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番外編5上
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番外編5上
王城の鍛錬場で剣を合わせていたグリフとバネッサは、一息つくと隅にあるベンチに並んで腰掛けた。
「何だか今日は剣が荒れていたな。グリフ」
「……」
バネッサが汗を拭きながら言うと、グリフは不機嫌そうな表情でバネッサを見る。
バネッサが学園に編入するために王都へ来てからもう七年が経ち、その間に「グリフ様」だった呼び名は「グリフ」と呼び捨てになっていた。
「何だ?」
きょとんとしてグリフを見るバネッサ。
「バネッサ、アイリーン殿下付きの騎士にならないかと打診があったらしいな?」
グリフは不満気に言い、バネッサは頷いた。
「ああ。よく知ってるな」
「『よく知ってるな』?俺がそれを聞いたのはルーカスからだぞ?何故バネッサの事をルーカスから聞かされないといけないんだ?」
「ルーカス殿がユリウス殿下の義兄であり、ユリウス殿下がスアレス殿下とアイリーン殿下の兄だからだろう?」
当たり前の事で、何が問題かわからないといった表情のバネッサ。
「……」
あんぐりと口を開けてバネッサを見るグリフ。
「グリフ?」
「…俺はバネッサの何なんだ?」
「恋人だ」
「恋人なのに何故お前の事を人伝に知らされないといけない?」
「それは、私がどうするか決めるまで他の人には言うなと言われているからで…」
「俺は『他』か」
「…グリフ?」
バネッサは眉を顰めて首を傾げた。
はあ、と大きく息を吐いてグリフはベンチから立ち上がった。
「グリフ」
「そもそも何度プロポーズしても結婚を渋るし、何故かと思えば、なるほど俺はお前にとって『他の人』なんだな。よくわかったよ」
グリフはバネッサに背を向けてひらひらと手を振りながら鍛錬場を出て行く。
「…?」
バネッサは呆然としたままグリフの背中を見送った。
-----
グリフには、学園の卒業パーティーの時、王太子の護衛騎士試験に合格した時、ルーカス殿がマリア様と結婚した時、スアレス殿下とオードリー様の婚儀の時、ユリウス殿下がロッテ様とご結婚された時にプロポーズをされた。その度に「まだ今は」と断ったのは確かだが…
「それはグリフ様が怒るのも無理はないわ」
シャーロットとマリアの出したレース小物の店の奥にあるソファで、お腹の大きなマリアが膝枕に寝かせた二歳になる長男の頭を撫でながら言う。
「そうなのか?仕事に関する事で、他の人には言うなと言われた事でも?」
「んー…その他の人には言うなって言ったのは、騎士団の上官でしょう?グリフ様にまで言わないとは思っていなかったと思うのよね」
納得いかない風なバネッサに、バネッサの隣に座ったシャーロットが口元に人差し指を当てて言った。
「そういうものなのか…?」
確かに「家族に相談して」とも言われたが、父や母、兄弟の家族は辺境伯領にいるのは上官も知っているし、グリフと私の付き合いの事も知っているし、もしかして上官の言う「家族」にはグリフも含まれていたのか?
「それで、私たちに話してくれたと言う事は、アイリーン殿下に付くかどうかは決めたのよね?」
「ああ…」
シャーロットの言葉に頷いたバネッサ。
「あ!それは今は言わないで。せめてそれは、一番に伝えた方が良いんじゃないかしら」
マリアが口を開き掛けたバネッサを制して言う。
「私もそう思うわ」
シャーロットもそう言うと
「わかった。ロッテ様、マリア様ありがとう!」
バネッサは頷いて立ち上がった。
店を出て、グリフの住む屋敷の方へ歩き出す。
あれから二週間、グリフからの連絡はない。
もう愛想を尽かされたのかも知れない。
私が王都に来る前、国王陛下の視察でグリフが辺境伯領へ帰って来て、久しぶりに会ったら直ぐに「惚れた」と言われた。
正直、見た目も言葉遣いも女らしくもない私のどこに惚れたのか、今でも今ひとつわからない。
でも最初は何言ってるのかと思っていたが、私も段々とグリフを好きになった。
グリフとの結婚を渋ったのはタイミングの問題もあるが、一番は私が貴族ではないからだ。
辺境伯の次男であるグリフは、確かに嫡男ではないから爵位を継ぐ訳ではない。それでも辺境伯騎士団の幹部の娘であるだけの私の結婚相手としては身分が高すぎる。
ロックハート家でも私の家でも結婚に反対している者はいない。むしろ歓迎されているのはわかっている。ただ私には貴族的な社交などはできないから…グリフがそんな事を私に望んでいるとも思わないけれど。
…要は尻込みしてるだけだ。私が。
「情けないぞ。バネッサ」
バネッサは歩きながらそう呟く。
「しっかりしろ。バネッサ」
