21 / 98
20
しおりを挟む
20
高い位置にあるバルコニーから夜会会場を見下ろすユリウスは、マントのフードを被って柱の影に半身を隠している。
「ロッテのダンスパートナーはメレディスか」
「アイツまたロッテに暴言吐かなきゃ良いが…」
ユリウスの隣に立つルーカスは呆れた口調で言う。
メレディスより少し大きいな。ドレスだから靴の踵が高いのか。メレディスであの位になるなら俺と並んだら目の高さが一緒になるかな。
図書室で会ったロッテは踵の低い靴を履いていたから少し視線を落とすとロッテの額が見えて…肌がすべすべで髪が柔らかくて…少し上目遣いなのがかわいかったな。
ダンスが終わると、メレディスがシャーロットを指差して何かを言っているのが見えた。
「メレディスは何を言ったんだ?」
「さあ…?ロッテの表情から見ると不愉快な事ではなさそうですが」
シャーロットが少し首を傾げている。
「キャーッ!アイリーン殿下!」
その時、夜会の会場に金切り声が響いた。
-----
何?
アイリーン殿下って、第一王女よね?
「どうした!?」
「殿下?」
声がした所へわらわらと人が集まって行く。
「ロッテ」
ダンスを終えたマリアがシャーロットに駆け寄って来る。
「アイリーン殿下、どうされたの?」
「よくわからないんだけど、倒れられたとか…」
シャーロットとマリアが話していると、人垣の中から男性の鋭い声が飛んだ。
「毒だ!!」
ザワッ。
会場に緊張が走る。
…毒?
シャーロットは青褪めて人垣を見る。
「アイリーン様!」
「医師を!早く!」
「飲み物か!?」
「どうしてアイリーン様が!」
声が飛び交う中、シャーロットは視線を感じて辺りを見回す。
「ロッテ?」
同じく青褪めた顔のマリアがシャーロットを見上げる。
「何か誰かに…」
見られてるみたいで。と言おうとすると、人垣の後ろにいた令嬢がシャーロットを見て
「あの人、キョロキョロして…怪しいわ」
と言った。
え?私!?
シャーロットが驚いて自分を指差すと、その令嬢はツカツカとシャーロットの前まで来る。
「貴女、ユリウス殿下の筆頭侍従の妹なんですってね?」
シャーロットを見上げる、気の強そうな瞳。
…あれ?この瞳…
「貴女みたいな背が高い以外に特徴のない人が王太子妃候補に残るなんておかしいわ!」
うわ。アイリーン殿下に毒を盛った疑いを掛けられた訳じゃないみたいだけど、何か酷い事言われたわ。
「一次では騎士と踊って目立って、晩餐会では一番前の席になるし、朝だってわざとらしく疑われた令嬢を庇って…おかしくない?筆頭侍従の兄上から手を回して選考を通る様にしてるんでしょ!?」
ん?
「二次だって兄上から選考内容を聞いていたに違いないわ!?」
んん?
「……」
シャーロットの隣でマリアがぐっと自分の手を握りしめる。
「私は何もしてないわ!」
シャーロットたちとは別の所…人垣の中から声。
人垣の中から担架に乗せられた紫の髪の女性が運び出されて来る。周りには護衛と思われる騎士服の男性が数人、後ろにはアイリーン付きの侍女と思われる女性が顔を伏せて付いて来て、シャーロットたちの横を通って会場の出口の方へと移動して行った。
複数の女性の言い合う声が人垣の方から聞こえる。
シャーロットの前に立つ令嬢は、運ばれて行くアイリーンには一瞥もくれず、シャーロットをじっと見ていた。
黒髪に、群青色の瞳。
やっぱりそうだわ。
シャーロットは会場の中に視線を巡らせる。
さっき私が感じた視線はこの令嬢からの視線とは違う。だとしたら。
高い位置にあるバルコニーの柱の後ろに見切れた人影が見えた。
いた!やっぱり。
黒い影の様に見える人をじっと見ていると、その人は人差し指を自分の口元と思われる位置に立てた。
「ルーカス様は不正な事はなさらないわ」
マリアが目の前の令嬢を睨みながら言う。
「どうだか。貴女はその『ルーカス様』の家の侍女なのよね?貴女も残ってるって事はグルなんじゃないの?どちらかが最終候補に残る様に企んだに違いないわ」
「ルーカス様は私もロッテも王太子妃にしたいなんて思われていないわ」
少し声が大きくなるマリアの手をシャーロットはそっと握った。
「待って、マリア」
「ロッテ?」
シャーロットは少し屈んでマリアに耳打ちをする。
「……」
「え?」
マリアは驚いた表情でシャーロットを見る。シャーロットはマリアを見ながら苦笑いで頷く。
「だから、ここで騒ぎになって注目されるのは不味いわ」
「そうね。移動しましょうか」
「な、何を勝手に話してるのよ!?」
シャーロットは人差し指を立てると自分の口の前に立てて、目の前の令嬢に微笑み掛けた。
「別室へ行きましょう?スアレス殿下」
高い位置にあるバルコニーから夜会会場を見下ろすユリウスは、マントのフードを被って柱の影に半身を隠している。
「ロッテのダンスパートナーはメレディスか」
「アイツまたロッテに暴言吐かなきゃ良いが…」
ユリウスの隣に立つルーカスは呆れた口調で言う。
メレディスより少し大きいな。ドレスだから靴の踵が高いのか。メレディスであの位になるなら俺と並んだら目の高さが一緒になるかな。
図書室で会ったロッテは踵の低い靴を履いていたから少し視線を落とすとロッテの額が見えて…肌がすべすべで髪が柔らかくて…少し上目遣いなのがかわいかったな。
ダンスが終わると、メレディスがシャーロットを指差して何かを言っているのが見えた。
「メレディスは何を言ったんだ?」
「さあ…?ロッテの表情から見ると不愉快な事ではなさそうですが」
シャーロットが少し首を傾げている。
「キャーッ!アイリーン殿下!」
その時、夜会の会場に金切り声が響いた。
-----
何?
アイリーン殿下って、第一王女よね?
「どうした!?」
「殿下?」
声がした所へわらわらと人が集まって行く。
「ロッテ」
ダンスを終えたマリアがシャーロットに駆け寄って来る。
「アイリーン殿下、どうされたの?」
「よくわからないんだけど、倒れられたとか…」
シャーロットとマリアが話していると、人垣の中から男性の鋭い声が飛んだ。
「毒だ!!」
ザワッ。
会場に緊張が走る。
…毒?
シャーロットは青褪めて人垣を見る。
「アイリーン様!」
「医師を!早く!」
「飲み物か!?」
「どうしてアイリーン様が!」
声が飛び交う中、シャーロットは視線を感じて辺りを見回す。
「ロッテ?」
同じく青褪めた顔のマリアがシャーロットを見上げる。
「何か誰かに…」
見られてるみたいで。と言おうとすると、人垣の後ろにいた令嬢がシャーロットを見て
「あの人、キョロキョロして…怪しいわ」
と言った。
え?私!?
シャーロットが驚いて自分を指差すと、その令嬢はツカツカとシャーロットの前まで来る。
「貴女、ユリウス殿下の筆頭侍従の妹なんですってね?」
シャーロットを見上げる、気の強そうな瞳。
…あれ?この瞳…
「貴女みたいな背が高い以外に特徴のない人が王太子妃候補に残るなんておかしいわ!」
うわ。アイリーン殿下に毒を盛った疑いを掛けられた訳じゃないみたいだけど、何か酷い事言われたわ。
「一次では騎士と踊って目立って、晩餐会では一番前の席になるし、朝だってわざとらしく疑われた令嬢を庇って…おかしくない?筆頭侍従の兄上から手を回して選考を通る様にしてるんでしょ!?」
ん?
「二次だって兄上から選考内容を聞いていたに違いないわ!?」
んん?
「……」
シャーロットの隣でマリアがぐっと自分の手を握りしめる。
「私は何もしてないわ!」
シャーロットたちとは別の所…人垣の中から声。
人垣の中から担架に乗せられた紫の髪の女性が運び出されて来る。周りには護衛と思われる騎士服の男性が数人、後ろにはアイリーン付きの侍女と思われる女性が顔を伏せて付いて来て、シャーロットたちの横を通って会場の出口の方へと移動して行った。
複数の女性の言い合う声が人垣の方から聞こえる。
シャーロットの前に立つ令嬢は、運ばれて行くアイリーンには一瞥もくれず、シャーロットをじっと見ていた。
黒髪に、群青色の瞳。
やっぱりそうだわ。
シャーロットは会場の中に視線を巡らせる。
さっき私が感じた視線はこの令嬢からの視線とは違う。だとしたら。
高い位置にあるバルコニーの柱の後ろに見切れた人影が見えた。
いた!やっぱり。
黒い影の様に見える人をじっと見ていると、その人は人差し指を自分の口元と思われる位置に立てた。
「ルーカス様は不正な事はなさらないわ」
マリアが目の前の令嬢を睨みながら言う。
「どうだか。貴女はその『ルーカス様』の家の侍女なのよね?貴女も残ってるって事はグルなんじゃないの?どちらかが最終候補に残る様に企んだに違いないわ」
「ルーカス様は私もロッテも王太子妃にしたいなんて思われていないわ」
少し声が大きくなるマリアの手をシャーロットはそっと握った。
「待って、マリア」
「ロッテ?」
シャーロットは少し屈んでマリアに耳打ちをする。
「……」
「え?」
マリアは驚いた表情でシャーロットを見る。シャーロットはマリアを見ながら苦笑いで頷く。
「だから、ここで騒ぎになって注目されるのは不味いわ」
「そうね。移動しましょうか」
「な、何を勝手に話してるのよ!?」
シャーロットは人差し指を立てると自分の口の前に立てて、目の前の令嬢に微笑み掛けた。
「別室へ行きましょう?スアレス殿下」
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる