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「ローゼが死んだんだぞ!何でデビィはそんなに元気なんだ?」
デボラの病室で、不満気な表情でベッドの傍らに立つマリックが言う。
「入院してるのに元気に見えるの?それに…それって私が代わりに死ねば良かったのにって言ってるの?わざわざ二人を先に帰らせて言うのがそれなの?」
ベッドに座ったデボラはマリックをジロリと睨む。
「いやっそういう意味じゃなく…」
少し慌てたマリックは「ごめん」と小さく言う。
「いくら幼なじみで遠慮がないからって、もう少し考えて物を言いなさいよね」
「…いや、デビィ、友達が死んだのに落ち込んでる風でもないし…」
モゴモゴとマリックが言う。
「私…最期にも会えてないし、葬儀にも出てないし、寮の部屋が片付くのも見てないし…ただ実感がないだけよ」
「まあ…それもそうか」
「マリックは今混乱してるんだろうから許すけど、結構酷い事言ってるからね」
「ごめんって。まあ…混乱はしてるけど…」
マリックは前屈みになると、ベッドに両手をつく。
「デビィ」
「何?」
ベッドに手をついたまま上目遣いでデボラを見る。
「…慰めてくれって言ったら…怒る?」
「は?」
慰める?
「ローゼが亡くなって十日しか経ってないのに、何言って…」
「やっぱり怒るよなあ。俺だって勝手な事を言ってる自覚はあるんだ。でも…淋しいのか、悔しいのか、悲しいのか、自分でも判らないけどグチャグチャで苦しいんだ」
マリックは眉を寄せて苦し気に言う。
こういう素直なトコが好きで恋人になったのよね…まあ私の前でもおかまいなしに「ローゼが好き」って素直に言い過ぎたから別れたんだけど。
「デビィ…」
マリックが手を伸ばしてデボラの手を握る。
デボラは反対の手でペチンとマリックの手を叩いた。
「混乱してるのは私もなんだから、こういうのの答えは直ぐには出せないわ」
マリックは苦笑いしながら手を離す。
「そっか。そうだな」
「眠れないなら薬をあげるわよ?」
「ははは。デビィらしいな。…明日また来て良い?」
「だめ」
「はは。じゃあデビィが家に戻ったらな」
マリックはポンポンとデボラの頭を叩いて帰って行った。
-----
「私のせいだわ…」
サフィは両手で顔を覆う。
「サフィ」
ランドールは首を横に振りながらサフィの肩に手を置く。
「ごめんなさい。ランドール様。私があんな事言ったから、噂になって…そのせいで…ごめんなさい」
「サフィのせいじゃない」
「こうして私に気遣わせてしまってごめんなさい…本当はランドール様だって悲しいのに…私は大丈夫ですから…」
「だめだ」
ランドールは泣いているサフィを抱きしめる。
「ランドール様?」
「サフィまで居なくなったら俺はおかしくなってしまう。頼む…側にいてくれ」
-----
コンコン。
「クリス?入るわよ」
「……」
返事はないが、エレノアは扉を開ける。
ソファで丸くなるように座っているクリスティンが見えた。
「クリス。食事を摂ってないんですって?」
エレノアはクリスティンの隣に座った。
「……」
「みんな心配してるわ。スープだけでも飲まない?」
クリスティンは小さく首を横に振ると、小さな声で呟く。
「エリー…ローゼが…俺の目の前で攫われたんだ」
「うん」
「俺が…追い詰めた」
「クリス」
「自分が許せない…」
「クリス、違うわ」
エレノアは手を伸ばして、クリスティンの頭を自分の腕に閉じ込め、胸に押し付けた。
「あの輩はローゼを狙っていたんだもの。たまたまクリスの前だっただけよ」
「エリー…」
クリスティンはゆっくりとエレノアの背中に腕を回す。エレノアはクリスティンの頭を優しく撫でた。
-----
「ルーク様、遠駆けなら付いて行っても良いですか?」
乗馬服のドロワは馬を引き馬房を出てきたルークに声を掛ける。
「……」
ルークが一人で泣きたくて連日馬を走らせている事は知っている。行き先があの湖だと言う事も。
「だめだと言われても付いて行きますけど」
今日は絶対に付いて行くつもりでドロワも馬で来たのだ。
「好きにしろ」
ひらりと馬に跨がると、ルークは鞭を入れた。
ドロワも馬に飛び乗ると、ルークの後を追う。
街中では早足だったルークの馬は湖の側まで行くとスピードを上げた。ドロワは離されないように必死で手綱を握る。
着いたのはあの船小屋が見える芝生の広場。
馬を木に繋いで、ルークは芝生の上に座る。ドロワもルークから少し離れた所に座った。
「…乗馬、上手くなったな」
ルークがぽつりと呟く。
ドロワはルークと婚約するまで馬に乗った事がなかったのだが、騎士になるルークと少しでも共通の話題が欲しくて猛練習をしたのだ。
「ありがとうございます」
そのまま二人で黙って湖を見つめた。
「ローゼが死んだんだぞ!何でデビィはそんなに元気なんだ?」
デボラの病室で、不満気な表情でベッドの傍らに立つマリックが言う。
「入院してるのに元気に見えるの?それに…それって私が代わりに死ねば良かったのにって言ってるの?わざわざ二人を先に帰らせて言うのがそれなの?」
ベッドに座ったデボラはマリックをジロリと睨む。
「いやっそういう意味じゃなく…」
少し慌てたマリックは「ごめん」と小さく言う。
「いくら幼なじみで遠慮がないからって、もう少し考えて物を言いなさいよね」
「…いや、デビィ、友達が死んだのに落ち込んでる風でもないし…」
モゴモゴとマリックが言う。
「私…最期にも会えてないし、葬儀にも出てないし、寮の部屋が片付くのも見てないし…ただ実感がないだけよ」
「まあ…それもそうか」
「マリックは今混乱してるんだろうから許すけど、結構酷い事言ってるからね」
「ごめんって。まあ…混乱はしてるけど…」
マリックは前屈みになると、ベッドに両手をつく。
「デビィ」
「何?」
ベッドに手をついたまま上目遣いでデボラを見る。
「…慰めてくれって言ったら…怒る?」
「は?」
慰める?
「ローゼが亡くなって十日しか経ってないのに、何言って…」
「やっぱり怒るよなあ。俺だって勝手な事を言ってる自覚はあるんだ。でも…淋しいのか、悔しいのか、悲しいのか、自分でも判らないけどグチャグチャで苦しいんだ」
マリックは眉を寄せて苦し気に言う。
こういう素直なトコが好きで恋人になったのよね…まあ私の前でもおかまいなしに「ローゼが好き」って素直に言い過ぎたから別れたんだけど。
「デビィ…」
マリックが手を伸ばしてデボラの手を握る。
デボラは反対の手でペチンとマリックの手を叩いた。
「混乱してるのは私もなんだから、こういうのの答えは直ぐには出せないわ」
マリックは苦笑いしながら手を離す。
「そっか。そうだな」
「眠れないなら薬をあげるわよ?」
「ははは。デビィらしいな。…明日また来て良い?」
「だめ」
「はは。じゃあデビィが家に戻ったらな」
マリックはポンポンとデボラの頭を叩いて帰って行った。
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「私のせいだわ…」
サフィは両手で顔を覆う。
「サフィ」
ランドールは首を横に振りながらサフィの肩に手を置く。
「ごめんなさい。ランドール様。私があんな事言ったから、噂になって…そのせいで…ごめんなさい」
「サフィのせいじゃない」
「こうして私に気遣わせてしまってごめんなさい…本当はランドール様だって悲しいのに…私は大丈夫ですから…」
「だめだ」
ランドールは泣いているサフィを抱きしめる。
「ランドール様?」
「サフィまで居なくなったら俺はおかしくなってしまう。頼む…側にいてくれ」
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コンコン。
「クリス?入るわよ」
「……」
返事はないが、エレノアは扉を開ける。
ソファで丸くなるように座っているクリスティンが見えた。
「クリス。食事を摂ってないんですって?」
エレノアはクリスティンの隣に座った。
「……」
「みんな心配してるわ。スープだけでも飲まない?」
クリスティンは小さく首を横に振ると、小さな声で呟く。
「エリー…ローゼが…俺の目の前で攫われたんだ」
「うん」
「俺が…追い詰めた」
「クリス」
「自分が許せない…」
「クリス、違うわ」
エレノアは手を伸ばして、クリスティンの頭を自分の腕に閉じ込め、胸に押し付けた。
「あの輩はローゼを狙っていたんだもの。たまたまクリスの前だっただけよ」
「エリー…」
クリスティンはゆっくりとエレノアの背中に腕を回す。エレノアはクリスティンの頭を優しく撫でた。
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「ルーク様、遠駆けなら付いて行っても良いですか?」
乗馬服のドロワは馬を引き馬房を出てきたルークに声を掛ける。
「……」
ルークが一人で泣きたくて連日馬を走らせている事は知っている。行き先があの湖だと言う事も。
「だめだと言われても付いて行きますけど」
今日は絶対に付いて行くつもりでドロワも馬で来たのだ。
「好きにしろ」
ひらりと馬に跨がると、ルークは鞭を入れた。
ドロワも馬に飛び乗ると、ルークの後を追う。
街中では早足だったルークの馬は湖の側まで行くとスピードを上げた。ドロワは離されないように必死で手綱を握る。
着いたのはあの船小屋が見える芝生の広場。
馬を木に繋いで、ルークは芝生の上に座る。ドロワもルークから少し離れた所に座った。
「…乗馬、上手くなったな」
ルークがぽつりと呟く。
ドロワはルークと婚約するまで馬に乗った事がなかったのだが、騎士になるルークと少しでも共通の話題が欲しくて猛練習をしたのだ。
「ありがとうございます」
そのまま二人で黙って湖を見つめた。
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