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「お兄様、私、今日デビィの所へ行ったんです。そうしたらお兄様がおられて…」
これからの事を話すためにサイオンの私室に集まったのは、クレイグ、イヴァン、リリー、コーネリアの四人。
話が終わって雑談になったのを見計らってローゼは自分の右隣に座るクレイグに言う。
「デビィがお兄様が何だか変だったって心配してましたけど…何かあったんですか?」
「デボラ嬢が?」
「はい」
「……」
クレイグは少し黙った後、ローゼに笑顔を向けた。
「いや、何もないよ」
「…嘘」
ローゼはじっとクレイグを見つめる。
その場の全員の視線がクレイグに集まり、クレイグは小さくため息を吐いた。
「後で、二人で話そう」
観念したようにそう言って、ローゼは頷いた。
-----
「それじゃあ、ローゼまた明後日ね」
「はい。よろしくお願いします」
リリーと、イヴァンとコーネリアが部屋を出て行って、クレイグとサイオン、そしてローゼが残る。
「俺は寝室の方へ行っていようか?」
サイオンがそう言うと、クレイグは「いえ」と言う。
「殿下には居ていただいて…そして教えていただきたく」
「教える?」
「……」
サイオンの正面に座ったクレイグは、無言で膝に腕をつき、両手で口元を覆う。
「お兄様?」
サイオンの隣に座るローゼは心配そうにクレイグを見ていた。
「…ローゼ、デボラ嬢はそんなに私の態度がおかしかったと言っていたのか?」
「はい」
「……」
暫く黙って何かを考えていたクレイグは、テーブルへ視線を落としたままで言う。
「…殿下、殿下はこの誘拐事件が起きるまでは、ゲームが終わるまではローゼと会わないつもりだったと聞きましたが…」
「ああ。そうだな」
「どうしたらそのように理性的になれるんでしょうか?」
「うん?」
クレイグは視線を上げてサイオンを見る。
「私は、毎日会いに行かずにはいられないのに」
…え?
もしかして、お兄様…
「デボラ嬢か?」
サイオンがそう言うと、クレイグは眉を寄せて頷く。
「ええ!?お兄様、デビィを…す、好きに!?」
クレイグはまた顔を伏せる。
「生まれて初めて、異性に惹かれた」
誰も好きになった事がないと言ってたお兄様が…
「十二も歳下の…まだ少女なのに…今日デボラ嬢が幼なじみと会っているのを見て、彼が恋人なのかと思うと…」
「マリックさんが来てたの?」
「二人きりで、手を握って、見つめ合って話して、頭をポンポンとして帰って行った」
クレイグは俯いたまま言う。
「昨日まで具合が悪そうだったのに、今日は気分が良いと言っていたし。…恋人と会えたからだろう?」
お兄様が…ヤキモチを。
「…殿下…このような不快な気持ちを、どうしたら抑えられるんでしょうか?」
サイオンは少し考えて
「嫉妬心を抑えるのは、無理だな」
そう言って、ふっと笑った。
「無理なんですか?」
「無理だ。これは心が通じてからも同じだ」
「無理…」
クレイグが呟く。
「俺がゲームが終わるまでローゼと会わないと決めたのは、ゲームの力のせいで俺がローゼに惹かれていると考えているローゼにいくら気持ちを伝えても受け入れられる事はないと考えたからだ。自分が何とも思っていない相手に詰め寄られても負担に思うだけだろうし。ローゼの場合はその相手が七人もいるし」
「負担…そうですよね」
「リリーとの婚約を解消すればすぐに次の婚約者を定められるだろうから、その場合、婚約期間も短いだろうし…俺が他の令嬢に心を奪われている様子を周りに知られていれば、次の婚約者にもローゼにも悪影響しかない」
次の婚約者…そうか。そうよね。それはそうなって当たり前なのよ。サイオン殿下は王太子で、その結婚は国のためでもあるんだもん。
「クレイグ殿は、その気持ちを言わずに抑えなければと考えているのか?」
サイオンの言葉にクレイグは顔を上げる。
「…恋人のいる、歳下の、少女です。私は大人ですし、彼女に負担を掛けたい訳ではありません」
「お兄様、デビィとマリックさんは今はもうお付き合いはしてないのよ」
「…は?」
「別れたって、デビィから聞いたの。でも幼なじみだからお見舞いに来たっておかしくないわ」
「…しかし、あの様子は別れたようには見えなかった。それに、恋人がいなくても、歳下でまだ子供だ」
「…デボラ嬢と同じ歳のローゼを囲い込もうとしている俺には耳が痛いな」
サイオンが苦笑いで言う。
「かっ囲い込むって…」
「まだ十五歳のローゼを別人に仕立ててまで俺の妃にしようとしているんだから、囲い込んでるだろう?」
ローゼを見ながらにっこりと笑う。
「サイオン殿下は私より歳下ではないですか」
「九歳差も十二歳差も大差ないと思うが…こういう事は歳の差よりも、相手次第だしな」
「相手次第?」
「ローゼのように七人に詰め寄られる訳ではなし、デボラ嬢がクレイグ殿の気持ちに応えるかどうかは分からんが、クレイグ殿のような男性から好かれている事自体は嬉しいと、俺なら思うがな」
「気持ちを…伝えろと?」
クレイグがサイオンを窺うように言うと、サイオンとローゼは同時に頷いた。
「お兄様、私、今日デビィの所へ行ったんです。そうしたらお兄様がおられて…」
これからの事を話すためにサイオンの私室に集まったのは、クレイグ、イヴァン、リリー、コーネリアの四人。
話が終わって雑談になったのを見計らってローゼは自分の右隣に座るクレイグに言う。
「デビィがお兄様が何だか変だったって心配してましたけど…何かあったんですか?」
「デボラ嬢が?」
「はい」
「……」
クレイグは少し黙った後、ローゼに笑顔を向けた。
「いや、何もないよ」
「…嘘」
ローゼはじっとクレイグを見つめる。
その場の全員の視線がクレイグに集まり、クレイグは小さくため息を吐いた。
「後で、二人で話そう」
観念したようにそう言って、ローゼは頷いた。
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「それじゃあ、ローゼまた明後日ね」
「はい。よろしくお願いします」
リリーと、イヴァンとコーネリアが部屋を出て行って、クレイグとサイオン、そしてローゼが残る。
「俺は寝室の方へ行っていようか?」
サイオンがそう言うと、クレイグは「いえ」と言う。
「殿下には居ていただいて…そして教えていただきたく」
「教える?」
「……」
サイオンの正面に座ったクレイグは、無言で膝に腕をつき、両手で口元を覆う。
「お兄様?」
サイオンの隣に座るローゼは心配そうにクレイグを見ていた。
「…ローゼ、デボラ嬢はそんなに私の態度がおかしかったと言っていたのか?」
「はい」
「……」
暫く黙って何かを考えていたクレイグは、テーブルへ視線を落としたままで言う。
「…殿下、殿下はこの誘拐事件が起きるまでは、ゲームが終わるまではローゼと会わないつもりだったと聞きましたが…」
「ああ。そうだな」
「どうしたらそのように理性的になれるんでしょうか?」
「うん?」
クレイグは視線を上げてサイオンを見る。
「私は、毎日会いに行かずにはいられないのに」
…え?
もしかして、お兄様…
「デボラ嬢か?」
サイオンがそう言うと、クレイグは眉を寄せて頷く。
「ええ!?お兄様、デビィを…す、好きに!?」
クレイグはまた顔を伏せる。
「生まれて初めて、異性に惹かれた」
誰も好きになった事がないと言ってたお兄様が…
「十二も歳下の…まだ少女なのに…今日デボラ嬢が幼なじみと会っているのを見て、彼が恋人なのかと思うと…」
「マリックさんが来てたの?」
「二人きりで、手を握って、見つめ合って話して、頭をポンポンとして帰って行った」
クレイグは俯いたまま言う。
「昨日まで具合が悪そうだったのに、今日は気分が良いと言っていたし。…恋人と会えたからだろう?」
お兄様が…ヤキモチを。
「…殿下…このような不快な気持ちを、どうしたら抑えられるんでしょうか?」
サイオンは少し考えて
「嫉妬心を抑えるのは、無理だな」
そう言って、ふっと笑った。
「無理なんですか?」
「無理だ。これは心が通じてからも同じだ」
「無理…」
クレイグが呟く。
「俺がゲームが終わるまでローゼと会わないと決めたのは、ゲームの力のせいで俺がローゼに惹かれていると考えているローゼにいくら気持ちを伝えても受け入れられる事はないと考えたからだ。自分が何とも思っていない相手に詰め寄られても負担に思うだけだろうし。ローゼの場合はその相手が七人もいるし」
「負担…そうですよね」
「リリーとの婚約を解消すればすぐに次の婚約者を定められるだろうから、その場合、婚約期間も短いだろうし…俺が他の令嬢に心を奪われている様子を周りに知られていれば、次の婚約者にもローゼにも悪影響しかない」
次の婚約者…そうか。そうよね。それはそうなって当たり前なのよ。サイオン殿下は王太子で、その結婚は国のためでもあるんだもん。
「クレイグ殿は、その気持ちを言わずに抑えなければと考えているのか?」
サイオンの言葉にクレイグは顔を上げる。
「…恋人のいる、歳下の、少女です。私は大人ですし、彼女に負担を掛けたい訳ではありません」
「お兄様、デビィとマリックさんは今はもうお付き合いはしてないのよ」
「…は?」
「別れたって、デビィから聞いたの。でも幼なじみだからお見舞いに来たっておかしくないわ」
「…しかし、あの様子は別れたようには見えなかった。それに、恋人がいなくても、歳下でまだ子供だ」
「…デボラ嬢と同じ歳のローゼを囲い込もうとしている俺には耳が痛いな」
サイオンが苦笑いで言う。
「かっ囲い込むって…」
「まだ十五歳のローゼを別人に仕立ててまで俺の妃にしようとしているんだから、囲い込んでるだろう?」
ローゼを見ながらにっこりと笑う。
「サイオン殿下は私より歳下ではないですか」
「九歳差も十二歳差も大差ないと思うが…こういう事は歳の差よりも、相手次第だしな」
「相手次第?」
「ローゼのように七人に詰め寄られる訳ではなし、デボラ嬢がクレイグ殿の気持ちに応えるかどうかは分からんが、クレイグ殿のような男性から好かれている事自体は嬉しいと、俺なら思うがな」
「気持ちを…伝えろと?」
クレイグがサイオンを窺うように言うと、サイオンとローゼは同時に頷いた。
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