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「もうすぐ陛下が戻られるな」
夜半の執務室でユリウスは手に持った書類を机に置きながら言った。
「そうですね」
ルーカスは書類を仕分けする手を止める。
バタンッ!
と執務室の扉が開いて、メレディスが飛び込むように入って来た。
「ユリウス!」
「メレディス、執務室では『殿下』を付けるよう…」
「それどころじゃない!トレイシー・セルザム公爵令嬢が病室から居なくなったんだ!」
「「何!?」」
ユリウスとルーカスが同時に言う。
トレイシーもシャーロットと同じく脳震盪と診断され、安静にするため入院していたのだ。
「ロッテは!?」
ユリウスが言うと、メレディスは
「ロッテは病室でマリアと一緒に眠っていた。一応病室の外に騎士を置いて警護と監視をさせている」
と言った。
「そうか…」
ホッとして息を吐く。ルーカスも同じ様に息を吐いた。
「図書室で助け出した後、俺がセルザム嬢を医療棟へ連れて行って、セルザム公爵家の者が来るまでは付き添っていたんだ」
廊下を歩きながらメレディスがそう言い、並んで歩くユリウスは頷いた。
「ああ」
「そうしたら、セルザム公爵家から来たのは…まだ幼いメイドが一人だったんだ」
「メイド?」
「ああ。十二、三歳かな?それも着替えなどを持って来ただけで、すぐに帰ってしまった。地震で家が混乱していたり、大した怪我ではないとしても…ちょっとおかしくないか?」
「ああ…確かにな」
公爵家の令嬢ならば「安静」となった場合、すぐに家から迎えが来て、自宅療養となる。
もしも地震のせいで家に連れ帰れないとしても、普通ならば侍女が複数やって来て令嬢に付き添うだろう。
「俺も気になって、その後もセルザム嬢の病室の側で様子を窺っていたんだが…医師と看護師以外に彼女の病室を訪ねる者は誰もいなかった」
王城の馬車寄せに着く。
王を出迎えるための人々がユリウスのために道を開けた。
「先程、王城の門を入られたと報告がありましたので、間もなく到着されます」
王都に残っていた王の側近の一人がユリウスに言う。
「わかった」
セルザム嬢はどこへ行ったのだろう?
夜中には王城の門は閉じられるため、門番に開けさせなければ城外へは出られない。
今まで誰かが門を通ったとの報告はないので、トレイシーは城内に留まっているだろう。
またシャーロットに何かするつもりなのかと思い、ユリウスはルーカスとグリフをシャーロットの病室へと向かわせている。
あの二人がいればロッテに手出しはできないだろう。
セルザム嬢は「王太子妃」に拘りがあるようだから、オードリーたちにも護衛騎士を差し向けたが…
それとも、狙いは俺なのか?
-----
「目が覚めたのか、寝てても良いぞ」
人の気配にふと目を覚ましたシャーロットは、シャーロットのベッドと、マリアの眠る付き添い人用のベッドの間に立つルーカスに気付く。
暗くて良く見えないが、扉の前に立つ大きなシルエットの男性はグリフだろうか?
「昼間から寝てたから目が冴えちゃいました…何かあったんですか?」
小声で言うとルーカスも小声で
「少しな」
と言う。
「アイリーン殿下の件、上手く行きましたか?気になってて…」
小声でポソポソと話す。
「ああ。アイリーン殿下のデレ部分を見せる事ができた」
「良かった…」
ユリウス殿下は孤独な人なんかじゃないもの。
殿下を好きな人は沢山いるって知ってもらわなきゃ。
…そうしたら、私なんかを好きな気持ちは薄れちゃうかも知れないけど、でもそれでも良い。
シャーロットは眠っているマリアを見てからルーカスを見上げる。
「お兄様はアイリーン殿下と随分と気安い間柄に見えますけど…」
「そうかな?」
「そうですよ」
「うーん、私にとってアイリーン殿下とスアレス殿下は、何というか…親戚の子みたいな感じなんだ」
顎に手を当ててルーカスは言った。
「親戚の子ですか…ユリウス殿下とはまた違う感じなんですか?」
「ああ。ユリウス殿下にはそれこそ弟妹のような親愛の情があるが、アイリーン殿下とスアレス殿下はそこまでではないな」
「…いつかマリアにもその説明してあげてくださいね。きっと気になってると思うんで」
「マリアが?そうなのか?」
ルーカスは眠るマリアを見下ろす。
「お兄様、自分の色恋には疎いんですね。普通は自分の好きな人にあんなに親しげな異性がいたら気になりますよ?」
顎に手を当てたまま、ルーカスは首を傾げた。
「そういうものか。それにしても、自分の色恋に疎いのはロッテもだろ?これ遺伝じゃないか?」
「私は前世でもそうでしたけど、お兄様は?」
「私の記憶は五年分しかないが…まあ同じようなモンだったかな…」
「やっぱり」
シャーロットとルーカスは視線を合わせて二人同じように笑った。
と、その時
バタンッ!
