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シャーロットは大丈夫だと聞き、安心して微笑むユリウスを見て、ルーカスは小さくため息を吐く。
「ユリウス殿下、ロッテが殿下から『あれは嘘だ』と伝える様に頼まれたと言っておりましたが?」
「ああ」
「『あれ』と言うのはマリアを召し上げると言われた事、で間違いないでしょうか?」
「ああ」
ユリウスが真顔で頷くと、ルーカスは「はあ~」と大きく息を吐いた。
「何故私が辞めるつもりだと?」
「俺が本気で命ずれば、逆らう事などできないだろう?そしてそれはルーカスやロッテが嫌いな『権力を笠に着た行為』だからだ。ルーカスが愛想を尽かすのも当然だな」
ユリウスは自虐的に笑い、くっと息を詰まらせて片手で軽く脇腹を押さえた。
「…笑うのが一番響くな」
「どうせ殿下は明日からも公務を休んだりなさないんでしょうから、今日はもう休んでください。先程肋骨の一本や二本と仰いましたが、折れたのは三本ですからね」
ルーカスが呆れた様に言う。
「ああそうだ。ロッテに、この怪我はロッテのせいではないから気にするなと伝えておいてくれ」
「気にするなと言われても、ロッテは気にすると思いますよ」
ルーカスがユリウスに手を差し出す。ユリウスはその手に掴まって立ち上がり、寝室に向かって歩きながら呟く。
「…俺が王太子だからな」
「殿下?」
「いや…気にするなと言うのが無理なら、ロッテに『あの星がモチーフの小物』を見舞いの品として作ってくれと伝えてくれ」
ルーカスが開けた寝室への扉を通り、寝室に入ると上着を脱ぎ、扉の横に置かれたカウチへと放り投げた。
「あの星?」
「ロッテにはそれで伝わる」
シャツのボタンを外すと、胸から腹にかけてガチガチに巻かれた包帯が見える。胴体はギプスなどで固定できないので、こうして締め付けて、安静にしておくしかないのだ。
シャツを脱いでカウチへと投げる。
ルーカスはローブを広げてユリウスの肩に掛けると
「…辞めるつもりなどありませんでしたし、愛想を尽かしてもいません」
と言った。
「嘘つけ。ははは。っいて…」
ユリウスは包帯の上から脇腹を摩る。
「…まあ半分は嘘です。マリアを王太子妃として扱う覚悟が決まらなくて…少なくともご成婚後はユリウス殿下の侍従は退こうと考えていました」
「王太子妃として扱う覚悟か。狡い言い方だな。ルーカスはマリアを好きなんだろう?」
「…好きか嫌いかと言えば好きですが、その一言では表せない複雑な心情があるのです」
「うーん、よくわからんが…少なくともマリアはルーカスを好きだろう?」
「告白された事はありませんが…」
「他の男に会う前に服や髪を気にする処を見せつけて、ルーカスを焦らせようとしたんだろうに」
「そう…なんですかね?」
確かにあのマリアの様子を見て少し不快に感じたが…それは私がマリアを好きだと言う事なのか?
ルーカスは少し首を傾げる。
意外と自分の事には疎いんだな。
首を傾げるルーカスを見てユリウスはそう思った。
「…あの時は、マリアにロッテの相手として俺は不適格だと言われて、少し意地になっていたんだ。まあ俺はオードリーと婚約する事になるだろうから、ルーカスはもうマリアやロッテが王太子妃になってしまう心配はしなくて良い」
ローブのウエストに紐を結ぶと、ベッドに座りながらユリウスは言う。
「…オードリー様?」
ルーカスが少し驚いた表情でユリウスに言うと、ユリウスは口角を上げた。
「王太子妃など外れくじでしかない。ならばなりたい者がなるのが良いだろう?」
-----
「ユリウス殿下…本当に大丈夫だったのかしら」
鳩尾に薬剤を塗った布を貼り、ベッドに座ったシャーロットは、ベッドの横に置いた椅子に座るマリアに話し掛ける。
「…ご自分で馬に乗って帰られたんでしょう?大丈夫なんじゃないの?」
マリアは不満気に「王太子のくせにロッテを庇うなんて…」とブツブツと呟く。
「何?」
「何でもないわ」
ニコッと、マリアは笑みを浮かべる。
「表情は普段通りだったけど、汗が…だから痛かったんだと思うんだけど」
王太子殿下に庇ってもらって怪我をさせてしまうなんて、本当に申し訳ないわ。
それに、どさくさに紛れて忘れてたけど、あの…デコチューはなんだったの?
額に触れた唇の感触を思い出すと、点火されたように頬がボッと赤く染まった。
「ロッテ?顔が赤いわ。熱が出たの?」
マリアが腰を浮かせてシャーロットの額に手を伸ばす。
「だっ、大丈夫!」
シャーロットは身体を引いてマリアの手を避けた。
「ロッテ?」
「いや、あの…大丈夫だから…」
両手で額を覆う。
「そう?」
マリアが不思議そうに首を傾げる。シャーロットはこくこくと頷いた。
ユリウス殿下の唇が触れた場所に、他の女の人の手を触れさせたくない。
マリアでも?
そう、マリアでも。
…こんな事思うなんて、どうしちゃったの?私。
シャーロットは大丈夫だと聞き、安心して微笑むユリウスを見て、ルーカスは小さくため息を吐く。
「ユリウス殿下、ロッテが殿下から『あれは嘘だ』と伝える様に頼まれたと言っておりましたが?」
「ああ」
「『あれ』と言うのはマリアを召し上げると言われた事、で間違いないでしょうか?」
「ああ」
ユリウスが真顔で頷くと、ルーカスは「はあ~」と大きく息を吐いた。
「何故私が辞めるつもりだと?」
「俺が本気で命ずれば、逆らう事などできないだろう?そしてそれはルーカスやロッテが嫌いな『権力を笠に着た行為』だからだ。ルーカスが愛想を尽かすのも当然だな」
ユリウスは自虐的に笑い、くっと息を詰まらせて片手で軽く脇腹を押さえた。
「…笑うのが一番響くな」
「どうせ殿下は明日からも公務を休んだりなさないんでしょうから、今日はもう休んでください。先程肋骨の一本や二本と仰いましたが、折れたのは三本ですからね」
ルーカスが呆れた様に言う。
「ああそうだ。ロッテに、この怪我はロッテのせいではないから気にするなと伝えておいてくれ」
「気にするなと言われても、ロッテは気にすると思いますよ」
ルーカスがユリウスに手を差し出す。ユリウスはその手に掴まって立ち上がり、寝室に向かって歩きながら呟く。
「…俺が王太子だからな」
「殿下?」
「いや…気にするなと言うのが無理なら、ロッテに『あの星がモチーフの小物』を見舞いの品として作ってくれと伝えてくれ」
ルーカスが開けた寝室への扉を通り、寝室に入ると上着を脱ぎ、扉の横に置かれたカウチへと放り投げた。
「あの星?」
「ロッテにはそれで伝わる」
シャツのボタンを外すと、胸から腹にかけてガチガチに巻かれた包帯が見える。胴体はギプスなどで固定できないので、こうして締め付けて、安静にしておくしかないのだ。
シャツを脱いでカウチへと投げる。
ルーカスはローブを広げてユリウスの肩に掛けると
「…辞めるつもりなどありませんでしたし、愛想を尽かしてもいません」
と言った。
「嘘つけ。ははは。っいて…」
ユリウスは包帯の上から脇腹を摩る。
「…まあ半分は嘘です。マリアを王太子妃として扱う覚悟が決まらなくて…少なくともご成婚後はユリウス殿下の侍従は退こうと考えていました」
「王太子妃として扱う覚悟か。狡い言い方だな。ルーカスはマリアを好きなんだろう?」
「…好きか嫌いかと言えば好きですが、その一言では表せない複雑な心情があるのです」
「うーん、よくわからんが…少なくともマリアはルーカスを好きだろう?」
「告白された事はありませんが…」
「他の男に会う前に服や髪を気にする処を見せつけて、ルーカスを焦らせようとしたんだろうに」
「そう…なんですかね?」
確かにあのマリアの様子を見て少し不快に感じたが…それは私がマリアを好きだと言う事なのか?
ルーカスは少し首を傾げる。
意外と自分の事には疎いんだな。
首を傾げるルーカスを見てユリウスはそう思った。
「…あの時は、マリアにロッテの相手として俺は不適格だと言われて、少し意地になっていたんだ。まあ俺はオードリーと婚約する事になるだろうから、ルーカスはもうマリアやロッテが王太子妃になってしまう心配はしなくて良い」
ローブのウエストに紐を結ぶと、ベッドに座りながらユリウスは言う。
「…オードリー様?」
ルーカスが少し驚いた表情でユリウスに言うと、ユリウスは口角を上げた。
「王太子妃など外れくじでしかない。ならばなりたい者がなるのが良いだろう?」
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「ユリウス殿下…本当に大丈夫だったのかしら」
鳩尾に薬剤を塗った布を貼り、ベッドに座ったシャーロットは、ベッドの横に置いた椅子に座るマリアに話し掛ける。
「…ご自分で馬に乗って帰られたんでしょう?大丈夫なんじゃないの?」
マリアは不満気に「王太子のくせにロッテを庇うなんて…」とブツブツと呟く。
「何?」
「何でもないわ」
ニコッと、マリアは笑みを浮かべる。
「表情は普段通りだったけど、汗が…だから痛かったんだと思うんだけど」
王太子殿下に庇ってもらって怪我をさせてしまうなんて、本当に申し訳ないわ。
それに、どさくさに紛れて忘れてたけど、あの…デコチューはなんだったの?
額に触れた唇の感触を思い出すと、点火されたように頬がボッと赤く染まった。
「ロッテ?顔が赤いわ。熱が出たの?」
マリアが腰を浮かせてシャーロットの額に手を伸ばす。
「だっ、大丈夫!」
シャーロットは身体を引いてマリアの手を避けた。
「ロッテ?」
「いや、あの…大丈夫だから…」
両手で額を覆う。
「そう?」
マリアが不思議そうに首を傾げる。シャーロットはこくこくと頷いた。
ユリウス殿下の唇が触れた場所に、他の女の人の手を触れさせたくない。
マリアでも?
そう、マリアでも。
…こんな事思うなんて、どうしちゃったの?私。
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