そう言って自分に気合いを入れた。
王城の鍛錬場で剣を合わせていたグリフとバネッサは、一息つくと隅にあるベンチに並んで腰掛けた。
「何だか今日は剣が荒れていたな。グリフ」
「……」
バネッサが汗を拭きながら言うと、グリフは不機嫌そうな表情でバネッサを見る。
バネッサが学園に編入するために王都へ来てからもう七年が経ち、その間に「グリフ様」だった呼び名は「グリフ」と呼び捨てになっていた。
「何だ?」
きょとんとしてグリフを見るバネッサ。
「バネッサ、アイリーン殿下付きの騎士にならないかと打診があったらしいな?」
グリフは不満気に言い、バネッサは頷いた。
「ああ。よく知ってるな」
「『よく知ってるな』?俺がそれを聞いたのはルーカスからだぞ?何故バネッサの事をルーカスから聞かされないといけないんだ?」
「ルーカス殿がユリウス殿下の義兄であり、ユリウス殿下がスアレス殿下とアイリーン殿下の兄だからだろう?」
当たり前の事で、何が問題かわからないといった表情のバネッサ。
「……」
あんぐりと口を開けてバネッサを見るグリフ。
「グリフ?」
「…俺はバネッサの何なんだ?」
「恋人だ」
「恋人なのに何故お前の事を人伝に知らされないといけない?」
「それは、私がどうするか決めるまで他の人には言うなと言われているからで…」
「俺は『他』か」
「…グリフ?」
バネッサは眉を顰めて首を傾げた。
はあ、と大きく息を吐いてグリフはベンチから立ち上がった。
「グリフ」
「そもそも何度プロポーズしても結婚を渋るし、何故かと思えば、なるほど俺はお前にとって『他の人』なんだな。よくわかったよ」
グリフはバネッサに背を向けてひらひらと手を振りながら鍛錬場を出て行く。
「…?」
バネッサは呆然としたままグリフの背中を見送った。
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グリフには、学園の卒業パーティーの時、王太子の護衛騎士試験に合格した時、ルーカス殿がマリア様と結婚した時、スアレス殿下とオードリー様の婚儀の時、ユリウス殿下がロッテ様とご結婚された時にプロポーズをされた。その度に「まだ今は」と断ったのは確かだが…
「それはグリフ様が怒るのも無理はないわ」
シャーロットとマリアの出したレース小物の店の奥にあるソファで、お腹の大きなマリアが膝枕に寝かせた二歳になる長男の頭を撫でながら言う。
「そうなのか?仕事に関する事で、他の人には言うなと言われた事でも?」
「んー…その他の人には言うなって言ったのは、騎士団の上官でしょう?グリフ様にまで言わないとは思っていなかったと思うのよね」
納得いかない風なバネッサに、バネッサの隣に座ったシャーロットが口元に人差し指を当てて言った。
「そういうものなのか…?」
確かに「家族に相談して」とも言われたが、父や母、兄弟の家族は辺境伯領にいるのは上官も知っているし、グリフと私の付き合いの事も知っているし、もしかして上官の言う「家族」にはグリフも含まれていたのか?
「それで、私たちに話してくれたと言う事は、アイリーン殿下に付くかどうかは決めたのよね?」
「ああ…」
シャーロットの言葉に頷いたバネッサ。
「あ!それは今は言わないで。せめてそれは、一番に伝えた方が良いんじゃないかしら」
マリアが口を開き掛けたバネッサを制して言う。
「私もそう思うわ」
シャーロットもそう言うと
「わかった。ロッテ様、マリア様ありがとう!」
バネッサは頷いて立ち上がった。
店を出て、グリフの住む屋敷の方へ歩き出す。
あれから二週間、グリフからの連絡はない。
もう愛想を尽かされたのかも知れない。
私が王都に来る前、国王陛下の視察でグリフが辺境伯領へ帰って来て、久しぶりに会ったら直ぐに「惚れた」と言われた。
正直、見た目も言葉遣いも女らしくもない私のどこに惚れたのか、今でも今ひとつわからない。
でも最初は何言ってるのかと思っていたが、私も段々とグリフを好きになった。
グリフとの結婚を渋ったのはタイミングの問題もあるが、一番は私が貴族ではないからだ。
辺境伯の次男であるグリフは、確かに嫡男ではないから爵位を継ぐ訳ではない。それでも辺境伯騎士団の幹部の娘であるだけの私の結婚相手としては身分が高すぎる。
ロックハート家でも私の家でも結婚に反対している者はいない。むしろ歓迎されているのはわかっている。ただ私には貴族的な社交などはできないから…グリフがそんな事を私に望んでいるとも思わないけれど。
…要は尻込みしてるだけだ。私が。
「情けないぞ。バネッサ」
バネッサは歩きながらそう呟く。
「しっかりしろ。バネッサ」
そう言って自分に気合いを入れた。
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