58 / 83
57
しおりを挟む
57
翌日。
屋敷の前に馬車が停まり、クレイグが馬車を降りる。黒い鬘のローゼに続き、クレイグが手を差し伸べてリリーも馬車を降りた。
「クレイグ君、ローゼ、リリー様、ようこそおいでくださいました」
頭を下げて迎えるのはシドニー・ブラウン伯爵。ローゼの伯父だ。
「ローゼ、元気そうで良かった」
「伯父様にも沢山ご心配をお掛けして、申し訳ありません」
頭を下げるローゼの肩をシドニーはポンポンと叩く。
「無事なら良いんだよ。詳しい話は中でしよう」
応接室で、クレイグが手渡した書面を読んだシドニーは、視線を上げると苦く笑いながら言う。
「大体の話は聞いていたが…改めてサイオン殿下も大胆な事をお考えになる」
「義伯父上」
「伯父様」
「『ローゼが実は双子だった計画』と『ローゼにそっくりな娘を養女にする計画』か、ローゼはどちらが良いんだ?」
「伯父様…その前に、本当に良いんですか?」
ローゼはシドニーを窺うように言う。
「うん?」
「どちらの計画でも…私、ブラウン伯爵家の…お母様の子供という事になるんですけど…」
実は双子だったとしたら、もちろんシドニーの妹でローゼの母親アメリアの娘という事になるし、そっくりな娘を養女にするのも、計画ではアメリアの娘としてブラウン家の籍に入る事になっているのだ。
「ああ。もちろん承知しているよ」
シドニーはそう言ってローゼに微笑み掛ける。
「…いずれにせよ、ローゼが我が家に来るなら、アメリアの件は避けては通れない。それに、アメリアだってローゼが幸せになるのなら、喜んで協力する筈なんだ。本当ならば」
「伯父様…」
「覚悟を決める時が来たんだ。アメリアも、私も」
シドニーはキッパリと言った。
ブラウン伯爵家ならば、クレイグが出入りし、ローゼと交流しても不自然ではないし、ローゼがブラウン伯爵家の娘として学園に行く際、エンジェル男爵家を休みの日に帰る「親戚の家」にする事もできる。
また今まで伯爵家から王太子妃を輩出した前例はないが、伯爵家も上位貴族である上、王太子の達ての希望という事であればそう困難ではないだろう。
ローゼをブラウン伯爵家の娘にするため、アメリアに、思い出させなければならない。
-----
シドニーは、庭を見たいと言うリリーに伴って、以前アメリアと話した東屋へと来ていた。
「今日はアメリア様はどちらに?」
東屋の中にあるテーブルで紅茶を飲みながらリリーはシドニーに問う。
「アメリアの友人が婚家から帰って来ているので、その家へ行っております。明日には戻りますよ」
「その方はアメリア様の記憶の事をご存知なのですか?」
「ええ。子供の頃からの友人なので」
「そうなんですか」
あのバラはもう花の時期は終わっちゃったのね…
リリーは以前アメリアとシドニーと見たバラのある方を眺める。ローゼとアメリア色のバラと、シドニーの色のバラ。
庭を見ていると、シドニーが
「もしも…」
と呟くように言った。
「…もしも、アメリアが思い出さなかったり、思い出してもローゼを拒絶したりした時には、ローゼを私の養女にします」
「え?」
「アメリアがちゃんと母親としてローゼに接する事ができるなら、その必要はないですが…ローゼに、母親か、父親かがちゃんといて、愛されてかわいがられる生活をさせてやりたい。ほんの数年でも」
真剣な表情のシドニー。
リリーはそんなシドニーを見つめる。
「これまで、ローゼに関わって来なかった伯父が今更何を言うかと思われそうですけど」
苦笑い。
ああ…やっぱり…
「もしローゼを養女にするなら、私も結婚していた方が良いのだろうか…?」
小さな声でシドニーが言う。それを聞き逃さなかったリリーは「え!?」と思わず声を出す。
「…いえ、将来王太子妃になる令嬢の養い親となるなら、父母揃っていた方が良いのだろうかと思いまして」
「…シドニー様には、ご結婚を考えておられるようなお相手がおられるのですか?」
「リリー様?」
もしかして、アメリア様のご友人?「婚家から帰って来ている」って、里帰りじゃなくて、離婚とか死別とかで婚家との縁を切って帰って来たとか!?
不思議そうな表情をしたシドニーをじっと見つめるリリー。
「あの…リリー様?」
「…シドニー様、あの、これ、読んでいただけますか?」
リリーはドレスのポケットから白い封筒を取り出し、テーブルの上に置く。
「手紙…ですか?」
「はい」
白い封筒には模様も紋章もない。宛名も差出人も書かれていない。
シドニーは首を傾げながら封筒を手に取る。
「わっ私、読まれている間、お庭を見ていますね!」
リリーは勢い良く立ち上がると、東屋を出て庭に降り、ずんずんと以前見たバラの植わった方へと歩いて行く。
「…?」
シドニーはそんなリリーの後姿を少し眺めた後、封筒を開いて便箋を取り出した。
翌日。
屋敷の前に馬車が停まり、クレイグが馬車を降りる。黒い鬘のローゼに続き、クレイグが手を差し伸べてリリーも馬車を降りた。
「クレイグ君、ローゼ、リリー様、ようこそおいでくださいました」
頭を下げて迎えるのはシドニー・ブラウン伯爵。ローゼの伯父だ。
「ローゼ、元気そうで良かった」
「伯父様にも沢山ご心配をお掛けして、申し訳ありません」
頭を下げるローゼの肩をシドニーはポンポンと叩く。
「無事なら良いんだよ。詳しい話は中でしよう」
応接室で、クレイグが手渡した書面を読んだシドニーは、視線を上げると苦く笑いながら言う。
「大体の話は聞いていたが…改めてサイオン殿下も大胆な事をお考えになる」
「義伯父上」
「伯父様」
「『ローゼが実は双子だった計画』と『ローゼにそっくりな娘を養女にする計画』か、ローゼはどちらが良いんだ?」
「伯父様…その前に、本当に良いんですか?」
ローゼはシドニーを窺うように言う。
「うん?」
「どちらの計画でも…私、ブラウン伯爵家の…お母様の子供という事になるんですけど…」
実は双子だったとしたら、もちろんシドニーの妹でローゼの母親アメリアの娘という事になるし、そっくりな娘を養女にするのも、計画ではアメリアの娘としてブラウン家の籍に入る事になっているのだ。
「ああ。もちろん承知しているよ」
シドニーはそう言ってローゼに微笑み掛ける。
「…いずれにせよ、ローゼが我が家に来るなら、アメリアの件は避けては通れない。それに、アメリアだってローゼが幸せになるのなら、喜んで協力する筈なんだ。本当ならば」
「伯父様…」
「覚悟を決める時が来たんだ。アメリアも、私も」
シドニーはキッパリと言った。
ブラウン伯爵家ならば、クレイグが出入りし、ローゼと交流しても不自然ではないし、ローゼがブラウン伯爵家の娘として学園に行く際、エンジェル男爵家を休みの日に帰る「親戚の家」にする事もできる。
また今まで伯爵家から王太子妃を輩出した前例はないが、伯爵家も上位貴族である上、王太子の達ての希望という事であればそう困難ではないだろう。
ローゼをブラウン伯爵家の娘にするため、アメリアに、思い出させなければならない。
-----
シドニーは、庭を見たいと言うリリーに伴って、以前アメリアと話した東屋へと来ていた。
「今日はアメリア様はどちらに?」
東屋の中にあるテーブルで紅茶を飲みながらリリーはシドニーに問う。
「アメリアの友人が婚家から帰って来ているので、その家へ行っております。明日には戻りますよ」
「その方はアメリア様の記憶の事をご存知なのですか?」
「ええ。子供の頃からの友人なので」
「そうなんですか」
あのバラはもう花の時期は終わっちゃったのね…
リリーは以前アメリアとシドニーと見たバラのある方を眺める。ローゼとアメリア色のバラと、シドニーの色のバラ。
庭を見ていると、シドニーが
「もしも…」
と呟くように言った。
「…もしも、アメリアが思い出さなかったり、思い出してもローゼを拒絶したりした時には、ローゼを私の養女にします」
「え?」
「アメリアがちゃんと母親としてローゼに接する事ができるなら、その必要はないですが…ローゼに、母親か、父親かがちゃんといて、愛されてかわいがられる生活をさせてやりたい。ほんの数年でも」
真剣な表情のシドニー。
リリーはそんなシドニーを見つめる。
「これまで、ローゼに関わって来なかった伯父が今更何を言うかと思われそうですけど」
苦笑い。
ああ…やっぱり…
「もしローゼを養女にするなら、私も結婚していた方が良いのだろうか…?」
小さな声でシドニーが言う。それを聞き逃さなかったリリーは「え!?」と思わず声を出す。
「…いえ、将来王太子妃になる令嬢の養い親となるなら、父母揃っていた方が良いのだろうかと思いまして」
「…シドニー様には、ご結婚を考えておられるようなお相手がおられるのですか?」
「リリー様?」
もしかして、アメリア様のご友人?「婚家から帰って来ている」って、里帰りじゃなくて、離婚とか死別とかで婚家との縁を切って帰って来たとか!?
不思議そうな表情をしたシドニーをじっと見つめるリリー。
「あの…リリー様?」
「…シドニー様、あの、これ、読んでいただけますか?」
リリーはドレスのポケットから白い封筒を取り出し、テーブルの上に置く。
「手紙…ですか?」
「はい」
白い封筒には模様も紋章もない。宛名も差出人も書かれていない。
シドニーは首を傾げながら封筒を手に取る。
「わっ私、読まれている間、お庭を見ていますね!」
リリーは勢い良く立ち上がると、東屋を出て庭に降り、ずんずんと以前見たバラの植わった方へと歩いて行く。
「…?」
シドニーはそんなリリーの後姿を少し眺めた後、封筒を開いて便箋を取り出した。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
ご援助契約成立。ルームシェアの相手は、まさかのお嬢様女子高生
さかき原枝都は
恋愛
マジかぁ! こんな『援助交際』本当にあっていいのか?
大学を卒業し、勤務5年目を迎えるちょうど油が乗りつつある、社内ではまだ若手と言われている某大手商社に勤務する社員。実際は30歳を目前、中年と言う年代に差し掛かろうとしている久我雄太は少し焦っていた。
このまま俺は独身でいいんだろうか……と。
今、俺は同じ会社に勤務する同期の女性、蓬田香と付き合っている。
彼女との付き合いはかれこれ3年になる。
俺自身自分は、彼女と結婚できるものだと信じていた。
だが、破局は突然訪れた。
失意の中、俺の頭の中に浮かんだ『援助交際』と言うキーワード。
香と別れ、人肌恋しくなりその欲意が頂点に達した俺は、無意識にスマホで『援助交際』と打ち、とあるサイトにアクセスした。そして待ち合わせの場所で出会った制服を纏った女子高生と、肌を触れ合う事を目的に、俺の欲情をその子で解消するために誘ってしまった。
だが、意外な展開がこの俺を待ち受けていた。これは『援助交際』と言う罪に触れた報いなのだろうか?
なんと訳あり女子高生とルームシェアすることになったのだ。
あああ、俺の欲情は最大限募るばかりだ。
あんなかわいい子が一緒に住んでいるなんて、世間様には知られちゃいけない関係。
俺と彼女はついに、ご援助契約を結んでしまったのだ。
前途多難……だけど、幸せかもしれない。罪深きこの俺を神様は許してくれるんだろうか……多分、世間様は許さねぇと思うけど!
なぁ、援助契約は君のどこまでOKなわけ?
少しばかり察してくれると、ほんと助かるんだけど!!
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
【完結】騙され令嬢は泣き寝入りしない!
白雨 音
恋愛
パーティの夜、アリス=ブーランジェ伯爵令嬢は、若き男爵ジュールと運命的な出会いをした。
お互いに運命を感じ、瞬く間に婚約の運びとなった。
ジュールとの甘い結婚生活を夢見て過ごすアリスの元に、ある日、一人の男が訪ねて来た。
彼、セヴラン=デュランド伯爵は、「ジュールには裏の顔がある」と言う。
信じられないアリスは、自分の目で確かめようと、セブランの助けを借り、館にメイドとして潜入する事に…
異世界恋愛:短編(全12話) ※魔法要素ありません。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる