20 / 83
19
しおりを挟む
19
「俺がローゼを追い詰めたんだろうか…?」
王城の王太子の執務室で項垂れるサイオン。
「ローゼがリリーを特別に慕っているのを知っていたのに、ローゼが好きだからリリーとの婚約を解消したいと言ったなどと、当のローゼに告げるなど…」
「追い詰めたと言うなら俺だろう」
執務机の前に立つイヴァンがため息混じりに言う。
「…何故イヴァンがローゼを追い詰めるんだ?」
「実は、ローゼは俺の恋人じゃない」
「は?」
サイオンは顔を上げてイヴァンを見た。
「生徒会役員の婚約者や恋人からのローゼへの嫌がらせを止めさせるために付き合っている振りをしていたんだ」
「振り?振りで…キスを?」
「俺がローゼを好きなのは本当だからな」
「…じゃあローゼはイヴァンを好きな訳ではないのか?」
「ああ」
「ちょっ…待ってくれ。混乱…」
サイオンは片手で眼を覆って項垂れる。
「サイオン」
イヴァンは机を回り込みサイオンの傍に立つと、サイオンの顎に指を掛け、上を向かせる。
そして軽く唇を重ねた。
「……イヴァン?」
眼を覆った手を外したサイオンは眼を見開いてイヴァンを見ている。
ああ、救護室でキスした時、ローゼも同じ表情をしてたな…
「ごめんな。サイオン。俺はローゼも好きだが、サイオンも好きなんだ」
「は…?」
「恋愛的な意味で、サイオンを好きだ」
「イヴァン?」
「サイオンはいくら好きでも俺の恋人を奪ったりしないだろう?だから、サイオンがローゼに惹かれているのを知っていて、俺がローゼの恋人役になったんだ」
イヴァンは眉を顰めて笑った。
「俺はローゼにサイオンを奪られたくなかったし、サイオンにローゼを奪られたくなかった…最低な男でごめん」
-----
「マーシャル公爵令嬢…?」
ローゼの兄クレイグは突然我が家を訪れた公爵家の令嬢に目を丸くする。
「リリー・マーシャルと申します。初めまして」
目の前で優美な挨拶をするリリー。
「クレイグ・エンジェルと申します」
クレイグも恭しく礼を取った。
流石ローゼのお兄様だわ。髪の色が暗めの金だけど、同じ青い瞳で、顔立ちがローゼによく似てる。
学園生の頃、女生徒に人気があったと言うだけあって見目も良いし、優しそう。
応接室に通されたリリーは向かいに座るクレイグをじっと見た。
「妹がお世話になっているのにリリー様にご挨拶もしておらず申し訳ありません」
「いいえ。ローゼを雇っているのは父ですから…」
従僕らしき男性が紅茶を淹れてリリーの前に置く。
「ああ、我が家には侍女もメイドも…女性がおりませんのでご容赦ください」
「え?」
女性がいない?
「ええ。前男爵が一年前まで生きていましたので…」
クレイグは困ったように笑った。
「今日お見えになったのは、ローゼの件ですか?」
「はい。こちらへ帰っていないかと…」
「…帰って来ていないんですよ…一体どこにいるのか…」
クレイグはため息混じりに言う。
「妹が五日も行方不明なのに随分落ち着いていらっしゃるように見えますが…」
「そうですか?我が家から人を出して探していますよ?今、たまたま戻っていましたが、私も探しに出ていますし」
「本当に…?実は帰って来ていて隠しているとか…?」
リリーは訝し気にクレイグを見る。
「そうだとしても隠す必要はありませんよね?」
「そう…ですけど…」
「ローゼには私しか『味方』がいないんです。だから何かあれば必ず此処へ戻って来ると思っていたので…私もどこを探せば良いのか…私が落ち着いて見えるとしたら、途方に暮れている様子がそう見せているだけでしょう」
「味方?」
クレイグは苦笑いしながら言う。
「ええ。無条件にローゼを受け入れる存在です。普通なら父や母、兄弟姉妹、友人などが居るものですが…」
「ローゼには、お兄様しかいない…?」
「そうです」
「お、お母様は?ローゼの。健在ですよね?」
リリーの言葉に、クレイグは悲し気に笑う。
「…ローゼには知らせていませんでしたが…ローゼの母親はもう居ないんです」
「え?それは…な…亡くなられて…?」
「いえ、生きて、実家で生活しています。でも居ないのです」
「……?」
クレイグの苦し気な様子に、リリーは訳がわからないが何も聞く事ができなくなってしまう。
そこへ執事がやって来て言った。
「旦那様、ブラウン伯爵家から早馬が…ローゼ様がアメリア様に会いにみえて、そして…いなくなられたと」
「俺がローゼを追い詰めたんだろうか…?」
王城の王太子の執務室で項垂れるサイオン。
「ローゼがリリーを特別に慕っているのを知っていたのに、ローゼが好きだからリリーとの婚約を解消したいと言ったなどと、当のローゼに告げるなど…」
「追い詰めたと言うなら俺だろう」
執務机の前に立つイヴァンがため息混じりに言う。
「…何故イヴァンがローゼを追い詰めるんだ?」
「実は、ローゼは俺の恋人じゃない」
「は?」
サイオンは顔を上げてイヴァンを見た。
「生徒会役員の婚約者や恋人からのローゼへの嫌がらせを止めさせるために付き合っている振りをしていたんだ」
「振り?振りで…キスを?」
「俺がローゼを好きなのは本当だからな」
「…じゃあローゼはイヴァンを好きな訳ではないのか?」
「ああ」
「ちょっ…待ってくれ。混乱…」
サイオンは片手で眼を覆って項垂れる。
「サイオン」
イヴァンは机を回り込みサイオンの傍に立つと、サイオンの顎に指を掛け、上を向かせる。
そして軽く唇を重ねた。
「……イヴァン?」
眼を覆った手を外したサイオンは眼を見開いてイヴァンを見ている。
ああ、救護室でキスした時、ローゼも同じ表情をしてたな…
「ごめんな。サイオン。俺はローゼも好きだが、サイオンも好きなんだ」
「は…?」
「恋愛的な意味で、サイオンを好きだ」
「イヴァン?」
「サイオンはいくら好きでも俺の恋人を奪ったりしないだろう?だから、サイオンがローゼに惹かれているのを知っていて、俺がローゼの恋人役になったんだ」
イヴァンは眉を顰めて笑った。
「俺はローゼにサイオンを奪られたくなかったし、サイオンにローゼを奪られたくなかった…最低な男でごめん」
-----
「マーシャル公爵令嬢…?」
ローゼの兄クレイグは突然我が家を訪れた公爵家の令嬢に目を丸くする。
「リリー・マーシャルと申します。初めまして」
目の前で優美な挨拶をするリリー。
「クレイグ・エンジェルと申します」
クレイグも恭しく礼を取った。
流石ローゼのお兄様だわ。髪の色が暗めの金だけど、同じ青い瞳で、顔立ちがローゼによく似てる。
学園生の頃、女生徒に人気があったと言うだけあって見目も良いし、優しそう。
応接室に通されたリリーは向かいに座るクレイグをじっと見た。
「妹がお世話になっているのにリリー様にご挨拶もしておらず申し訳ありません」
「いいえ。ローゼを雇っているのは父ですから…」
従僕らしき男性が紅茶を淹れてリリーの前に置く。
「ああ、我が家には侍女もメイドも…女性がおりませんのでご容赦ください」
「え?」
女性がいない?
「ええ。前男爵が一年前まで生きていましたので…」
クレイグは困ったように笑った。
「今日お見えになったのは、ローゼの件ですか?」
「はい。こちらへ帰っていないかと…」
「…帰って来ていないんですよ…一体どこにいるのか…」
クレイグはため息混じりに言う。
「妹が五日も行方不明なのに随分落ち着いていらっしゃるように見えますが…」
「そうですか?我が家から人を出して探していますよ?今、たまたま戻っていましたが、私も探しに出ていますし」
「本当に…?実は帰って来ていて隠しているとか…?」
リリーは訝し気にクレイグを見る。
「そうだとしても隠す必要はありませんよね?」
「そう…ですけど…」
「ローゼには私しか『味方』がいないんです。だから何かあれば必ず此処へ戻って来ると思っていたので…私もどこを探せば良いのか…私が落ち着いて見えるとしたら、途方に暮れている様子がそう見せているだけでしょう」
「味方?」
クレイグは苦笑いしながら言う。
「ええ。無条件にローゼを受け入れる存在です。普通なら父や母、兄弟姉妹、友人などが居るものですが…」
「ローゼには、お兄様しかいない…?」
「そうです」
「お、お母様は?ローゼの。健在ですよね?」
リリーの言葉に、クレイグは悲し気に笑う。
「…ローゼには知らせていませんでしたが…ローゼの母親はもう居ないんです」
「え?それは…な…亡くなられて…?」
「いえ、生きて、実家で生活しています。でも居ないのです」
「……?」
クレイグの苦し気な様子に、リリーは訳がわからないが何も聞く事ができなくなってしまう。
そこへ執事がやって来て言った。
「旦那様、ブラウン伯爵家から早馬が…ローゼ様がアメリア様に会いにみえて、そして…いなくなられたと」
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる