7 / 48
6
しおりを挟む
6
馬車の中でリネットが目を覚ましかけると、男性が鳩尾に拳を打ち込んだ。
「乱暴しないで!」
オリビアが言うと、男性は「オリビア様は甘い」とニヤリと笑った。
「…傷付けたくはないのよ」
呟くオリビア。ニヤニヤ笑う男性と、無表情の女性。
馬車がエバンス家の別邸の前に停まった時、オリビアは口を開いた。
「遅くとも、明日にはこの企みがエバンス家の仕業だと露呈するわ。貴方達とは今日でお別れよ」
男性は無言でリネットを抱くと、別邸へ入って行く。
女性はほんの少し片眉を上げてオリビアを見た。
「…捕まらないようにね」
オリビアは小さく呟くと、女性から目を逸らし別邸へ入る。女性はそのまま無言でオリビアを見送った。
あらかじめ用意していた部屋へ、腕と足へ縄をかけ布で口を塞いだリネットを置いて、男性も居なくなっていた。
…これで良いわ。
リネット様は明日の朝には解放するつもりだけれど、それまでに誰かに探し出されるかも知れないわね。
ふと気付くと、リネットが持っていた封筒がベッドサイドのテーブルに置いてあった。オリビアはその封筒を手に取り、中を覗く。
リネットが生徒会室に来た時は何も持っていなかった。今はこの封筒を持っている。つまり、セルダから渡された物であろう。
封筒の中にはドレスのデザイン画が沢山入っていた。
「セルダ殿下がリネット様にドレスを贈る、という事よね。これは」
気を失っているリネットを見下ろして呟く。
決して王太子妃になりたい訳ではないけれど…何故私はこんな事までしているのに、リネット様は何の努力もなしに王太子妃になれる権利を手にしているの?
理不尽な怒りが湧いてくる。
オリビアは大きく息を吸い、そして吐く。
とにかく、リネットがセルダの意中の令嬢である事は間違いなさそうだ。
オリビアが捕らえられるのはもう覚悟しているが、せめて父の言う通りの令嬢の「醜聞」を作る事ができて安堵する。
オリビアは封筒を置くと部屋を出た。
-----
コンコンと部屋のドアがノックされた。
お義母様?…まだ戻るには早いわよね。
オリビアはそろりとドアへ近付くと「誰?」と小さな声で聞く。
「ダグラス・チャンドラーだ」
「え?」
先程ダグラスと別れた時「また連絡する」と言っていたが、部屋に来るとは言っていなかった。
「本物?」
オリビアの心臓がドクドクと鳴る。
開けて、もしも、違ったら…いや、本物のダグラスだとしても、夜女性の部屋に訪ねて来るなんて…。
オリビアの脳裏にダグラスから言われた台詞が蘇る。「人攫いをする娘が、自分がされたら怯えるのか」ダグラスはオリビアが令嬢を誘拐した事を知っているのだ。
「オリビア?」
震える手でドアノブを押さえる。
「出るから。少し待って」
急いで荷物の中からコートを取り出して羽織り、テーブルに置いた鍵を取ると、ドアへ近付く。
「開けるから、ドアの前から退いて」
「ああ」
開錠すると、ゆっくりドアを開け、できる限りの小さな隙間から廊下へ出る。
ドアを閉めると、持って来た鍵で施錠する。
ダグラスは怪訝な顔でオリビアを見ていた。
「…来るなんて聞いてないわ」
振り向いてオリビアが言うと、ダグラスは苦笑いをする。
「何でコート?」
「部屋着だったんだもの」
「そうか。これ渡しそびれてたから」
ダグラスはオリビアに封筒を差し出す。
「手紙?」
「まあ、読めば分かる。後…」
ダグラスが「ルイ」と言うと、男性が廊下の向こうから姿を現す。足音も立てずオリビアとダグラスに近付くとすっと片膝をついた。
「俺の使っている『影』だ。オリビアとの連絡をしてもらうから『ルイ』という名前だけ覚えておいてくれ」
「そ…そう。よろしくね。ルイ」
オリビアが言うと、男性は軽く礼をして、立ち上がると廊下の向こうへ去って行く。
「他人に紛れるのが仕事だから、顔は覚えても無駄だ」
「そうね」
「じゃあ、また連絡する」
そう言ってダグラスは立ち去った。
影…ジルとは違うタイプね。
オリビアは部屋へ滑り込むように入ると、またしっかり鍵をかけた。
馬車の中でリネットが目を覚ましかけると、男性が鳩尾に拳を打ち込んだ。
「乱暴しないで!」
オリビアが言うと、男性は「オリビア様は甘い」とニヤリと笑った。
「…傷付けたくはないのよ」
呟くオリビア。ニヤニヤ笑う男性と、無表情の女性。
馬車がエバンス家の別邸の前に停まった時、オリビアは口を開いた。
「遅くとも、明日にはこの企みがエバンス家の仕業だと露呈するわ。貴方達とは今日でお別れよ」
男性は無言でリネットを抱くと、別邸へ入って行く。
女性はほんの少し片眉を上げてオリビアを見た。
「…捕まらないようにね」
オリビアは小さく呟くと、女性から目を逸らし別邸へ入る。女性はそのまま無言でオリビアを見送った。
あらかじめ用意していた部屋へ、腕と足へ縄をかけ布で口を塞いだリネットを置いて、男性も居なくなっていた。
…これで良いわ。
リネット様は明日の朝には解放するつもりだけれど、それまでに誰かに探し出されるかも知れないわね。
ふと気付くと、リネットが持っていた封筒がベッドサイドのテーブルに置いてあった。オリビアはその封筒を手に取り、中を覗く。
リネットが生徒会室に来た時は何も持っていなかった。今はこの封筒を持っている。つまり、セルダから渡された物であろう。
封筒の中にはドレスのデザイン画が沢山入っていた。
「セルダ殿下がリネット様にドレスを贈る、という事よね。これは」
気を失っているリネットを見下ろして呟く。
決して王太子妃になりたい訳ではないけれど…何故私はこんな事までしているのに、リネット様は何の努力もなしに王太子妃になれる権利を手にしているの?
