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オリビアが目を覚ますと、馬車の座席でダグラスに抱きしめられ二人で横になっていた。
広めの座席だが、二人が横になるとギリギリで、背もたれ側のオリビアは良いがダグラスは動くと座席から落ちそうだ。
ダグラスも…眠っているの?
自分の胸元に押し付けるようにオリビアの頭をダグラスの手が押さえている。
身動きできないが、嫌ではない。
久しぶりに深く眠れた気がする。
心臓の音と、包み込まれる感じ、すごく安心する…。
「…目が覚めたか?」
ダグラスはそう声を掛けると、オリビアの頭を撫でる。
「起きてたの?」
「ああ。眠れたか?」
「…うん。心臓の音って安心するのね」
「そうか。良かった」
ダグラスはそっとオリビアの頭と背中に回した手を緩めると、座席から降りる。
自分を包んでいた暖かさがなくなって、オリビアはふるっと身震いした。
-----
次の街までは遠く、途中に宿もなく、山越えの道になるので夜通し馬車を走らせる事にする。
「この山は盗賊が出たりするから馬車を停めずに一気に走る」
馬車でダグラスが地図を見ながら言うと、オリビアも向かい側から地図を覗き込む。
「盗賊が?」
「冬は雪があるからあまり出ないんだが…」
「あー足跡が残るものね」
ダグラスは普段はしない帯剣をしている。
「オリビアも、何があっても良いように、外に出られる服装でいてくれ」
「分かったわ」
ダグラスが外へ出ている時に動きやすいよう膝丈スカートに着替えてブーツを履く。パリスの手紙が入ったバッグを腰のベルトへ括り付けた。
夜の山道を馬車が走る。
「雪は深いの?」
「雪は膝下くらいだが、凍結しているから速度が出せないな」
「そう…」
バンッ!
その時、大きな破裂音がし、馬車が急減速する。
「きゃあ」
「オリビア!」
慣性で座席から落ちそうになるオリビアをダグラスが抱き止める。
馬車は凍結路で滑りながらも停まった。
「…来たか。オリビア、俺が出たら馬車の扉に鍵を掛けろ」
「うん。ダグラス気を付けて」
ダグラスは眼鏡を外し胸ポケットへ入れると、腰の剣に手をやりながら馬車の扉を開けて飛び降りて行く。オリビアは扉を閉めると鍵を掛け、馬車の床へ座り込んだ。
「ルイ!」
ダグラスの声が聞こえて、馬車の外が騒々と騒つく。馬車の窓にチラチラと灯りが映る。
「…!」「……!!」何を言っているのか分からないが、怒鳴り声と剣を交える高い金属音が聞こえる。
時々何かがぶつかる音がして馬車が揺れた。
オリビアは身を小さくして震える両腕で自分を抱きしめた。
バアンッと言う音と共に、一際大きく馬車が揺れて馬車の内部の灯りが消えた。
「…いや」
暗闇でオリビアはますます身を小さくする。馬車の扉にバンッとぶつかる音がした。
扉を開けようと体当たりをしているのか、何度も何度も衝撃音がする。
「…嫌」
オリビアは小さく呟くと、扉から離れるように後退りし、壁に背中を着ける。
すると、オリビアの頭の上にある窓がガシャンッと音を立てて割れた。
窓から男の手が伸びてきてオリビアの髪を掴む。
「いや!いやああ!!」
「…捕まえた」
低い低い男の声。
「嫌ぁ!ジル!助けて!」
思わず叫ぶオリビア。その時、扉の前の輩を制して、ダグラスが馬車の扉を開けた。
「オリビア!」
ダグラスは馬車へ飛び込むと、オリビアの髪を掴む男目掛けて短剣を投げる。男が手を離した隙にオリビアの身体を引き寄せた。
外で揉み合う音がして、やがて静かになった。
「オリビア、大丈夫か?」
ダグラスがオリビアの顔を覗き込む。オリビアは血の気が引いた顔で震えながら頷く。
「…ダグラス…怪我は?」
「俺は大丈夫だ」
「良かった…」
オリビアはホッと息を吐くと、力を抜いてダグラスに身体を預けた。
ダグラスはオリビアを抱き込み髪を撫でる。
「怖い思いをさせてごめん」
「ダグラスのせいじゃないわ」
オリビアがそう言った時、馬車の扉の方から声がする。
「オリビア様」
…この声。
オリビアは勢いよく顔を上げると、声の主を見る。
「ジル…」
懐かしい顔が、難しい表情で自分を見ていた。
オリビアが目を覚ますと、馬車の座席でダグラスに抱きしめられ二人で横になっていた。
広めの座席だが、二人が横になるとギリギリで、背もたれ側のオリビアは良いがダグラスは動くと座席から落ちそうだ。
ダグラスも…眠っているの?
自分の胸元に押し付けるようにオリビアの頭をダグラスの手が押さえている。
身動きできないが、嫌ではない。
久しぶりに深く眠れた気がする。
心臓の音と、包み込まれる感じ、すごく安心する…。
「…目が覚めたか?」
ダグラスはそう声を掛けると、オリビアの頭を撫でる。
「起きてたの?」
「ああ。眠れたか?」
「…うん。心臓の音って安心するのね」
「そうか。良かった」
ダグラスはそっとオリビアの頭と背中に回した手を緩めると、座席から降りる。
自分を包んでいた暖かさがなくなって、オリビアはふるっと身震いした。
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次の街までは遠く、途中に宿もなく、山越えの道になるので夜通し馬車を走らせる事にする。
「この山は盗賊が出たりするから馬車を停めずに一気に走る」
馬車でダグラスが地図を見ながら言うと、オリビアも向かい側から地図を覗き込む。
「盗賊が?」
「冬は雪があるからあまり出ないんだが…」
「あー足跡が残るものね」
ダグラスは普段はしない帯剣をしている。
「オリビアも、何があっても良いように、外に出られる服装でいてくれ」
「分かったわ」
ダグラスが外へ出ている時に動きやすいよう膝丈スカートに着替えてブーツを履く。パリスの手紙が入ったバッグを腰のベルトへ括り付けた。
夜の山道を馬車が走る。
「雪は深いの?」
「雪は膝下くらいだが、凍結しているから速度が出せないな」
「そう…」
バンッ!
その時、大きな破裂音がし、馬車が急減速する。
「きゃあ」
「オリビア!」
慣性で座席から落ちそうになるオリビアをダグラスが抱き止める。
馬車は凍結路で滑りながらも停まった。
「…来たか。オリビア、俺が出たら馬車の扉に鍵を掛けろ」
「うん。ダグラス気を付けて」
ダグラスは眼鏡を外し胸ポケットへ入れると、腰の剣に手をやりながら馬車の扉を開けて飛び降りて行く。オリビアは扉を閉めると鍵を掛け、馬車の床へ座り込んだ。
「ルイ!」
ダグラスの声が聞こえて、馬車の外が騒々と騒つく。馬車の窓にチラチラと灯りが映る。
「…!」「……!!」何を言っているのか分からないが、怒鳴り声と剣を交える高い金属音が聞こえる。
時々何かがぶつかる音がして馬車が揺れた。
オリビアは身を小さくして震える両腕で自分を抱きしめた。
バアンッと言う音と共に、一際大きく馬車が揺れて馬車の内部の灯りが消えた。
「…いや」
暗闇でオリビアはますます身を小さくする。馬車の扉にバンッとぶつかる音がした。
扉を開けようと体当たりをしているのか、何度も何度も衝撃音がする。
「…嫌」
オリビアは小さく呟くと、扉から離れるように後退りし、壁に背中を着ける。
すると、オリビアの頭の上にある窓がガシャンッと音を立てて割れた。
窓から男の手が伸びてきてオリビアの髪を掴む。
「いや!いやああ!!」
「…捕まえた」
低い低い男の声。
「嫌ぁ!ジル!助けて!」
思わず叫ぶオリビア。その時、扉の前の輩を制して、ダグラスが馬車の扉を開けた。
「オリビア!」
ダグラスは馬車へ飛び込むと、オリビアの髪を掴む男目掛けて短剣を投げる。男が手を離した隙にオリビアの身体を引き寄せた。
外で揉み合う音がして、やがて静かになった。
「オリビア、大丈夫か?」
ダグラスがオリビアの顔を覗き込む。オリビアは血の気が引いた顔で震えながら頷く。
「…ダグラス…怪我は?」
「俺は大丈夫だ」
「良かった…」
オリビアはホッと息を吐くと、力を抜いてダグラスに身体を預けた。
ダグラスはオリビアを抱き込み髪を撫でる。
「怖い思いをさせてごめん」
「ダグラスのせいじゃないわ」
オリビアがそう言った時、馬車の扉の方から声がする。
「オリビア様」
…この声。
オリビアは勢いよく顔を上げると、声の主を見る。
「ジル…」
懐かしい顔が、難しい表情で自分を見ていた。
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