなるウィルフィス家の侍女、ケイトがお茶の準備をしていた。
「お帰りなさい。グレイ兄様、ジーン兄様」
 二人に言うと、ジーンが難しい表情かおで「お嬢様」と言った。
「ジーン兄様?今までグレイ兄様と三人の時、そんな呼び方しなかったのに。どうしたの?」
 アリシアがきょとんとして言うと
「ケジメです。本来使用人である私が気安く接して来たのが間違いですから。お嬢様は王太子殿下の婚約者でもありますし。お嬢様ももう『ジーン兄様』とは呼ばないで下さい」
 ジーンは真面目な顔で言う。
「…じゃあ何て呼ぶの?」
 アリシアの声は震えていた。
「ジーンと。呼び捨てで」

 線を引かれたんだ。

 アリシアは思った。
 大人っぽくなったジーンがより遠くに感じた。

「そう…分かったわ」
 アリシアはそう言って、ふらりと立ち上がると部屋を出て行った。
 アリシアが出て行ったドアを見て、グレッグはジーンに言う。
「あんな突き放した言い方じゃなくても良かったんじゃない?あれ、大分ショック受けてるよ」
「…どんな言い方したって同じさ。ケイト、後は俺がやる」
 ジーンは侍女に退出するように言い、ケイトはティーカップに紅茶を注いでから部屋を出て行く。
 紅茶の入ったカップを両手に持ち、一つをグレッグの前に置くと、もう一つを持ったまま、ジーンはグレッグの向かい側に座った。
「お前が俺とケイトの前でだけ、砕けた態度取ってるって知られたら、俺アリシアに怒られるだろうなぁ」
「知られないように上手くやるさ。それに、知られたとしても、王太子殿下の婚約者殿に気安く接する訳にいかないのには変わりがない」
 ジーンは苦々しい表情で紅茶を一口飲んだ。

 アリシアが部屋に戻るとダイアナが声を掛けて来る。
「どうされました?アリシア様」
「…どうもしないわ」
 ベッドの側まで歩いて行く。
「お顔が暗いですわ」
「ジーン兄様…ジーンにもう『兄様』と呼ぶなと言われただけ」
 アリシアはそのままベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
「それは…パリヤ殿下が正式に立太子されて、アリシア様が王太子殿下の婚約者という立場になられたから…」
 ダイアナの言葉にアリシアは枕に顔を埋めたまま
「『第一王子殿下の婚約者』と『王太子殿下の婚約者』ってそんなに立場が違うの?」
 とダイアナに問う。
「…そうです」
 そうダイアナが答えると、アリシアは枕をぎゅっと握った。

 ジーン兄様…もう昔みたいに遊んでくれたり…笑ってくれたりしないのかな…?
 もう「アリシア」って、名前で呼んでくれないの…?

 先程のジーンの真面目な表情を思い出し、じんわりと目頭が熱くなる。アリシアは枕にますます顔を埋めた。

 無邪気に「お姫様になれる」と喜んでいたパリヤとの婚約だったが、アリシアはこの婚約を初めて疎ましく感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

処理中です...