上 下
8 / 48

7

しおりを挟む
7

 ダグラスから渡された封筒には、パリヤの書いたらしい便箋と、ダグラスが書いたらしい便箋の二枚が入っていた。
 二枚重ねて折られていたので、上にあったパリヤからのものを先に読む。
【オリビア嬢に手伝って欲しい事がある】
 とクセのない綺麗な字で書かれ、是非一度会いたいと書いてある。サインは「パリス・スミス」だった。
「具体的に何を手伝うのか分からないと請負えないわよね…」
 そう呟いて、二枚目を読む。
 少し右上がりの字。これがダグラスの字だろうか。
 中には「ぜひパリスの頼みを聞いて欲しい。頼み事の内容を説明したいので、近い内そちらの領地へ行く。改めてルイを通じて連絡する」と書かれていた。
「何だか面倒な事に巻き込まれそうな予感がヒシヒシするわ…」
 オリビアは便箋を封筒に仕舞うと、自分の荷物の入った鞄に押し込んだ。

-----

 リネットをエバンス家の別邸へと運び込んだ日、日が変わらない内にバーストン家の騎士たちがやって来た。

 思っていたよりも早かったな。

 オリビアは応接室に入って来たバーストン家の騎士を見て思った。
 抵抗もせず拘束を受け入れ、猿ぐつわをされて馬車に乗せられる。
 ここでは手荒には扱われないようでオリビアは安心した。
 その内何人かが乗り込んで来て、馬車は動き出す。
 
 あれはセルダ殿下の婚約者だった侯爵令嬢だわ。最後にリネット様を抱いて乗って来たのは学園でよく見掛ける教育機関の管理の人ね。
 そうか、リネット様の婚約者はこの人だったわ。

 リネットは気を失っているようだ。婚約者に大事そうに抱きかかえられ、愛おしそうに髪を撫でられている。
 
 王子から求婚され、婚約者にも大事にされてるなんて…世の中本当に不公平だわ。

 王宮へ運ばれ、その一室へ入れられた。普通の部屋のようだが、ドアは一つしかなく、窓には鉄格子がある。貴族の罪人を入れる部屋なのだろう。
 手首と手の親指同士を固定されていたが、足は自由だった。
 王宮の騎士が部屋の隅に立って見張っている。
 ソファに座り、しばらくすると数人の騎士に父ヒューゴが運ばれて来た。
 ドサリと部屋の中のベッドへ放り出されたヒューゴは、手足を拘束され、目隠しと猿ぐつわもされている。
 ジタバタとするヒューゴを置いて数人の騎士が出て行く。

 お父様、そうとう暴れて暴言も吐いたのね。

 オリビアは冷静にヒューゴを見た。
 そっとソファを立つと、ベッドの側に行く。部屋の隅の騎士が緊張した面持ちでこちらを見ていた。
「お父様」
 声を掛けると「ううっ」と唸りながらますますジタバタと手足を動かそうとする。
「…こうなる事は予想できましたよね?」
 オリビアが穏やかに言うと、ヒューゴの動きが止まる。
「何故ここまでして…私は王太子妃にならないといけなかったのですか?」
 ヒューゴは身じろぎもしない。
 オリビアの目から涙が溢れた。
「オリビア!」
 その時、部屋に母ナタリーと兄オスカーが入って来た。
「お母様、お兄様」
 母と兄は拘束されていない。この誘拐事件とは無関係と認められたのだろう。
「オリビア、大丈夫なの?」
 ナタリーは真っ直ぐオリビアへ駆け寄る。
「オリビアの拘束、取ってやる訳にはいかないのですか?」
 オスカーは部屋の隅の騎士に聞く。騎士は首を横に振る。
 言いたい事は沢山あるはずなのに、まずオリビアを気遣ってくれる母と兄に、オリビアの涙腺は崩壊した。
「おかあさま~おにいさま~ごめんなさい~!」
 子供のように泣きじゃくるオリビアをナタリーとオスカーはそっと抱きしめてくれた。

 その後、取り調べや裁判などがあったが、オリビアには正直あまりその辺りの記憶がない。相当な混乱状態だったのだな、と自己分析している。

 春にはエバンス侯爵家の取り潰しが決まり、ヒューゴとオリビアは王都を追放される事となった。
 若い令嬢の誘拐事件という事で、事件が表沙汰にならないよう配慮をして処分が決められたため、あからさまで目に見える懲罰は与えられなかったのだ。
 一家は母方の遠い親戚のセヴァリー子爵家を頼って王都を立つ事になった。

 その王都を立つ、前の夜、オリビアは誘拐されたのだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

公爵家のご令嬢は婚約者に裏切られて~愛と溺愛のrequiem~

一ノ瀬 彩音
恋愛
婚約者に裏切られた貴族令嬢。 貴族令嬢はどうするのか? ※この物語はフィクションです。 本文内の事は決してマネしてはいけません。 「公爵家のご令嬢は婚約者に裏切られて~愛と復讐のrequiem~」のタイトルを変更いたしました。 この作品はHOTランキング9位をお取りしたのですが、 作者(著者)が未熟なのに誠に有難う御座います。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

虐げられた公爵令嬢は、隣国の白蛇王に溺愛される

束原ミヤコ
恋愛
フェリシアは、公爵家の令嬢である。 だが、母が死に、戦地の父が愛人と子供を連れて戻ってきてからは、屋根裏部屋に閉じ込められて、家の中での居場所を失った。 ある日フェリシアは、アザミの茂みの中で、死にかけている白い蛇を拾った。 王国では、とある理由から動物を飼うことは禁止されている。 だがフェリシアは、蛇を守ることができるのは自分だけだと、密やかに蛇を飼うことにして──。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

処理中です...