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番外編4
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番外編4
王城の図書室で肥料の本を捲りながらクラリスは呟く。
「もう少しリン酸の多い肥料の方が良いかしら…」
図書室の奥からコツンと足音がして、クラリスは足音の方へ振り向いた。
「こんにちは。クラリス嬢」
眼鏡を掛けた細身の男性がクラリスに向けてニコッと笑う。
「コンラッド様、こんにちは」
クラリスも笑顔でコンラッドを見上げた。
「お休みの日まで勉強ですか?相変わらず熱心ですね」
図書室の司書であるコンラッドは、クラリスの前に開かれた本を覗き込む。
「学園の勉強ではなく、領地の農業の…作物に合う肥料がないか探していまして」
それでも学園の図書室ではなく王城の図書室に来るのは、農業関係の蔵書が多いから、だけではなくて…
「来春卒業されたら領地に戻られるんでしたね」
クラリスは、学園の一学年を終え隣国へと三年間留学したのだ。留学から戻ると四年生に編入したので、周りの四年生より一つ歳上になる。
「はい。父と兄を助けて、領地の土地の特徴を活かした作物を作り、領民の生活をより良くしていきたいです」
力強く言うクラリスに、コンラッドは顎に手を当てる。
「…そうですか」
「コンラッド様?」
クラリスがコンラッドを見上げると、コンラッドは微笑んだ。
-----
コンラッドが去って行き、クラリスは小さくため息を吐く。
「…今日はいつもより多く話せたわ」
コンラッド様、綺麗で優しくて穏やかで…領地で見る日の光の下で働く快活で逞しい男性とは違って…何だか気になる。
気になって、休みの度に王城の図書室へ通って来てしまう。
見掛けると胸が苦しくて、話せると胸がドキドキするのは…私がコンラッド様を好き…だからなのよね?
でも私、コンラッド様が何歳なのかも、どこのご出身なのかも、ご結婚されているのかも、恋人がいるのかも、何も知らないもの。
それに王城の図書室の司書になれるくらい頭も良い人だし、あんなに嫋やかな人がウチの領地で農業ができる訳ないし。
だからと言って決して裕福ではない我が家が頑張って三年も留学させてくれたのに、私が領地に戻らないなんて選択肢はないし。
「なんて考えても、そもそも片想いだから虚しいだけよね…」
そう呟いて本に目を落とすと、開いた頁にスッと影が差す。
人影?
クラリスが視線を上げると、机の向こうにコンラッドが立っていた。
「クラリス嬢」
いつもの微笑みではなく、深刻な表情のコンラッド。
「コンラッド様?どう…」
コンラッドはクラリスの前に広げられた本やノートを跨ぐように両手を置いた。
ちかっ!近い。
目の前にコンラッドの顔が迫り、クラリスは思わず仰反る。
「クラリス嬢、片想いとは誰方にですか?」
「…はい?」
「毎週のようにこちらに来られていたのでてっきりそのような方はおられないのだと思っていましたが」
「あの…」
片想いの相手は貴方です。とは言えないわ。
と言うか、コンラッド様が何でそんな事を気にするの?それに何で怒ってるの?
クラリスが椅子の背もたれに身体を押し付けて目をパチパチさせているのに気付き、コンラッドは両手をついたまま俯いた。
「…怖がらせましたね。申し訳ありません」
すっと身を起こす。
「あの…?」
見上げるクラリスに、コンラッドはいつもの微笑みを浮かべた。
「好きなんです。クラリス嬢が」
「え…?」
「すみません。図書室でしか会わない、大して話した事もない男にそう言われても困りますし、怖いですよね。それにクラリス嬢は卒業後は領地へ帰られるし、帰れば縁談も用意されているんでしょうし、力仕事には向いていない私などお呼びでないのはわかっています。実はクラリス嬢に会いたくて敢えて週末に出勤していたんですが、来週から勤務にならないようにしますので、気にせずまた来てくださいね」
ひと息に言うと、踵を返す。
え?え?え?
「待っ!って!」
クラリスは立ち上がると机越しに手を伸ばしてコンラッドの上着の裾を掴んだ。
「クラリス嬢?」
振り向いたコンラッドの顔に笑みはない。
「言い逃げって狡くないですか?」
机の上に腹這いになったような姿勢で、コンラッドの上着をぎゅうっと握りしめた。
「……」
「私、コンラッド様の事、何も知りません」
「…はい」
「歳も」
「二十五です」
「出身も」
「北に領地を持つ、しがない子爵家の三男坊です」
「ご結婚しているのかも」
「もちろんしていません」
「恋人がいるのかも」
「もちろんいません」
「……私の事、好きなんですか?」
腹這いのまま上目遣いで言うクラリスに、コンラッドはふっと笑う。
「一目惚れです」
「私も、コンラッド様に会いたくて毎週ここに来ています」
上着から手を離し、起き上がりながらクラリスが言うと
「…本当ですか?」
コンラッドは目を見開いてクラリスの方に向いた。
「少しでもお話ししたくて、いつも周りに人がいない席に座っています」
頬を染めて言うクラリス。
「クラリス嬢」
「はい」
コンラッドは満面の笑みで言った。
「力仕事はできなくても、私は事務仕事や経営面でお役に立てると思いますよ?」
王城の図書室で肥料の本を捲りながらクラリスは呟く。
「もう少しリン酸の多い肥料の方が良いかしら…」
図書室の奥からコツンと足音がして、クラリスは足音の方へ振り向いた。
「こんにちは。クラリス嬢」
眼鏡を掛けた細身の男性がクラリスに向けてニコッと笑う。
「コンラッド様、こんにちは」
クラリスも笑顔でコンラッドを見上げた。
「お休みの日まで勉強ですか?相変わらず熱心ですね」
図書室の司書であるコンラッドは、クラリスの前に開かれた本を覗き込む。
「学園の勉強ではなく、領地の農業の…作物に合う肥料がないか探していまして」
それでも学園の図書室ではなく王城の図書室に来るのは、農業関係の蔵書が多いから、だけではなくて…
「来春卒業されたら領地に戻られるんでしたね」
クラリスは、学園の一学年を終え隣国へと三年間留学したのだ。留学から戻ると四年生に編入したので、周りの四年生より一つ歳上になる。
「はい。父と兄を助けて、領地の土地の特徴を活かした作物を作り、領民の生活をより良くしていきたいです」
力強く言うクラリスに、コンラッドは顎に手を当てる。
「…そうですか」
「コンラッド様?」
クラリスがコンラッドを見上げると、コンラッドは微笑んだ。
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コンラッドが去って行き、クラリスは小さくため息を吐く。
「…今日はいつもより多く話せたわ」
コンラッド様、綺麗で優しくて穏やかで…領地で見る日の光の下で働く快活で逞しい男性とは違って…何だか気になる。
気になって、休みの度に王城の図書室へ通って来てしまう。
見掛けると胸が苦しくて、話せると胸がドキドキするのは…私がコンラッド様を好き…だからなのよね?
でも私、コンラッド様が何歳なのかも、どこのご出身なのかも、ご結婚されているのかも、恋人がいるのかも、何も知らないもの。
それに王城の図書室の司書になれるくらい頭も良い人だし、あんなに嫋やかな人がウチの領地で農業ができる訳ないし。
だからと言って決して裕福ではない我が家が頑張って三年も留学させてくれたのに、私が領地に戻らないなんて選択肢はないし。
「なんて考えても、そもそも片想いだから虚しいだけよね…」
そう呟いて本に目を落とすと、開いた頁にスッと影が差す。
人影?
クラリスが視線を上げると、机の向こうにコンラッドが立っていた。
「クラリス嬢」
いつもの微笑みではなく、深刻な表情のコンラッド。
「コンラッド様?どう…」
コンラッドはクラリスの前に広げられた本やノートを跨ぐように両手を置いた。
ちかっ!近い。
目の前にコンラッドの顔が迫り、クラリスは思わず仰反る。
「クラリス嬢、片想いとは誰方にですか?」
「…はい?」
「毎週のようにこちらに来られていたのでてっきりそのような方はおられないのだと思っていましたが」
「あの…」
片想いの相手は貴方です。とは言えないわ。
と言うか、コンラッド様が何でそんな事を気にするの?それに何で怒ってるの?
クラリスが椅子の背もたれに身体を押し付けて目をパチパチさせているのに気付き、コンラッドは両手をついたまま俯いた。
「…怖がらせましたね。申し訳ありません」
すっと身を起こす。
「あの…?」
見上げるクラリスに、コンラッドはいつもの微笑みを浮かべた。
「好きなんです。クラリス嬢が」
「え…?」
「すみません。図書室でしか会わない、大して話した事もない男にそう言われても困りますし、怖いですよね。それにクラリス嬢は卒業後は領地へ帰られるし、帰れば縁談も用意されているんでしょうし、力仕事には向いていない私などお呼びでないのはわかっています。実はクラリス嬢に会いたくて敢えて週末に出勤していたんですが、来週から勤務にならないようにしますので、気にせずまた来てくださいね」
ひと息に言うと、踵を返す。
え?え?え?
「待っ!って!」
クラリスは立ち上がると机越しに手を伸ばしてコンラッドの上着の裾を掴んだ。
「クラリス嬢?」
振り向いたコンラッドの顔に笑みはない。
「言い逃げって狡くないですか?」
机の上に腹這いになったような姿勢で、コンラッドの上着をぎゅうっと握りしめた。
「……」
「私、コンラッド様の事、何も知りません」
「…はい」
「歳も」
「二十五です」
「出身も」
「北に領地を持つ、しがない子爵家の三男坊です」
「ご結婚しているのかも」
「もちろんしていません」
「恋人がいるのかも」
「もちろんいません」
「……私の事、好きなんですか?」
腹這いのまま上目遣いで言うクラリスに、コンラッドはふっと笑う。
「一目惚れです」
「私も、コンラッド様に会いたくて毎週ここに来ています」
上着から手を離し、起き上がりながらクラリスが言うと
「…本当ですか?」
コンラッドは目を見開いてクラリスの方に向いた。
「少しでもお話ししたくて、いつも周りに人がいない席に座っています」
頬を染めて言うクラリス。
「クラリス嬢」
「はい」
コンラッドは満面の笑みで言った。
「力仕事はできなくても、私は事務仕事や経営面でお役に立てると思いますよ?」
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