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「いよいよね。ローゼリア」
「はい」
六日後には卒業パーティーが開かれるという週末。リリーとローゼはエンジェル男爵家に滞在していた。
ローゼは学園へ編入するための試験を受けに王都に来ており、リリーはローゼの元に泊まりに来ているのだ。
「今日はデビィも来るのよね?」
「はい。デビィはお兄様に会いに来て、ここでローゼリアと初めて対面する、という設定です」
ローゼがそう言うと同時にローゼの部屋の扉がノックされた。
「ローゼ!久しぶり!」
「デビィ」
部屋に入って来たデボラがローゼに抱きつく。
「あ、違った。リアって呼ぶんだったわ」
「リア?」
リリーが言うと、デボラは頷く。
「はい。ローゼとは別の呼び方の方が別人感があって良いかなと思いまして」
「ああ。なるほど…私もそう呼ぼうかしら。多分サイオン殿下は『ローゼ』を独り占めしたいでしょうし」
リリーはローゼをちらりと見ながら言う。
「……」
た、確かに。サイオン様はずっと「ローゼ」って呼ぶけど、ニューマン先生へは「ローゼリアと呼べ」って仰ってて…あれ、もしかして独占欲なの?
ローゼの頬が赤く染まる。
「それで?デビィは?」
リリーはソファの向かい側に座ったデボラを意味深な視線で見た。
「私?」
「ローゼリアが偶々訪れている時に偶々デビィも訪れるなんて確率高くないわよね?つまり、デビィはそんな偶々があってもおかしくない位クレイグ様に会いに、よくここへ来ている、と言う事よ」
「…あー」
今度はデボラが頬を染めた。
「お付き合いをしているの?クレイグ様と」
「…クレイグ様は、私が学園を卒業するまでは正式なお付き合いはしないって言われてるんですよね」
少し不満そうにデボラが言う。
「でも、貴族ほどじゃないけど、若い女の子が独身男性の所を度々訪れていたら、それはそういう事だと周りに思われるのではないの?」
「それはその通りで、実際うちの親からはもう公認と言うか…むしろ『絶対逃すな!』って言われてる感じなんですけど」
デボラは苦笑いをする。
「お兄様は保険を掛けてるんです」
ローゼがそう言うと、リリーは「保険?」と首を傾げた。
「もし、学園生の間にデビィに他に好きな人ができたら、いつでも手を離せるようにって。自分の方が歳上だから」
「それは…大人の余裕…なの?」
「いえ、むしろ痩せ我慢です」
ローゼがキッパリと言うと、デボラは頷く。
「ああ~わかる。けどそれ私のせいかも」
「デビィのせい?」
「私が『クレイグ様の事、好きかどうかまだわからない』って言ったから…もしそうじゃなかった時のために」
「え?デビィ、クレイグ様の事好きじゃないの?」
「好きですけど…何と言うか、これが恋愛感情なのか、好意を示されたから気になってるだけなのか…こう、よくわからないと言うか、決め手に欠けると言うか」
デボラは首を傾げる。
「贅沢な話ねぇ」
リリーはため息を吐いた。
-----
「リリー様は、卒業パーティーで婚約解消を発表した後どうされるんですか?」
客間の大きなベッドに三人で横たわりながら、デボラが言うと、リリーは肩を竦めた。
「…実は婚約解消の事を聞いて、お父様がお怒りでね」
「「え!?」」
ローゼとデボラは思わず声を上げる。
「勘当とまではいかないけど、私の結婚相手は探さないから、自分で誰でも探してどこへでも行け!って…」
言葉とは裏腹にリリーはにこやかに笑って言う。
「要するに、リリー様の意向を尊重する、と?」
ローゼがそう言うと、リリーは頷く。
「そう言う事になるわね」
旦那様は…マーシャル公爵は、やはり器の大きな、良いお方だわ。
「とは言え、私、想う方には振られたから…サイオン殿下が責任持って良い方を探してくださるって仰っているけど、まだどこへ嫁ぐか、嫁がないかは不明ね」
リリーはそう言うと、ローゼを挟んだ向こうで枕を抱えているデボラを見る。
「リリー様?」
「どこへでも行けって言う事は、下位貴族や貴族でない人でも良いって事よ?」
「はい」
きょとんとするデボラに、リリーは
「だとしたら、クレイグ様、と言うのはどうかしら?」
と、悪戯っぽく笑う。
「…え?……ええ!?」
ガバッと起き上がるデボラ。
リリー様ったら、デビィを焚き付けるつもりなのね。
ローゼはそう悟って黙って二人の様子を見ていた。
「よくわからなくて決め手に欠けるなら、クレイグ様でなくても良いって事でしょう?だったら私に頂戴?」
にっこり笑ってベッドに座るデボラを見上げる。
「……」
デボラは目を見開いてリリーを見る。
「どう?」
「…いや、です」
「え?聞こえないわ」
リリーは耳に手を当てる仕草をする。
「嫌!です!」
デボラはぎゅっと目を瞑って声を張って言う。
「ふふ。嘘よ」
「…え?」
リリーはデボラに笑顔を向けた。
「デビィも好かれてるからって余裕綽々でいると後悔するわよ。ちゃんと捕まえておかなくちゃ」
「いよいよね。ローゼリア」
「はい」
六日後には卒業パーティーが開かれるという週末。リリーとローゼはエンジェル男爵家に滞在していた。
ローゼは学園へ編入するための試験を受けに王都に来ており、リリーはローゼの元に泊まりに来ているのだ。
「今日はデビィも来るのよね?」
「はい。デビィはお兄様に会いに来て、ここでローゼリアと初めて対面する、という設定です」
ローゼがそう言うと同時にローゼの部屋の扉がノックされた。
「ローゼ!久しぶり!」
「デビィ」
部屋に入って来たデボラがローゼに抱きつく。
「あ、違った。リアって呼ぶんだったわ」
「リア?」
リリーが言うと、デボラは頷く。
「はい。ローゼとは別の呼び方の方が別人感があって良いかなと思いまして」
「ああ。なるほど…私もそう呼ぼうかしら。多分サイオン殿下は『ローゼ』を独り占めしたいでしょうし」
リリーはローゼをちらりと見ながら言う。
「……」
た、確かに。サイオン様はずっと「ローゼ」って呼ぶけど、ニューマン先生へは「ローゼリアと呼べ」って仰ってて…あれ、もしかして独占欲なの?
