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「お久しぶりです。アメリア様」
 リリーは屋敷に戻って来たアメリアを玄関ホールで笑顔で出迎えた。
「あら…貴女は…」
「リリー・マーシャルです。覚えておられます?」
 リリーがニコッと笑うと、アメリアはハッとした様子で礼を取る。
「公爵家のお嬢様でしたね。以前お目に掛かった際は不調法で申し訳ありませんでした」
「気にしないでください。親しくお話していただけた方が嬉しいですわ。こちらのお庭がとても綺麗だったので、季節が変わった様子も見たくてお邪魔したのです」

 アメリアと共に東屋へ移動する。
 お茶の用意を整え、シドニーが立っていた。
 リリーはズキンと痛む胸を堪えながら平静を装い会釈をする。シドニーも複雑な表情で頭を下げた。

「今の時期だとフロストアスターやダリアも綺麗ですけど、やはり秋バラですかね」
 アメリアが楽しそうに庭の花を指し示す。
「ダリアも秋バラも様々な色の花があるんですね。近くで見たいので後でご案内いただいても?」
「もちろんです」
 アメリアは嬉しそうに頷いた。

 暫くお茶を飲みながら歓談し、リリーとアメリアは並んで庭を歩く。そんな二人の後を少し距離を空けてシドニーが付いて行く。
 赤やオレンジ、ピンクの大小様々に咲くダリアやバラの説明や、剪定や肥料などについても楽しそうに話すアメリア。
「アメリア様もお花のお世話をされるんですか?」
 リリーがそう聞くと、アメリアは苦笑いしながら答える。
「ええ。私は学園も卒業しておらず、社交もしないので…花を育てたり、土をいじるのが唯一の趣味なんです」
 リリーは、小さくコクンと息を飲み、核心に触れるべく口を開く。
「学園を…卒業しておられないのは何故ですか?」
「……」
「社交をされないのは?」
 リリーはアメリアを追い詰める質問に胸を痛めながらも、じっとアメリアを見つめながら言う。
「…身体が…弱くて」
 アメリアは視線をウロウロと彷徨わせながら呟くように言った。
「学園に入学してから辞められるなんて、余程の事ですよね?」
「…どうして知って」
 驚くアメリア。リリーは眉を寄せて頭を下げた。
「ごめんなさい。アメリア様…貴女を苦しめたい訳ではないのですが…」
「リリー様?」

 ガサッ。
 っと音を立てて、秋バラの陰からクレイグが現れアメリアの前に立つ。クレイグに隠れるようにローゼもアメリアの前に出た。
「貴方…は…」
 驚愕の表情のアメリアは口元を自分の両手で覆う。
「…お久しぶりです。私がわかりますか?義母はは上」
 クレイグは胸に手を当てて礼を取る。
「は、はうえ」
「ええ。クレイグ・エンジェルです。貴女の義理の息子の」
「……」
 クレイグをじっと見ながら、後退りをするアメリア。シドニーが後からアメリアの両肩に手を置く。
「そして、貴女の娘の、ローゼです」
 クレイグが少し身体をずらすと、ピンクのショートヘアの女の子がアメリアの前に現れた。
「ひっ」
 恐怖の表情を浮かべるアメリアに、ローゼは目を閉じる。
 覚悟はしていた。でも見たくはない。
「いやあ!離して!」
「アメリア」
 逃げようとするアメリアを、シドニーが押し留める。
「あれは亡霊よ!私を呪う!」
「違う。アメリア」
「違わないわ!!」
 アメリアはそう叫ぶと、渾身の力で身を捩ってシドニーの手から逃れると、走り出した。
「アメリア!」
 捕まえようとするシドニーの手をすり抜け、バラの植え込みの隙間へと飛び込む。
「お母様!」
 弾かれたように走り出したローゼも、アメリアの後を追って植え込みの隙間へ飛び込んだ。
「ローゼ!」
 クレイグやシドニーが同じように飛び込むには隙間は小さい。アメリアやローゼでも、バラの棘に引っ掛けた傷ができているだろう。
「この向こうには厩がある。アメリアは馬に乗れるんだ!」
 シドニーが庭の小道を駆け出し、クレイグとリリーも後に続いた。

「いやあ!来ないで!」
 追いつき掛けたローゼの手を振り払い、アメリアは厩へと走る。そこへ馬丁が鞍の付いた馬を二頭引いて来た。
 あの、馬は…
「アメリア様!?この馬はお客人の…」
 アメリアは無言で馬丁から黒毛の馬の手綱を奪うと、ヒラリと跨る。
「アメリア様!」
 馬丁の静止を振り切り、そのまま馬で駆けて行くアメリア。
「お母様…」
 ローゼが遠ざかって行くアメリアを呆然と眺めていると、後ろからローゼを呼ぶ声がした。
「ローゼ!」
 ゆっくりと振り向く。
 ああ、やっぱり。
「…サイオン様」
 屋敷の方から、サイオンが心配そうな顔でローゼに駆け寄って来た。



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