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ダグラスから渡された封筒には、パリヤの書いたらしい便箋と、ダグラスが書いたらしい便箋の二枚が入っていた。
二枚重ねて折られていたので、上にあったパリヤからのものを先に読む。
【オリビア嬢に手伝って欲しい事がある】
とクセのない綺麗な字で書かれ、是非一度会いたいと書いてある。サインは「パリス・スミス」だった。
「具体的に何を手伝うのか分からないと請負えないわよね…」
そう呟いて、二枚目を読む。
少し右上がりの字。これがダグラスの字だろうか。
中には「ぜひパリスの頼みを聞いて欲しい。頼み事の内容を説明したいので、近い内そちらの領地へ行く。改めてルイを通じて連絡する」と書かれていた。
「何だか面倒な事に巻き込まれそうな予感がヒシヒシするわ…」
オリビアは便箋を封筒に仕舞うと、自分の荷物の入った鞄に押し込んだ。
-----
リネットをエバンス家の別邸へと運び込んだ日、日が変わらない内にバーストン家の騎士たちがやって来た。
思っていたよりも早かったな。
オリビアは応接室に入って来たバーストン家の騎士を見て思った。
抵抗もせず拘束を受け入れ、猿ぐつわをされて馬車に乗せられる。
ここでは手荒には扱われないようでオリビアは安心した。
その内何人かが乗り込んで来て、馬車は動き出す。
あれはセルダ殿下の婚約者だった侯爵令嬢だわ。最後にリネット様を抱いて乗って来たのは学園でよく見掛ける教育機関の管理の人ね。
そうか、リネット様の婚約者はこの人だったわ。
リネットは気を失っているようだ。婚約者に大事そうに抱きかかえられ、愛おしそうに髪を撫でられている。
王子から求婚され、婚約者にも大事にされてるなんて…世の中本当に不公平だわ。
王宮へ運ばれ、その一室へ入れられた。普通の部屋のようだが、ドアは一つしかなく、窓には鉄格子がある。貴族の罪人を入れる部屋なのだろう。
手首と手の親指同士を固定されていたが、足は自由だった。
王宮の騎士が部屋の隅に立って見張っている。
ソファに座り、しばらくすると数人の騎士に父ヒューゴが運ばれて来た。
ドサリと部屋の中のベッドへ放り出されたヒューゴは、手足を拘束され、目隠しと猿ぐつわもされている。
ジタバタとするヒューゴを置いて数人の騎士が出て行く。
お父様、そうとう暴れて暴言も吐いたのね。
オリビアは冷静にヒューゴを見た。
そっとソファを立つと、ベッドの側に行く。部屋の隅の騎士が緊張した面持ちでこちらを見ていた。
「お父様」
声を掛けると「ううっ」と唸りながらますますジタバタと手足を動かそうとする。
「…こうなる事は予想できましたよね?」
オリビアが穏やかに言うと、ヒューゴの動きが止まる。
「何故ここまでして…私は王太子妃にならないといけなかったのですか?」
ヒューゴは身じろぎもしない。
オリビアの目から涙が溢れた。
「オリビア!」
その時、部屋に母ナタリーと兄オスカーが入って来た。
「お母様、お兄様」
母と兄は拘束されていない。この誘拐事件とは無関係と認められたのだろう。
「オリビア、大丈夫なの?」
ナタリーは真っ直ぐオリビアへ駆け寄る。
「オリビアの拘束、取ってやる訳にはいかないのですか?」
オスカーは部屋の隅の騎士に聞く。騎士は首を横に振る。
言いたい事は沢山あるはずなのに、まずオリビアを気遣ってくれる母と兄に、オリビアの涙腺は崩壊した。
「おかあさま~おにいさま~ごめんなさい~!」
子供のように泣きじゃくるオリビアをナタリーとオスカーはそっと抱きしめてくれた。
その後、取り調べや裁判などがあったが、オリビアには正直あまりその辺りの記憶がない。相当な混乱状態だったのだな、と自己分析している。
春にはエバンス侯爵家の取り潰しが決まり、ヒューゴとオリビアは王都を追放される事となった。
若い令嬢の誘拐事件という事で、事件が表沙汰にならないよう配慮をして処分が決められたため、あからさまで目に見える懲罰は与えられなかったのだ。
一家は母方の遠い親戚のセヴァリー子爵家を頼って王都を立つ事になった。
その王都を立つ、前の夜、オリビアは誘拐されたのだ。
ダグラスから渡された封筒には、パリヤの書いたらしい便箋と、ダグラスが書いたらしい便箋の二枚が入っていた。
二枚重ねて折られていたので、上にあったパリヤからのものを先に読む。
【オリビア嬢に手伝って欲しい事がある】
とクセのない綺麗な字で書かれ、是非一度会いたいと書いてある。サインは「パリス・スミス」だった。
「具体的に何を手伝うのか分からないと請負えないわよね…」
そう呟いて、二枚目を読む。
少し右上がりの字。これがダグラスの字だろうか。
中には「ぜひパリスの頼みを聞いて欲しい。頼み事の内容を説明したいので、近い内そちらの領地へ行く。改めてルイを通じて連絡する」と書かれていた。
「何だか面倒な事に巻き込まれそうな予感がヒシヒシするわ…」
オリビアは便箋を封筒に仕舞うと、自分の荷物の入った鞄に押し込んだ。
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リネットをエバンス家の別邸へと運び込んだ日、日が変わらない内にバーストン家の騎士たちがやって来た。
思っていたよりも早かったな。
オリビアは応接室に入って来たバーストン家の騎士を見て思った。
抵抗もせず拘束を受け入れ、猿ぐつわをされて馬車に乗せられる。
ここでは手荒には扱われないようでオリビアは安心した。
その内何人かが乗り込んで来て、馬車は動き出す。
あれはセルダ殿下の婚約者だった侯爵令嬢だわ。最後にリネット様を抱いて乗って来たのは学園でよく見掛ける教育機関の管理の人ね。
そうか、リネット様の婚約者はこの人だったわ。
リネットは気を失っているようだ。婚約者に大事そうに抱きかかえられ、愛おしそうに髪を撫でられている。
王子から求婚され、婚約者にも大事にされてるなんて…世の中本当に不公平だわ。
王宮へ運ばれ、その一室へ入れられた。普通の部屋のようだが、ドアは一つしかなく、窓には鉄格子がある。貴族の罪人を入れる部屋なのだろう。
手首と手の親指同士を固定されていたが、足は自由だった。
王宮の騎士が部屋の隅に立って見張っている。
ソファに座り、しばらくすると数人の騎士に父ヒューゴが運ばれて来た。
ドサリと部屋の中のベッドへ放り出されたヒューゴは、手足を拘束され、目隠しと猿ぐつわもされている。
ジタバタとするヒューゴを置いて数人の騎士が出て行く。
お父様、そうとう暴れて暴言も吐いたのね。
オリビアは冷静にヒューゴを見た。
そっとソファを立つと、ベッドの側に行く。部屋の隅の騎士が緊張した面持ちでこちらを見ていた。
「お父様」
声を掛けると「ううっ」と唸りながらますますジタバタと手足を動かそうとする。
「…こうなる事は予想できましたよね?」
オリビアが穏やかに言うと、ヒューゴの動きが止まる。
「何故ここまでして…私は王太子妃にならないといけなかったのですか?」
ヒューゴは身じろぎもしない。
オリビアの目から涙が溢れた。
「オリビア!」
その時、部屋に母ナタリーと兄オスカーが入って来た。
「お母様、お兄様」
母と兄は拘束されていない。この誘拐事件とは無関係と認められたのだろう。
「オリビア、大丈夫なの?」
ナタリーは真っ直ぐオリビアへ駆け寄る。
「オリビアの拘束、取ってやる訳にはいかないのですか?」
オスカーは部屋の隅の騎士に聞く。騎士は首を横に振る。
言いたい事は沢山あるはずなのに、まずオリビアを気遣ってくれる母と兄に、オリビアの涙腺は崩壊した。
「おかあさま~おにいさま~ごめんなさい~!」
子供のように泣きじゃくるオリビアをナタリーとオスカーはそっと抱きしめてくれた。
その後、取り調べや裁判などがあったが、オリビアには正直あまりその辺りの記憶がない。相当な混乱状態だったのだな、と自己分析している。
春にはエバンス侯爵家の取り潰しが決まり、ヒューゴとオリビアは王都を追放される事となった。
若い令嬢の誘拐事件という事で、事件が表沙汰にならないよう配慮をして処分が決められたため、あからさまで目に見える懲罰は与えられなかったのだ。
一家は母方の遠い親戚のセヴァリー子爵家を頼って王都を立つ事になった。
その王都を立つ、前の夜、オリビアは誘拐されたのだ。
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