上 下
18 / 48

17

しおりを挟む
17

 オリビアが目を覚ますと、馬車の座席でダグラスに抱きしめられ二人で横になっていた。
 広めの座席だが、二人が横になるとギリギリで、背もたれ側のオリビアは良いがダグラスは動くと座席から落ちそうだ。

 ダグラスも…眠っているの?

 自分の胸元に押し付けるようにオリビアの頭をダグラスの手が押さえている。
 身動きできないが、嫌ではない。

 久しぶりに深く眠れた気がする。
 心臓の音と、包み込まれる感じ、すごく安心する…。

「…目が覚めたか?」
 ダグラスはそう声を掛けると、オリビアの頭を撫でる。
「起きてたの?」
「ああ。眠れたか?」
「…うん。心臓の音って安心するのね」
「そうか。良かった」
 ダグラスはそっとオリビアの頭と背中に回した手を緩めると、座席から降りる。
 自分を包んでいた暖かさがなくなって、オリビアはふるっと身震いした。
 
-----

 次の街までは遠く、途中に宿もなく、山越えの道になるので夜通し馬車を走らせる事にする。
「この山は盗賊が出たりするから馬車を停めずに一気に走る」
 馬車でダグラスが地図を見ながら言うと、オリビアも向かい側から地図を覗き込む。
「盗賊が?」
「冬は雪があるからあまり出ないんだが…」
「あー足跡が残るものね」
 ダグラスは普段はしない帯剣をしている。
「オリビアも、何があっても良いように、外に出られる服装でいてくれ」
「分かったわ」
 ダグラスが外へ出ている時に動きやすいよう膝丈スカートに着替えてブーツを履く。パリスの手紙が入ったバッグを腰のベルトへ括り付けた。

 夜の山道を馬車が走る。
「雪は深いの?」
「雪は膝下くらいだが、凍結しているから速度が出せないな」
「そう…」

 バンッ!
 その時、大きな破裂音がし、馬車が急減速する。
「きゃあ」
「オリビア!」
 慣性で座席から落ちそうになるオリビアをダグラスが抱き止める。
 馬車は凍結路で滑りながらも停まった。
「…来たか。オリビア、俺が出たら馬車の扉に鍵を掛けろ」
「うん。ダグラス気を付けて」
 ダグラスは眼鏡を外し胸ポケットへ入れると、腰の剣に手をやりながら馬車の扉を開けて飛び降りて行く。オリビアは扉を閉めると鍵を掛け、馬車の床へ座り込んだ。
「ルイ!」
 ダグラスの声が聞こえて、馬車の外が騒々と騒つく。馬車の窓にチラチラと灯りが映る。
 「…!」「……!!」何を言っているのか分からないが、怒鳴り声と剣を交える高い金属音が聞こえる。
 時々何かがぶつかる音がして馬車が揺れた。
 オリビアは身を小さくして震える両腕で自分を抱きしめた。

 バアンッと言う音と共に、一際大きく馬車が揺れて馬車の内部の灯りが消えた。
「…いや」
 暗闇でオリビアはますます身を小さくする。馬車の扉にバンッとぶつかる音がした。
 扉を開けようと体当たりをしているのか、何度も何度も衝撃音がする。
「…嫌」
 オリビアは小さく呟くと、扉から離れるように後退りし、壁に背中を着ける。
 すると、オリビアの頭の上にある窓がガシャンッと音を立てて割れた。
 窓から男の手が伸びてきてオリビアの髪を掴む。
「いや!いやああ!!」
「…捕まえた」
 低い低い男の声。
「嫌ぁ!ジル!助けて!」
 思わず叫ぶオリビア。その時、扉の前の輩を制して、ダグラスが馬車の扉を開けた。
「オリビア!」
 ダグラスは馬車へ飛び込むと、オリビアの髪を掴む男目掛けて短剣を投げる。男が手を離した隙にオリビアの身体を引き寄せた。
 外で揉み合う音がして、やがて静かになった。
「オリビア、大丈夫か?」
 ダグラスがオリビアの顔を覗き込む。オリビアは血の気が引いた顔で震えながら頷く。
「…ダグラス…怪我は?」
「俺は大丈夫だ」
「良かった…」
 オリビアはホッと息を吐くと、力を抜いてダグラスに身体を預けた。
 ダグラスはオリビアを抱き込み髪を撫でる。
「怖い思いをさせてごめん」
「ダグラスのせいじゃないわ」

 オリビアがそう言った時、馬車の扉の方から声がする。
「オリビア様」

 …この声。

 オリビアは勢いよく顔を上げると、声の主を見る。
「ジル…」
 懐かしい顔が、難しい表情かおで自分を見ていた。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

猫に生まれ変わったら憧れの上司に飼われることになりました

西羽咲 花月
恋愛
子猫を助けるために横断歩道へ飛び出してしまった主人公 目が覚めたらなぜか自分が猫になっていて!? 憧れのあの人に拾われて飼われることになっちゃった!? 「みゃあみゃあ」 「みゃあみゃあ鳴くから、お前は今日からミーコだな」 なんて言って優しくなでられたらもう……!

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

転生令嬢と王子の恋人

ねーさん
恋愛
 ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件  って、どこのラノベのタイトルなの!?  第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。  麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?  もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?

復讐からあなたの愛が生まれた

らいち
恋愛
桜井桐子は父親の経営する会社のパーティーで、社員の高遠と出会う。 端正な顔立ちと優しい印象の高遠に惹かれていく桐子だったが、高遠には桐子には言えない秘密があった。 秘密の一端が見えた時、過去のしがらみが動き始める。 お嬢さま育ちの桐子が、一途な思いで恋愛成就と成長を遂げるお話し……。(多分)

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利
恋愛
高校の入学式初日 館 光輝は桜の木の下で眠る少女 須今 安見と出逢う。 彼女は勉強も運動もそつなくこなすが、なによりもすぐに眠たくなってしまい、ところ構わず眠ってしまうこともしばしば。 学校では常に眠たげな彼女とそんな彼女から目が離せない少年の甘酸っぱくて初々しい高校生活を追っていく物語

処理中です...