ローゼの頬が赤く染まる。
「それで?デビィは?」
リリーはソファの向かい側に座ったデボラを意味深な視線で見た。
「私?」
「ローゼリアが偶々訪れている時に偶々デビィも訪れるなんて確率高くないわよね?つまり、デビィはそんな偶々があってもおかしくない位クレイグ様に会いに、よくここへ来ている、と言う事よ」
「…あー」
今度はデボラが頬を染めた。
「お付き合いをしているの?クレイグ様と」
「…クレイグ様は、私が学園を卒業するまでは正式なお付き合いはしないって言われてるんですよね」
少し不満そうにデボラが言う。
「でも、貴族ほどじゃないけど、若い女の子が独身男性の所を度々訪れていたら、それはそういう事だと周りに思われるのではないの?」
「それはその通りで、実際うちの親からはもう公認と言うか…むしろ『絶対逃すな!』って言われてる感じなんですけど」
デボラは苦笑いをする。
「お兄様は保険を掛けてるんです」
ローゼがそう言うと、リリーは「保険?」と首を傾げた。
「もし、学園生の間にデビィに他に好きな人ができたら、いつでも手を離せるようにって。自分の方が歳上だから」
「それは…大人の余裕…なの?」
「いえ、むしろ痩せ我慢です」
ローゼがキッパリと言うと、デボラは頷く。
「ああ~わかる。けどそれ私のせいかも」
「デビィのせい?」
「私が『クレイグ様の事、好きかどうかまだわからない』って言ったから…もしそうじゃなかった時のために」
「え?デビィ、クレイグ様の事好きじゃないの?」
「好きですけど…何と言うか、これが恋愛感情なのか、好意を示されたから気になってるだけなのか…こう、よくわからないと言うか、決め手に欠けると言うか」
デボラは首を傾げる。
「贅沢な話ねぇ」
リリーはため息を吐いた。
-----
「リリー様は、卒業パーティーで婚約解消を発表した後どうされるんですか?」
客間の大きなベッドに三人で横たわりながら、デボラが言うと、リリーは肩を竦めた。
「…実は婚約解消の事を聞いて、お父様がお怒りでね」
「「え!?」」
ローゼとデボラは思わず声を上げる。
「勘当とまではいかないけど、私の結婚相手は探さないから、自分で誰でも探してどこへでも行け!って…」
言葉とは裏腹にリリーはにこやかに笑って言う。
「要するに、リリー様の意向を尊重する、と?」
ローゼがそう言うと、リリーは頷く。
「そう言う事になるわね」
旦那様は…マーシャル公爵は、やはり器の大きな、良いお方だわ。
「とは言え、私、想う方には振られたから…サイオン殿下が責任持って良い方を探してくださるって仰っているけど、まだどこへ嫁ぐか、嫁がないかは不明ね」
リリーはそう言うと、ローゼを挟んだ向こうで枕を抱えているデボラを見る。
「リリー様?」
「どこへでも行けって言う事は、下位貴族や貴族でない人でも良いって事よ?」
「はい」
きょとんとするデボラに、リリーは
「だとしたら、クレイグ様、と言うのはどうかしら?」
と、悪戯っぽく笑う。
「…え?……ええ!?」
ガバッと起き上がるデボラ。
リリー様ったら、デビィを焚き付けるつもりなのね。
ローゼはそう悟って黙って二人の様子を見ていた。
「よくわからなくて決め手に欠けるなら、クレイグ様でなくても良いって事でしょう?だったら私に頂戴?」
にっこり笑ってベッドに座るデボラを見上げる。
「……」
デボラは目を見開いてリリーを見る。
「どう?」
「…いや、です」
「え?聞こえないわ」
リリーは耳に手を当てる仕草をする。
「嫌!です!」
デボラはぎゅっと目を瞑って声を張って言う。
「ふふ。嘘よ」
「…え?」
リリーはデボラに笑顔を向けた。
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