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「騙したのね、ルーカス」
ソファに座ったアイリーンは頬を膨らませて言う。
「アイリーン殿下がユリウス殿下の前では他所行きの顔しかお見せにならないからです」
アイリーンの向かいに座るユリウスの後ろに立ったルーカスが言った。
「だって…お兄様の前だと緊張するんですもの」
アイリーンはチラッとユリウスを見ると、俯いた。
「素直ですね」
「だってもう全てお兄様に知られてしまったんだから、取り繕うだけ無駄だわ」
「そうですね」
「そもそも、お兄様がそのような振舞いをなさる筈がないのだから、騙された私が馬鹿だったのよ」
「そうですね」
「……」
アイリーンはルーカスを上目遣いで睨む。ルーカスは意に介さないように眉を上げた。
宰相が部屋の隅でニコニコと笑いながら三人を見ている。
「アイリーン」
「ひゃい!」
ユリウスに呼ばれて思わず噛むアイリーン。
「…そんなに緊張する事はない」
笑いを噛み殺しながら言うユリウス。
アイリーンは頬を赤くしてユリウスを上目遣いで見た。
「俺はそんなに完璧な人間ではないんだ。そうだろう?ルーカス」
「ええ。ユリウス殿下には欠点も弱点もちゃんとあります」
顎を上げてルーカスを見ると、ルーカスは頷きながら言う。
「お兄様に欠点や弱点があるんですか?」
アイリーンが不思議そうに言う。
「あるさ」
「信じられない…」
「現に俺はアイリーンやスアレスは俺を邪魔に思っていると考えていたし」
「お兄様が邪魔!?」
アイリーンが驚いて言う。
「俺と母上が居なければ、父上と側妃、アイリーンとスアレスで普通の家族だろう?」
「考えた事もないですわ。王妃殿下とお兄様の事、私もスアレスも大好きなんです。寧ろ、私たちの存在こそお兄様にとって目障りなのではないかと…」
「俺もそのようには考えた事はないな。本当にスアレスもそうなのか?」
「スアレスも、お兄様の事大好きですわ」
「……」
キッパリと言い切るアイリーンに、ユリウスは絶句して片手で自分の顔を覆った。
「ユリウス殿下?」
「お兄様?」
ルーカスとアイリーンがユリウスを見る。
「いや、言われ慣れていないから…」
「ああ『大好き』ですか?」
「そうだが、わざと口にするなよ」
照れた様子でルーカスを睨むユリウス。
「…お兄様って、常に冷静な方だと思っていたのですけど、このような表情もなさるのですね」
アイリーンが感心したように言う。
「冷静なのは表向きだけだ」
ユリウスははあ~と大きく息を吐いた。
「宰相、それからルーカス、アイリーンも」
姿勢を正して言うユリウスに、呼ばれた三人もそれぞれに姿勢を正した。
「俺は、王太子を辞める。そして次の王太子…そして国王にスアレスを推したい」
「ええ!?」
アイリーンが声を上げる。
「……」
ルーカスは黙ってユリウスを見つめ、宰相は小さく息を吐いた。
「…オードリー様との婚約を取り止めて、ロッテ様を王太子妃に、と言われるのかと思っていましたが?」
「ロッテ!?え?婚約を取り止め?」
アイリーンが宰相とユリウスを交互に見る。
「ロッテはこの件には関係ない。俺にどうしてもやりたい事ができたんだ」
「やりたい事?」
ルーカスが呟くように言った。
「やりたい事ですか?それは王太子であってはできない事なのですか?」
宰相がそう言うと、ユリウスは膝の上で手を組んだ。
「できなくもないが…王太子や王だと、一つの事業に集中するという事は許されないだろう?」
「そうですね。そうまでしてやりたい事とはどのような事なのですか?」
「まだ先程思い付いたばかりで考えがまとまってはいないんだ。陛下と話してから改めて話す」
「ユリウス殿下」
ルーカスがユリウスをじっと見る。
「うん?」
「…後ろ向きな理由での廃太子ではないのですね?」
私室に閉じ籠り、自分には何もないと言っていたユリウスと、今のユリウスは表情が違う。
ルーカスはそう感じながらも、確認せずにはいられなかった。
「ああ。そうだ」
ルーカスを見据えて強く深く頷く。
「ではいずれにせよ、オードリー様との婚約の取り止めになりますかな?」
宰相が飄々と言う。
「オードリーは『王太子妃』になりたいからな。廃太子した俺との結婚は本意でないだろう。オードリー次第だが、立太子したスアレスと婚約する方向になると良いと思う」
「そうですね。婚約の取り止めに関してはお任せください。慣れておりますから」
宰相が胸に手を当てて言う。
確かに内定していた俺とイザベラの婚約解消の諸々の手続きをしたのは宰相だが…慣れていると言う程ではないような?
「王妃殿下が陛下とご結婚される前に婚約していたのは私です。陛下と婚約内定していた令嬢との婚約解消の手続きを担ったのも私ですからね」
そう言って、ニッコリと笑った。
「騙したのね、ルーカス」
ソファに座ったアイリーンは頬を膨らませて言う。
「アイリーン殿下がユリウス殿下の前では他所行きの顔しかお見せにならないからです」
アイリーンの向かいに座るユリウスの後ろに立ったルーカスが言った。
「だって…お兄様の前だと緊張するんですもの」
アイリーンはチラッとユリウスを見ると、俯いた。
「素直ですね」
「だってもう全てお兄様に知られてしまったんだから、取り繕うだけ無駄だわ」
「そうですね」
「そもそも、お兄様がそのような振舞いをなさる筈がないのだから、騙された私が馬鹿だったのよ」
「そうですね」
「……」
アイリーンはルーカスを上目遣いで睨む。ルーカスは意に介さないように眉を上げた。
宰相が部屋の隅でニコニコと笑いながら三人を見ている。
「アイリーン」
「ひゃい!」
ユリウスに呼ばれて思わず噛むアイリーン。
「…そんなに緊張する事はない」
笑いを噛み殺しながら言うユリウス。
アイリーンは頬を赤くしてユリウスを上目遣いで見た。
「俺はそんなに完璧な人間ではないんだ。そうだろう?ルーカス」
「ええ。ユリウス殿下には欠点も弱点もちゃんとあります」
顎を上げてルーカスを見ると、ルーカスは頷きながら言う。
「お兄様に欠点や弱点があるんですか?」
アイリーンが不思議そうに言う。
「あるさ」
「信じられない…」
「現に俺はアイリーンやスアレスは俺を邪魔に思っていると考えていたし」
「お兄様が邪魔!?」
アイリーンが驚いて言う。
「俺と母上が居なければ、父上と側妃、アイリーンとスアレスで普通の家族だろう?」
「考えた事もないですわ。王妃殿下とお兄様の事、私もスアレスも大好きなんです。寧ろ、私たちの存在こそお兄様にとって目障りなのではないかと…」
「俺もそのようには考えた事はないな。本当にスアレスもそうなのか?」
「スアレスも、お兄様の事大好きですわ」
「……」
キッパリと言い切るアイリーンに、ユリウスは絶句して片手で自分の顔を覆った。
「ユリウス殿下?」
「お兄様?」
ルーカスとアイリーンがユリウスを見る。
「いや、言われ慣れていないから…」
「ああ『大好き』ですか?」
「そうだが、わざと口にするなよ」
照れた様子でルーカスを睨むユリウス。
「…お兄様って、常に冷静な方だと思っていたのですけど、このような表情もなさるのですね」
アイリーンが感心したように言う。
「冷静なのは表向きだけだ」
ユリウスははあ~と大きく息を吐いた。
「宰相、それからルーカス、アイリーンも」
姿勢を正して言うユリウスに、呼ばれた三人もそれぞれに姿勢を正した。
「俺は、王太子を辞める。そして次の王太子…そして国王にスアレスを推したい」
「ええ!?」
アイリーンが声を上げる。
「……」
ルーカスは黙ってユリウスを見つめ、宰相は小さく息を吐いた。
「…オードリー様との婚約を取り止めて、ロッテ様を王太子妃に、と言われるのかと思っていましたが?」
「ロッテ!?え?婚約を取り止め?」
アイリーンが宰相とユリウスを交互に見る。
「ロッテはこの件には関係ない。俺にどうしてもやりたい事ができたんだ」
「やりたい事?」
ルーカスが呟くように言った。
「やりたい事ですか?それは王太子であってはできない事なのですか?」
宰相がそう言うと、ユリウスは膝の上で手を組んだ。
「できなくもないが…王太子や王だと、一つの事業に集中するという事は許されないだろう?」
「そうですね。そうまでしてやりたい事とはどのような事なのですか?」
「まだ先程思い付いたばかりで考えがまとまってはいないんだ。陛下と話してから改めて話す」
「ユリウス殿下」
ルーカスがユリウスをじっと見る。
「うん?」
「…後ろ向きな理由での廃太子ではないのですね?」
私室に閉じ籠り、自分には何もないと言っていたユリウスと、今のユリウスは表情が違う。
ルーカスはそう感じながらも、確認せずにはいられなかった。
「ああ。そうだ」
ルーカスを見据えて強く深く頷く。
「ではいずれにせよ、オードリー様との婚約の取り止めになりますかな?」
宰相が飄々と言う。
「オードリーは『王太子妃』になりたいからな。廃太子した俺との結婚は本意でないだろう。オードリー次第だが、立太子したスアレスと婚約する方向になると良いと思う」
「そうですね。婚約の取り止めに関してはお任せください。慣れておりますから」
宰相が胸に手を当てて言う。
確かに内定していた俺とイザベラの婚約解消の諸々の手続きをしたのは宰相だが…慣れていると言う程ではないような?
「王妃殿下が陛下とご結婚される前に婚約していたのは私です。陛下と婚約内定していた令嬢との婚約解消の手続きを担ったのも私ですからね」
そう言って、ニッコリと笑った。
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