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「陛下が戻られたら知らせてくれ。それまでは誰も俺の部屋には入るな」
 ルーカスが医療棟から連れて来た医師の診察を受け、背中の打撲創と裂挫創の治療を終えたユリウスは、そう言うと、王宮の自分の部屋に籠ってしまった。

「昨夜も今朝も、食事も拒まれ、傷の消毒やガーゼ交換も拒否されている」
 従者の控室でユリウス付きの侍従数名の前でルーカスはため息混じりに言う。
「ルーカス殿で駄目ならメレディスが行ってみればどうだ?」
 侍従の一人が言うと、メレディスは肩を竦めた。
「既に行きました。侍従としてではなく、友人として声を掛けてみましたが、結果は同じでした」
「そうか…」
「陛下は明日お戻りになるが、それまでそのままと言う訳にもいくまい?」
「だが、メレディスもルーカス殿も駄目となると、誰も…」
「そうだよな」
「……」
 侍従たちが黙り込む。
 ユリウスが友人として親しくしているのがメレディス、侍従として一番信頼しているのがルーカスなのだ。

「オードリー様は?」 
「それが『陛下と話すまで何も言うなとユリウス殿下から言われている』と…」
「殿下は陛下と何を話されるつもりなんだ?」
「さあ…?」

「王妃殿下は」
「私が今朝お伺いしたが…」
 ルーカスは王妃の部屋を訪れた時の事を話した。

「来ると思っていたわ。ユーリあの子立て籠っているんですって?」
 部屋を訪れたルーカスを、王妃は苦笑いで迎えた。
「そうです。早速ですが王妃殿下、昨日、ユリウス殿下と何を話されたんですか?」
 ソファに座る王妃と、斜め前に立つルーカス。
「ユーリとの約束だから言えないわ」
 眉を寄せて複雑な表情で笑う王妃。
「……」
「陛下が戻られるまできっと出て来ないから、放っておいてやってくれないかしら?」
「しかし」
「ユーリももう子供じゃないんだもの。一日二日食べなくても大丈夫よ」

 王妃が諦め気味に言った事を伝えると、侍従たちは大きくため息を吐いた。

天岩戸あまのいわとか…」
 ルーカスは呟く。
「アマ…何です?」
 隣の侍従が首を傾げた。
「いや、何でもない」
 ルーカスは椅子から立ち上がる。
「ルーカス殿、どちらへ?」

「…アマノウズメを連れて来る」
「は?」
 ハテナが浮かぶ侍従たちを残し、ルーカスは控室を出た。

-----

 のせいだったが、結果ロッテを泊まらせておいて良かった。
 ルーカスはそう考えながら医療棟のシャーロットが泊まった病室へと向かう。
 シャーロットの怪我は額の切創、右前腕部の擦過傷、左下腿部の切創、その他打撲創。重篤な傷はないが、様子見という形で一晩入院させていた。

「開けゴマ?」
 マリアが言うと、ルーカスは首を横に振る。
「それは千夜一夜だな」
 今日、明日は週末で学園が休みなので、ルーカスの退勤に合わせ今日退院し、一緒にウェイン家に帰る予定で外出着に着替えていたシャーロット。ベッドサイドに座るシャーロットに対面する位置の椅子に座るマリア。そのマリアの横に立ち、ルーカスは言った。

「それで…私が…ユリウス殿下を連れ出すんですか?」
 シャーロットが怪訝な顔をしてルーカスを見る。
「ああ」
「何故…私なんですか?」
「本当にロッテに殿下を連れ出せるか…いや、せめて扉を開けてくださるか、私にもわからない。しかしロッテで駄目なら明日まで待つしかないんだ」
「……」
「最後の手段なんだ。ロッテ」
 私よりオードリーさんの方が…でもお兄様がそれを考えなかったとは思えないし、つまりは私は、最後の手段だけど「切り札」じゃなくて「ダメ元」って事よね?
 私もユリウス殿下のお怪我の具合とか気になるし、昨日助けていただいたお礼も言いたいし…それに、ダメ元ならダメでも私のせいじゃないわよね。だってダメ元なんだもの。
「…わかった」
 シャーロットは唇を引き締めて頷いた。







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