と病室の扉が開いた。
「もうすぐ陛下が戻られるな」
夜半の執務室でユリウスは手に持った書類を机に置きながら言った。
「そうですね」
ルーカスは書類を仕分けする手を止める。
バタンッ!
と執務室の扉が開いて、メレディスが飛び込むように入って来た。
「ユリウス!」
「メレディス、執務室では『殿下』を付けるよう…」
「それどころじゃない!トレイシー・セルザム公爵令嬢が病室から居なくなったんだ!」
「「何!?」」
ユリウスとルーカスが同時に言う。
トレイシーもシャーロットと同じく脳震盪と診断され、安静にするため入院していたのだ。
「ロッテは!?」
ユリウスが言うと、メレディスは
「ロッテは病室でマリアと一緒に眠っていた。一応病室の外に騎士を置いて警護と監視をさせている」
と言った。
「そうか…」
ホッとして息を吐く。ルーカスも同じ様に息を吐いた。
「図書室で助け出した後、俺がセルザム嬢を医療棟へ連れて行って、セルザム公爵家の者が来るまでは付き添っていたんだ」
廊下を歩きながらメレディスがそう言い、並んで歩くユリウスは頷いた。
「ああ」
「そうしたら、セルザム公爵家から来たのは…まだ幼いメイドが一人だったんだ」
「メイド?」
「ああ。十二、三歳かな?それも着替えなどを持って来ただけで、すぐに帰ってしまった。地震で家が混乱していたり、大した怪我ではないとしても…ちょっとおかしくないか?」
「ああ…確かにな」
公爵家の令嬢ならば「安静」となった場合、すぐに家から迎えが来て、自宅療養となる。
もしも地震のせいで家に連れ帰れないとしても、普通ならば侍女が複数やって来て令嬢に付き添うだろう。
「俺も気になって、その後もセルザム嬢の病室の側で様子を窺っていたんだが…医師と看護師以外に彼女の病室を訪ねる者は誰もいなかった」
王城の馬車寄せに着く。
王を出迎えるための人々がユリウスのために道を開けた。
「先程、王城の門を入られたと報告がありましたので、間もなく到着されます」
王都に残っていた王の側近の一人がユリウスに言う。
「わかった」
セルザム嬢はどこへ行ったのだろう?
夜中には王城の門は閉じられるため、門番に開けさせなければ城外へは出られない。
今まで誰かが門を通ったとの報告はないので、トレイシーは城内に留まっているだろう。
またシャーロットに何かするつもりなのかと思い、ユリウスはルーカスとグリフをシャーロットの病室へと向かわせている。
あの二人がいればロッテに手出しはできないだろう。
セルザム嬢は「王太子妃」に拘りがあるようだから、オードリーたちにも護衛騎士を差し向けたが…
それとも、狙いは俺なのか?
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「目が覚めたのか、寝てても良いぞ」
人の気配にふと目を覚ましたシャーロットは、シャーロットのベッドと、マリアの眠る付き添い人用のベッドの間に立つルーカスに気付く。
暗くて良く見えないが、扉の前に立つ大きなシルエットの男性はグリフだろうか?
「昼間から寝てたから目が冴えちゃいました…何かあったんですか?」
小声で言うとルーカスも小声で
「少しな」
と言う。
「アイリーン殿下の件、上手く行きましたか?気になってて…」
小声でポソポソと話す。
「ああ。アイリーン殿下のデレ部分を見せる事ができた」
「良かった…」
ユリウス殿下は孤独な人なんかじゃないもの。
殿下を好きな人は沢山いるって知ってもらわなきゃ。
…そうしたら、私なんかを好きな気持ちは薄れちゃうかも知れないけど、でもそれでも良い。
シャーロットは眠っているマリアを見てからルーカスを見上げる。
「お兄様はアイリーン殿下と随分と気安い間柄に見えますけど…」
「そうかな?」
「そうですよ」
「うーん、私にとってアイリーン殿下とスアレス殿下は、何というか…親戚の子みたいな感じなんだ」
顎に手を当ててルーカスは言った。
「親戚の子ですか…ユリウス殿下とはまた違う感じなんですか?」
「ああ。ユリウス殿下にはそれこそ弟妹のような親愛の情があるが、アイリーン殿下とスアレス殿下はそこまでではないな」
「…いつかマリアにもその説明してあげてくださいね。きっと気になってると思うんで」
「マリアが?そうなのか?」
ルーカスは眠るマリアを見下ろす。
「お兄様、自分の色恋には疎いんですね。普通は自分の好きな人にあんなに親しげな異性がいたら気になりますよ?」
顎に手を当てたまま、ルーカスは首を傾げた。
「そういうものか。それにしても、自分の色恋に疎いのはロッテもだろ?これ遺伝じゃないか?」
「私は前世でもそうでしたけど、お兄様は?」
「私の記憶は五年分しかないが…まあ同じようなモンだったかな…」
「やっぱり」
シャーロットとルーカスは視線を合わせて二人同じように笑った。
と、その時
バタンッ!
と病室の扉が開いた。
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