理不尽な怒りが湧いてくる。
オリビアは大きく息を吸い、そして吐く。
とにかく、リネットがセルダの意中の令嬢である事は間違いなさそうだ。
オリビアが捕らえられるのはもう覚悟しているが、せめて父の言う通りの令嬢の「醜聞」を作る事ができて安堵する。
オリビアは封筒を置くと部屋を出た。
-----
コンコンと部屋のドアがノックされた。
お義母様?…まだ戻るには早いわよね。
オリビアはそろりとドアへ近付くと「誰?」と小さな声で聞く。
「ダグラス・チャンドラーだ」
「え?」
先程ダグラスと別れた時「また連絡する」と言っていたが、部屋に来るとは言っていなかった。
「本物?」
オリビアの心臓がドクドクと鳴る。
開けて、もしも、違ったら…いや、本物のダグラスだとしても、夜女性の部屋に訪ねて来るなんて…。
オリビアの脳裏にダグラスから言われた台詞が蘇る。「人攫いをする娘が、自分がされたら怯えるのか」ダグラスはオリビアが令嬢を誘拐した事を知っているのだ。
「オリビア?」
震える手でドアノブを押さえる。
「出るから。少し待って」
急いで荷物の中からコートを取り出して羽織り、テーブルに置いた鍵を取ると、ドアへ近付く。
「開けるから、ドアの前から退いて」
「ああ」
開錠すると、ゆっくりドアを開け、できる限りの小さな隙間から廊下へ出る。
ドアを閉めると、持って来た鍵で施錠する。
ダグラスは怪訝な顔でオリビアを見ていた。
「…来るなんて聞いてないわ」
振り向いてオリビアが言うと、ダグラスは苦笑いをする。
「何でコート?」
「部屋着だったんだもの」
「そうか。これ渡しそびれてたから」
ダグラスはオリビアに封筒を差し出す。
「手紙?」
「まあ、読めば分かる。後…」
ダグラスが「ルイ」と言うと、男性が廊下の向こうから姿を現す。足音も立てずオリビアとダグラスに近付くとすっと片膝をついた。
「俺の使っている『影』だ。オリビアとの連絡をしてもらうから『ルイ』という名前だけ覚えておいてくれ」
「そ…そう。よろしくね。ルイ」
オリビアが言うと、男性は軽く礼をして、立ち上がると廊下の向こうへ去って行く。
「他人に紛れるのが仕事だから、顔は覚えても無駄だ」
「そうね」
「じゃあ、また連絡する」
そう言ってダグラスは立ち去った。
影…ジルとは違うタイプね。
オリビアは部屋へ滑り込むように入ると、またしっかり鍵をかけた。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
フランチェスカ王女の婿取り
わらびもち
恋愛
王女フランチェスカは近い将来、臣籍降下し女公爵となることが決まっている。
その婿として選ばれたのがヨーク公爵家子息のセレスタン。だがこの男、よりにもよってフランチェスカの侍女と不貞を働き、結婚後もその関係を続けようとする屑だった。
あることがきっかけでセレスタンの悍ましい計画を知ったフランチェスカは、不出来な婚約者と自分を裏切った侍女に鉄槌を下すべく動き出す……。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
ゲームのシナリオライターは悪役令嬢になりましたので、シナリオを書き換えようと思います
暖夢 由
恋愛
『婚約式、本編では語られないけどここから第1王子と公爵令嬢の話しが始まるのよね』
頭の中にそんな声が響いた。
そして、色とりどりの絵が頭の中を駆け巡っていった。
次に気が付いたのはベットの上だった。
私は日本でゲームのシナリオライターをしていた。
気付いたここは自分で書いたゲームの中で私は悪役令嬢!??
それならシナリオを書き換えさせていただきます
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
愛する人の手を取るために
碧水 遥
恋愛
「何が茶会だ、ドレスだ、アクセサリーだ!!そんなちゃらちゃら遊んでいる女など、私に相応しくない!!」
わたくしは……あなたをお支えしてきたつもりでした。でも……必要なかったのですね……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる