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「校外学習?」
「ああ。秋期は大きな行事がないから、その時の生徒会が独自に何かを企画したりするだろう?今年は王都の郊外の湖でハイキングのような事をやるらしい」
王城のサイオンの執務室でそう話したイヴァンは、サイオンの座る執務机の前に立っている。
「…生徒会の連中はそこで何か企んでいるのか?ローゼと接触するために」
「うーん、各地点に生徒会役員とサポートメンバーが配置されるが、他の生徒もいるし、一言二言話をするので精一杯だろうと思うけどな」
顎に手を当てて考えるイヴァンを見上げたサイオンは小さくため息を吐く。
「なら良いが…」
「サイオン、本当に卒業パーティーが…ゲームが終わるまで、ローゼに会わないつもりなのか?」
「ああ」
サイオンは手元の書類に視線を落とす。
「ゲームが終わればローゼを好きじゃなくなるから?」
「……」
無言で執務机の引き出しを開けて、違う書類を出す。
「…もちろん、その可能性も考えている」
「そうだな。あらゆる可能性を考えるのがサイオンの仕事だ」
「そうだ」
書類を見ながらふっと笑う。良い展開から悪い展開まであらゆる可能性を考え、それぞれの対処を考える。サイオンは王子として幼い頃からそうして来たのだ。
「本当に好きじゃなくなるのかな?…今こんなに好きだから想像がつかない」
イヴァンが言うと、サイオンは顔を上げてイヴァンを見る。
「イヴァン、今まで何人くらいを好きになった事があるんだ?」
「ん?」
「…俺の事もそういう意味で好きなんだろ?」
「ああ。そういう意味で好きになったのは…五人かな」
「意外と少ないな」
「そうか?ちなみに初恋は近所の女の子だった。それから家庭教師のお兄さん。後は結構歳上の同僚。あ、女性。後はサイオンとローゼだ」
「同僚?学園の教師?」
「そう」
「…俺の事を好きなのと同時にその教師も好きだったのか?」
「サイオンの事は学園生の頃からだから、そうだな」
「……」
「サイオン?」
サイオンはイヴァンから、机の上に視線を移す。
「俺は…ローゼが初恋だ」
「ああ」
「リリーとの婚約解消を覆すつもりはない。リリーも同意しているし。だが、最悪の場合、俺はこの気持ちを持ったまま、他の令嬢を王太子妃として選ばなくてはならない」
「…そうだな」
「俺はローゼを好きなまま、他の令嬢を好きになる事ができるだろうか?」
真剣な表情のサイオン。
サイオンは王太子なので、リリーとの婚約を解消すれば直ぐに王家と議会で次の王太子妃候補の選定が始まるであろう。サイオンにとっての最悪のシナリオは、ゲームが終わってもローゼを好きなまま、ローゼに拒まれる事なのだ。
イヴァンは執務机の前から移動し、サイオンの隣に立つ。
「またキスするつもりか?」
サイオンが視線を上げてイヴァンを軽く睨む。
「バレたか」
イヴァンは口角を上げると、サイオンの頭にポンッと手を置いた。
「俺はサイオンを好きだし、邪な気持ちももちろんあるにはあるが、ただ幸せになって欲しい、それを近くで見ていたい気持ちもあって、そっちの方が大きいんだ。…きっとサイオンもローゼにそんな風に思える」
「……」
ローゼが好きだ。姿を見たい。笑顔を見たい。話をしたい。本当は抱きしめて、口付けて、閉じ込めて、独り占めしたい。
ローゼが他の男と幸せになるのを見たい気持ちなど一欠片もない。今は。
「…思えるか?」
「思えるさ」
イヴァンはサイオンの頭をまたポンポンと叩いた。
-----
校外学習の日。
王都の郊外の湖の畔にそれぞれの学年毎に分かれて生徒が集まっている。ローゼたち一年生は貴族の別荘などがある湖の南側の芝生の広場だ。
ここからスタートし、課題として出された湖畔の植物を採取しながら五箇所のチェックポイントを通り、ゴールまでのタイムを計る。生徒会役員とサポートメンバー1名づつがチェックポイントで通過の印を押す事になっていた。
ローゼとデボラの班は女子七人で、ローゼとデボラが課題の植物名が書かれた紙を、二冊に分かれた植物の辞典を二人が持ち、地図を見る係が二人、班長はチェックポイントで印を貰うカードを持つ。
班毎に何分か置きに出発するので、まだ最初の何班かが出発したばかりの広場には沢山の生徒がいる。
「ピンクの髪の女、いたか?」
「みんな帽子被っててわかんねぇな」
「まあ、気を付けて見てりゃその内見つかるだろ」
「だな」
広場の隅の木の影で、コソコソと話す二人の男の姿があった。
「校外学習?」
「ああ。秋期は大きな行事がないから、その時の生徒会が独自に何かを企画したりするだろう?今年は王都の郊外の湖でハイキングのような事をやるらしい」
王城のサイオンの執務室でそう話したイヴァンは、サイオンの座る執務机の前に立っている。
「…生徒会の連中はそこで何か企んでいるのか?ローゼと接触するために」
「うーん、各地点に生徒会役員とサポートメンバーが配置されるが、他の生徒もいるし、一言二言話をするので精一杯だろうと思うけどな」
顎に手を当てて考えるイヴァンを見上げたサイオンは小さくため息を吐く。
「なら良いが…」
「サイオン、本当に卒業パーティーが…ゲームが終わるまで、ローゼに会わないつもりなのか?」
「ああ」
サイオンは手元の書類に視線を落とす。
「ゲームが終わればローゼを好きじゃなくなるから?」
「……」
無言で執務机の引き出しを開けて、違う書類を出す。
「…もちろん、その可能性も考えている」
「そうだな。あらゆる可能性を考えるのがサイオンの仕事だ」
「そうだ」
書類を見ながらふっと笑う。良い展開から悪い展開まであらゆる可能性を考え、それぞれの対処を考える。サイオンは王子として幼い頃からそうして来たのだ。
「本当に好きじゃなくなるのかな?…今こんなに好きだから想像がつかない」
イヴァンが言うと、サイオンは顔を上げてイヴァンを見る。
「イヴァン、今まで何人くらいを好きになった事があるんだ?」
「ん?」
「…俺の事もそういう意味で好きなんだろ?」
「ああ。そういう意味で好きになったのは…五人かな」
「意外と少ないな」
「そうか?ちなみに初恋は近所の女の子だった。それから家庭教師のお兄さん。後は結構歳上の同僚。あ、女性。後はサイオンとローゼだ」
「同僚?学園の教師?」
「そう」
「…俺の事を好きなのと同時にその教師も好きだったのか?」
「サイオンの事は学園生の頃からだから、そうだな」
「……」
「サイオン?」
サイオンはイヴァンから、机の上に視線を移す。
「俺は…ローゼが初恋だ」
「ああ」
「リリーとの婚約解消を覆すつもりはない。リリーも同意しているし。だが、最悪の場合、俺はこの気持ちを持ったまま、他の令嬢を王太子妃として選ばなくてはならない」
「…そうだな」
「俺はローゼを好きなまま、他の令嬢を好きになる事ができるだろうか?」
真剣な表情のサイオン。
サイオンは王太子なので、リリーとの婚約を解消すれば直ぐに王家と議会で次の王太子妃候補の選定が始まるであろう。サイオンにとっての最悪のシナリオは、ゲームが終わってもローゼを好きなまま、ローゼに拒まれる事なのだ。
イヴァンは執務机の前から移動し、サイオンの隣に立つ。
「またキスするつもりか?」
サイオンが視線を上げてイヴァンを軽く睨む。
「バレたか」
イヴァンは口角を上げると、サイオンの頭にポンッと手を置いた。
「俺はサイオンを好きだし、邪な気持ちももちろんあるにはあるが、ただ幸せになって欲しい、それを近くで見ていたい気持ちもあって、そっちの方が大きいんだ。…きっとサイオンもローゼにそんな風に思える」
「……」
ローゼが好きだ。姿を見たい。笑顔を見たい。話をしたい。本当は抱きしめて、口付けて、閉じ込めて、独り占めしたい。
ローゼが他の男と幸せになるのを見たい気持ちなど一欠片もない。今は。
「…思えるか?」
「思えるさ」
イヴァンはサイオンの頭をまたポンポンと叩いた。
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校外学習の日。
王都の郊外の湖の畔にそれぞれの学年毎に分かれて生徒が集まっている。ローゼたち一年生は貴族の別荘などがある湖の南側の芝生の広場だ。
ここからスタートし、課題として出された湖畔の植物を採取しながら五箇所のチェックポイントを通り、ゴールまでのタイムを計る。生徒会役員とサポートメンバー1名づつがチェックポイントで通過の印を押す事になっていた。
ローゼとデボラの班は女子七人で、ローゼとデボラが課題の植物名が書かれた紙を、二冊に分かれた植物の辞典を二人が持ち、地図を見る係が二人、班長はチェックポイントで印を貰うカードを持つ。
班毎に何分か置きに出発するので、まだ最初の何班かが出発したばかりの広場には沢山の生徒がいる。
「ピンクの髪の女、いたか?」
「みんな帽子被っててわかんねぇな」
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「だな」
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