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 先程のゲームの話で、サイオンがローゼを好きなのは「ゲームの力」のせいで、ゲームが終わればその気持ちも失くなる事は分かった筈なのに、何故?とローゼはリリーに詰め寄る。
「でもローゼとサイオン殿下が結ばれれば、殿下の気持ちが失われる事はないんでしょう?」
「…は?」
 確かに、結ばれたヒロインと攻略対象者は、互いに心変わりなどする筈もなく、ずっとラブラブいちゃいちゃのハッピーエンドなのだ。
 だからって!サイオン殿下が私みたいな過去と噂のある碌でもない男爵令嬢と結ばれるなんて、周りは反対するに決まってるし、釣り合わない!間違ってる!あり得ない!!
 それに、王太子から断罪されて婚約破棄された悪役令嬢は、公爵家を勘当されて、投獄されて…獄死するのよ。どの悪役令嬢より過酷な結果になるんだから…確かにリリー様は私に嫌がらせをしたり危害を加えたりはしてないから、断罪される理由がないけど…万一にでもリリー様がそんな目に遭うなんて絶対に嫌!!
「…駄目です。私と殿下が結ばれるなんて、そんな事あり得ませんし、嫌です」
 ローゼがそう言うと、リリーは首を傾げる。
「あら。ローゼはサイオン殿下を好きなんだと思っていたんだけど…じゃあニューマン先生が好きなの?でもローゼと先生だと、自分の友人とローゼが結ばれる処を近くで見ていなければならないサイオン殿下がお可哀想ね。それに私も婚約破棄してもらえないし」
 リリーは口元に人差し指を当て、うーんと唸りながら言う。
 婚約破棄して
「…どうしてそんなに婚約破棄されたいんですか?」
 ローゼが上目遣いでリリーに聞くと、リリーはほんの少し頬を赤くして目を逸らす。
「…王太子に婚約破棄されたら…もう、私にまともな縁談なんてなくなる、じゃない?」
 確かに、王太子に婚約破棄された令嬢を、いくら公爵令嬢と言えどわざわざ娶りたいという貴族令息はそういないだろう。歳の近い令息は既に結婚しているか、婚約しているだろうし、縁談があるとすれば、歳の離れた子持ち貴族の後妻や、貴族の威光が欲しい商家、国外の貴族などになる。
 でもそれも、断罪されて投獄されるゲームのシナリオ通りでは叶わない事だ。
「…だからよ」
 リリーは言う。
「?」
 まともな縁談がなくなるから?
 ローゼの頭に疑問符が沢山浮かぶ。
 王太子に婚約破棄されて、まともな縁談が来なくなる。それがリリー様の望み?まさか捨てられた自分がずっと結婚できないでいるのを元婚約者に見せ付けたい?いやいや、それも意味不明だわ。

「その内詳しく話すわ」
 リリーは目を逸らしたまま言う。相変わらず少し頬が赤い。
「……」
「あ、そうだわ。誤解のないように言っておくけれど、私、サイオン殿下の事を恋愛的な意味では好きではなかったのよ」
「え?」
「婚約解消って言われるまでは、そういう意味で殿下をお慕いしていると思っていたの。もちろん今もお慕いしているけれど、それはサイオン殿下がローゼに向けるような気持ちではないと気付いたの。むしろ、ローゼがクレイグ様に向ける気持ちの様な…家族愛みたいな気持ちだったんだなって…」
「家族愛?」
「兄妹愛の方が近いかしら?」
 頷くリリー。ローゼの頭にはまだ疑問符が飛んでいた。
「今日ゲームの話を聞いて、サイオン殿下にも幸せになっていただきたいし、私も幸せになりたいし…そうしたら、私が卒業パーティーで婚約破棄されるのが一番良いと思ったのよ」
 リリーは口元に人差し指を当て、ニコリと笑った。

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 リリーとサイオンを見送りに出たローゼに、サイオンが困ったような表情で話し掛けた。
「ローゼ、少し聞いても良いか?」
 馬車の前に立つローゼ。リリーは既に馬車に乗っていて、クレイグは少し離れた玄関扉の近くに立っていた。
「はい」
「ローゼは…誰も、選ぶつもりはないのか?」
「…ありません」
「そうか」
 サイオンは小さく息を吐くと、ローゼに笑顔を向ける。
 青紫の髪と瞳がキラキラして綺麗だな。
「俺が今何度ローゼに『好きだ』と告げても、信じる事はできないんだな?」
「はい。それは『ゲームの力』のせいで、殿下の本当のお気持ちではありませんから」
「…分かった」
 サイオンは頷くとローゼの手を取る。
「とにかく無事な姿を見て安心した。ローゼ…もう、黙って居なくならないでくれ」
 屈んで指先に軽く口付けると、手を離す。優しい眼でローゼを見ると、踵を返し馬車へと乗り込んだ。



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