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「では『ヒロイン』が例え『攻略対象者の誰か』を選んだとしてもその時点ではゲームは終わらないのか?」
 サイオンがそう言うと、コーネリアは頷く。
「はい。ハーレムエンドやお友達エンドもある以上、途中経過で誰かの好感度が高くても最後までどうなるか判らないですから」
「ハーレムエンドってヒロインがハーレムを作るって事?」
 イヴァンが言う。
「そうよ。『みんなの恋人』って事。最終的には攻略対象者はみんな王城で要職に就いて、王宮で仲良く暮らすの」
「…それは、無理があるだろ」
「そこはホラ『ゲームの力』でね。まあローゼさんはそんなエンディングには絶対辿り着かないから心配ないわよ」
「まあそうか…じゃあお友達エンドってのは全員と友達になって、誰かと恋愛的に結ばれる事はないのか?」
「そう。ただ私ハーレムエンドにもお友達エンドにも興味がなかったから、そのエンディングを迎えた事はないんだけどね」
 コーネリアは肩を竦めてながら言った。

「つまりヒロインが誰かを選ぶ選ばないに関わらず、卒業パーティーを過ぎないとゲームは終わらないと云う事か」
 イヴァンがそう言うと、リリーがコーネリアに聞く。
「ゲームが終わればその『ゲームの力』は消え失せるのかしら?」
「そうですね。エンディングデモ…ゲームの終わりに、その後の様子みたいなのが少し描かれてるんですけど、それによるとヒロインと結ばれた相手以外の攻略対象者は元の婚約者や恋人とヨリを戻したり、他の人と恋愛や結婚をしたりと、幸せになっているようなので、ヒロインを好きと言う気持ちは失くなる、と思われます」
 コーネリアが言うと、リリーは「そう」と頷く。
 サイオンとイヴァンは顔を見合わせ
「失くなるのか…」
 と、どちらからともなく呟いた。

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 ゲームの話がひと段落した処で、夕方になったので、学園の寮へ向かうデボラと、新学期の準備があるイヴァン、仕事中だったコーネリアがエンジェル家を後にした。
 リリーがローゼに話があると言うので、二人でローゼの部屋へと移動し、リリーの婚約者という名目で一緒に来ていたサイオンはクレイグと応接室で話をしている。
 ローゼは部屋に入るとキョロキョロと周りを見回した。
「どうしたの?ローゼ」
「あの…この家に戻るの…七年?ぶりなので…」
「ああ。そうだったわね」
 リリーをソファに促す。
 部屋の場所は変わっていないけれど、調度品は八歳の頃の記憶にあるピンクでかわいらしい物から、薄い青と白で大人っぽい物に変わっている。
「お兄様が用意してくれたの…よね?」
 ローゼが公爵家を飛び出してから準備をしたのでは間に合わない。
 だとすると…私がいつでもこの家に戻れるようにしてくれてたの?
「ローゼはお兄様に大切にされているわね」
「リリー様…」
「クレイグ様もローゼが家に戻って、これからご結婚とか考えられるのかしらね?」
「……」
 確かにあの男が死んで、お兄様が結婚するための足枷は一つ失くなったけど、まだ私という足枷があるじゃない。
 いくらお兄様が見目良く、頭も良くて優しくても、「父を破滅させ学園の男を籠絡する妖婦」そんな風に世間に思われてる妹の居る家にお嫁に来てくれる令嬢なんて…きっと居ない。
 それだけじゃない。私が一緒に暮らしてたらお兄様も籠絡されたなんて噂になるかも知れない。

 ああ、それより、今はリリー様だわ。
 リリー様が領地へ避暑に行かれてから、今日初めてお目に掛かったんだもん。
 きっと私はもう公爵家を解雇になっていて、リリー様の側に戻る事はないし、この機会を逃せば今度いつお会いできるか分からないじゃないの。
「…あの、リリー様、申し訳ありませんでした」
 ローゼはソファから立ち上がるとリリーに向かって頭を下げた。
「ローゼ?」
「私っ。不義理と職場放棄できっと公爵家は解雇されてるんですよね?今までリリー様にはとてもとても優しくしていただいたのに…本当に申し訳ありませんでした」
「ローゼ、顔を上げて?」
 優しい声。でもローゼは顔を上げる事はできずに頭を下げ続ける。
「職場放棄はクリスのせいでしょ?不義理は…きっと婚約解消の件しょうけど、これだって殿下のせいでローゼのせいじゃないわ。だからローゼは解雇じゃなく、行儀見習いの終了という形でエンジェル男爵家に戻る事になるわね」
 リリーは立ち上がるとローゼの肩に触れる。
「顔を上げて?」
 ローゼがゆっくりと顔を上げると、リリーが優しく微笑んでいた。
 公爵家を解雇になったとなると、もう他の貴族の屋敷や王城など働く事はできなくなる。もちろん縁談にも影響が出る。
 マーシャル公爵とリリーはその辺りも慮って、ローゼを行儀見習いの終了と云う穏便な形で家に帰す事にしたのだろう。
「リリー様…」
「それにね、私、婚約解消を受け入れる事にしたのよ」
「え!?」
 驚くローゼに、リリーは小首を傾げて言った。
「それも卒業パーティーでこっ酷く婚約破棄を言い渡して貰う事に、決めたわ」
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