13 / 83
12
しおりを挟む
12
ようやくイヴァンから姿が見えたローゼは、蒼白な顔で立ち竦んでいた。
マーシャル家のお仕着せ姿のローゼは、おそらくローゼを呼び出したいクリスティンに家から何かを持って来いなどと命じられ、嫌々舞踏会場を訪れたのだろう。
「ロー…」
イヴァンがローゼの前に出ようとすると、それより先に誰かがローゼと令嬢たちの間に立ち塞がった。
「事実ではない事を口にするな」
ローゼと令嬢たちの間に立ち塞がったのはサイオンだ。
「事実です。私は父から聞きました」
サフィが言う。
他の令嬢たちは意外な人物の登場に当惑しているようだ。リリーが少し離れた人垣の中で心配そうにサイオンを見ている。
サフィの父デップマン伯爵は確か司法部門の書記官だったか?
それにしても諭すように話す王太子に言い返すとは、随分興奮してるみたいだな。
「事実ではない」
サイオンの言葉にサフィは強く首を横に振る。
これ以上サフィに何かを言わせてはいけない!
「いいえ!私は、エンジェル男爵は実の娘を犯そうとしたと聞きました!この女は幼い頃から男性を誘惑する術に長け」
イヴァンはサフィに駆け寄ると、後ろから手で口を塞ぐ。
…遅かったか。
険しい表情のサイオンの後ろで、ローゼが力が抜けたように床にへたり込むのが見えた。
「ローゼ!」
イヴァンがローゼを呼ぶが、その声はローゼの耳には届いていないようだ。
すると、ローゼの方を振り向いたサイオンがローゼの前に跪く。
ザワッとまた騒めきが起きた。
王太子が一令嬢の前に跪く、など、有り得ないのだ。あるとすれば…それは求愛の時くらいだ。
サイオンは茫然自失状態のローゼを抱き上げると、イヴァンに口を塞がれたままのサフィを見た。
サイオンお前…自分が今どれだけの憎悪の眼差しでサフィを見ているか、わかってるか?
「サフィ嬢、不完全な情報で人を貶める事は、自らをも貶めると言う事だ」
サイオンはゆっくりとそう言うと、ローゼを抱いて講堂を出て行く。
それを見ていたリリーは人混みに紛れるように姿を消した。
「実の父を誘惑?」
「ああ聞いたことある。それでエンジェル男爵は爵位を剥奪されて息子が男爵を継いだと」
ザワザワと周りが騒ぎ出す。
イヴァンは青い顔をしたサフィから手を離すと
「デップマンさん、こんな公衆の面前でお父上の守秘義務違反を告白するなんて…大胆ですね」
そう、小声で言う。
「…え?」
顔面蒼白になるサフィ。
「追って沙汰があると思いますよ」
イヴァンはにっこりと笑って言った。
-----
「ローゼは眠っているのか…」
救護室に入るなり、イヴァンはベッドの周りを囲むカーテンを引く。
カーテンの中には眠っているローゼと、ベッドの側の椅子に座るサイオンがいた。
イヴァンはサイオンが眠るローゼの手を握っている姿を想像していたが、現実のサイオンは足を組み、腕組みをして椅子に腰掛けている。
「ああ、暫くは呆然としていたが…」
「そうか…済まない。折角サイオンがローゼの事情を教えてくれていたのに上手く助けてやれなかった」
イヴァンも椅子を持って来て、サイオンの隣に座った。
「いや、サフィ嬢があんな事を言い出すとは想定外だからな」
「それは、そうなんだが…」
サイオンはイヴァンが生徒会役員とローゼとを王宮に連れて来た際、ローゼへの役員たち、そしてイヴァンの感情の昂りを感じ取り、イヴァンへローゼとエンジェル男爵家に起きた事件の話をした。それは「こういう過去で傷付いている娘だからイヴァンも他の生徒会役員たちも、過剰に好意をぶつけないように」と言う意味合いだ。
「俺がローゼと付き合う事で他の攻略…生徒会役員への牽制になるし、守ってやれると思っていたが、ランドールの婚約者からこの件で攻撃されるとはな」
イヴァンは「はあ~」とため息を吐く。
悪役令嬢の家族の職務まで考慮していなかった。つまり想定が甘かったと言う事だ。
「幸い夏期休暇に入るから、ローゼが噂の渦中に身を置く事はないだろうが…逆に生徒たちから市中へ捻れた話が伝わるんだろうな…」
イヴァンがそう言うと、サイオンは無言で頷いた。
ようやくイヴァンから姿が見えたローゼは、蒼白な顔で立ち竦んでいた。
マーシャル家のお仕着せ姿のローゼは、おそらくローゼを呼び出したいクリスティンに家から何かを持って来いなどと命じられ、嫌々舞踏会場を訪れたのだろう。
「ロー…」
イヴァンがローゼの前に出ようとすると、それより先に誰かがローゼと令嬢たちの間に立ち塞がった。
「事実ではない事を口にするな」
ローゼと令嬢たちの間に立ち塞がったのはサイオンだ。
「事実です。私は父から聞きました」
サフィが言う。
他の令嬢たちは意外な人物の登場に当惑しているようだ。リリーが少し離れた人垣の中で心配そうにサイオンを見ている。
サフィの父デップマン伯爵は確か司法部門の書記官だったか?
それにしても諭すように話す王太子に言い返すとは、随分興奮してるみたいだな。
「事実ではない」
サイオンの言葉にサフィは強く首を横に振る。
これ以上サフィに何かを言わせてはいけない!
「いいえ!私は、エンジェル男爵は実の娘を犯そうとしたと聞きました!この女は幼い頃から男性を誘惑する術に長け」
イヴァンはサフィに駆け寄ると、後ろから手で口を塞ぐ。
…遅かったか。
険しい表情のサイオンの後ろで、ローゼが力が抜けたように床にへたり込むのが見えた。
「ローゼ!」
イヴァンがローゼを呼ぶが、その声はローゼの耳には届いていないようだ。
すると、ローゼの方を振り向いたサイオンがローゼの前に跪く。
ザワッとまた騒めきが起きた。
王太子が一令嬢の前に跪く、など、有り得ないのだ。あるとすれば…それは求愛の時くらいだ。
サイオンは茫然自失状態のローゼを抱き上げると、イヴァンに口を塞がれたままのサフィを見た。
サイオンお前…自分が今どれだけの憎悪の眼差しでサフィを見ているか、わかってるか?
「サフィ嬢、不完全な情報で人を貶める事は、自らをも貶めると言う事だ」
サイオンはゆっくりとそう言うと、ローゼを抱いて講堂を出て行く。
それを見ていたリリーは人混みに紛れるように姿を消した。
「実の父を誘惑?」
「ああ聞いたことある。それでエンジェル男爵は爵位を剥奪されて息子が男爵を継いだと」
ザワザワと周りが騒ぎ出す。
イヴァンは青い顔をしたサフィから手を離すと
「デップマンさん、こんな公衆の面前でお父上の守秘義務違反を告白するなんて…大胆ですね」
そう、小声で言う。
「…え?」
顔面蒼白になるサフィ。
「追って沙汰があると思いますよ」
イヴァンはにっこりと笑って言った。
-----
「ローゼは眠っているのか…」
救護室に入るなり、イヴァンはベッドの周りを囲むカーテンを引く。
カーテンの中には眠っているローゼと、ベッドの側の椅子に座るサイオンがいた。
イヴァンはサイオンが眠るローゼの手を握っている姿を想像していたが、現実のサイオンは足を組み、腕組みをして椅子に腰掛けている。
「ああ、暫くは呆然としていたが…」
「そうか…済まない。折角サイオンがローゼの事情を教えてくれていたのに上手く助けてやれなかった」
イヴァンも椅子を持って来て、サイオンの隣に座った。
「いや、サフィ嬢があんな事を言い出すとは想定外だからな」
「それは、そうなんだが…」
サイオンはイヴァンが生徒会役員とローゼとを王宮に連れて来た際、ローゼへの役員たち、そしてイヴァンの感情の昂りを感じ取り、イヴァンへローゼとエンジェル男爵家に起きた事件の話をした。それは「こういう過去で傷付いている娘だからイヴァンも他の生徒会役員たちも、過剰に好意をぶつけないように」と言う意味合いだ。
「俺がローゼと付き合う事で他の攻略…生徒会役員への牽制になるし、守ってやれると思っていたが、ランドールの婚約者からこの件で攻撃されるとはな」
イヴァンは「はあ~」とため息を吐く。
悪役令嬢の家族の職務まで考慮していなかった。つまり想定が甘かったと言う事だ。
「幸い夏期休暇に入るから、ローゼが噂の渦中に身を置く事はないだろうが…逆に生徒たちから市中へ捻れた話が伝わるんだろうな…」
イヴァンがそう言うと、サイオンは無言で頷いた。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
〖完結〗私が死ねばいいのですね。
藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。
両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。
それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。
冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。
クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。
そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全21話で完結になります。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる