12 / 83
11
しおりを挟む
11
教員の控室でイヴァンが机に向かっていて、その斜め後ろの椅子にローゼが座っている。生徒指導をしているように見せ掛ける、最近の二人の定位置だ。
「え?ローゼ、舞踏会出ないのか?」
「はい」
「何故?俺ローゼをエスコートしようと思って楽しみにしてたのに」
「ええっ!先生…生徒をエスカレートするつもりだったんですか?いくらお付き合いしてる設定でも有り得ませんよ」
「ええ~」
「ええ~じゃないです。百歩譲っても有り得るとしたら私の卒業パーティーぐらいですね」
「大分先だなぁ」
つまらなそうに呟くイヴァンにローゼは苦笑いする。
その頃にはとっくにゲームも終わってるし、お付き合いの振りも終わってるだろうけど。
「舞踏会なんて、攻略対象者や悪役令嬢とトラブルになる予想しかできないですもん。回避が一番です」
「でも嫌がらせとか減ったんだろ?」
「はい。全盛期の三分の一ですね」
「ゼロにはならないか」
「まあ…」
ローゼとイヴァンが密かにお付き合いをしていると噂をが流れて、他の攻略対象者が諦めたのかと言えばそうではない。イヴァンにわからないように隠れてローゼを口説いている。
むしろどうにか二人きりになろうとして来てローゼも躱すのが大変なのだ。
悪役令嬢たちも、自分の相手の気持ちが戻って来た訳ではないので、嫌がらせも完全にはなくならない。
「じゃあ舞踏会の間一緒にいようか?」
「大丈夫です。そのまま夏期休暇だし、リリー様たちより一足先にマーシャル家に帰りますから」
「夏期休暇になったら会えなくなっちゃうな。マーシャル家にはクリスティンがいるし、迫られないか心配だ」
「…頑張って逃げます」
イヴァンはローゼを見ながら微笑む。
「何かあったら俺の所に来なよ。学園かフラットにいるから」
「ははは。ありがとうございます…」
クリスティンも実力行使するほど馬鹿ではないとは思うけど。
苦笑いするローゼを見ながら、心の中でイヴァンは呟いた。
-----
「ローゼはどこだ?」
「ローゼはいないのか?」
「ダンスに誘おうと思っていたのに…」
「俺こそファーストダンスを申し込もうと思っていたのに」
「ファーストダンスは俺とだ」
「いや俺ですよ」
生徒会長ランドールが壇上で舞踏会の開会の挨拶をしている間、舞台の脇に並んだ役員ルーク、クリスティン、マリックが小声でそんなやり取りとしている。
役員たちから少し離れた所に立つイヴァンに、ロイズがさり気なく近付いて来た。
「…ローゼを隠したのか?」
「人聞きの悪い事を。彼女自身の意思ですよ」
互いに小声で言う。
「ローゼの、意思か…」
舞台の影にはゲストのサイオンと、婚約者のリリー。
サイオンもさり気なく会場内に視線を巡らせているのがイヴァンには分かる。
ダンスが始まり、イヴァンは教師として会場内の担当箇所を見て回る。
すると、舞台の近くにいた時、講堂の入口の方向から人が騒いでいる声が聞こえて来た。
女性の声?
イヴァンのいる舞台の近くから、講堂の入口はかなり遠い。音楽も流れ人々がさざめく会場でこれだけ声が聞こえるとは。
講堂の入口へ行こうとすると、遠くに見える人集りの隙間からピンクの髪の毛が見えた。
え?ローゼ?
いや、誰かのドレスの色かも…
早足で入口へ近付こうとするイヴァンの耳に女性の金切り声が飛び込んで来た。
「何よそんな格好で!目立って男の目を引き付ける作戦!?」
「……す」
対する相手の声はよく聞こえない。
でも、ローゼの声のような…
「貴女っていつもそうよね!私はそんなつもりじゃありません~ってかわいこぶって!そうやって『可哀想な私』を慰めてもらうのが快感なんでしょう?」
「そうよ。そうやっていつも私たちを悪者に仕立てて!」
「…がい……」
「何が違うのよ!」
「先生と付き合ってるなら他の男に色目を使うのやめなさいよね!」
「色目なんて使ってません」
近付くにつれ、声がハッキリと聞こえる。
やはりローゼと、エリカサンドラ、ドロワ、サフィ、エレノア、デボラの五人か。
「色目を使ってる自覚がないのは無意識だからでしょ?」
ランドールの婚約者サフィが口元を扇で隠して口角を上げる。
「…さすが、実の父親まで籠絡するだけあるわね」
ザワッ
サフィの言葉に、会場は騒めき、そして静まり返った。
教員の控室でイヴァンが机に向かっていて、その斜め後ろの椅子にローゼが座っている。生徒指導をしているように見せ掛ける、最近の二人の定位置だ。
「え?ローゼ、舞踏会出ないのか?」
「はい」
「何故?俺ローゼをエスコートしようと思って楽しみにしてたのに」
「ええっ!先生…生徒をエスカレートするつもりだったんですか?いくらお付き合いしてる設定でも有り得ませんよ」
「ええ~」
「ええ~じゃないです。百歩譲っても有り得るとしたら私の卒業パーティーぐらいですね」
「大分先だなぁ」
つまらなそうに呟くイヴァンにローゼは苦笑いする。
その頃にはとっくにゲームも終わってるし、お付き合いの振りも終わってるだろうけど。
「舞踏会なんて、攻略対象者や悪役令嬢とトラブルになる予想しかできないですもん。回避が一番です」
「でも嫌がらせとか減ったんだろ?」
「はい。全盛期の三分の一ですね」
「ゼロにはならないか」
「まあ…」
ローゼとイヴァンが密かにお付き合いをしていると噂をが流れて、他の攻略対象者が諦めたのかと言えばそうではない。イヴァンにわからないように隠れてローゼを口説いている。
むしろどうにか二人きりになろうとして来てローゼも躱すのが大変なのだ。
悪役令嬢たちも、自分の相手の気持ちが戻って来た訳ではないので、嫌がらせも完全にはなくならない。
「じゃあ舞踏会の間一緒にいようか?」
「大丈夫です。そのまま夏期休暇だし、リリー様たちより一足先にマーシャル家に帰りますから」
「夏期休暇になったら会えなくなっちゃうな。マーシャル家にはクリスティンがいるし、迫られないか心配だ」
「…頑張って逃げます」
イヴァンはローゼを見ながら微笑む。
「何かあったら俺の所に来なよ。学園かフラットにいるから」
「ははは。ありがとうございます…」
クリスティンも実力行使するほど馬鹿ではないとは思うけど。
苦笑いするローゼを見ながら、心の中でイヴァンは呟いた。
-----
「ローゼはどこだ?」
「ローゼはいないのか?」
「ダンスに誘おうと思っていたのに…」
「俺こそファーストダンスを申し込もうと思っていたのに」
「ファーストダンスは俺とだ」
「いや俺ですよ」
生徒会長ランドールが壇上で舞踏会の開会の挨拶をしている間、舞台の脇に並んだ役員ルーク、クリスティン、マリックが小声でそんなやり取りとしている。
役員たちから少し離れた所に立つイヴァンに、ロイズがさり気なく近付いて来た。
「…ローゼを隠したのか?」
「人聞きの悪い事を。彼女自身の意思ですよ」
互いに小声で言う。
「ローゼの、意思か…」
舞台の影にはゲストのサイオンと、婚約者のリリー。
サイオンもさり気なく会場内に視線を巡らせているのがイヴァンには分かる。
ダンスが始まり、イヴァンは教師として会場内の担当箇所を見て回る。
すると、舞台の近くにいた時、講堂の入口の方向から人が騒いでいる声が聞こえて来た。
女性の声?
イヴァンのいる舞台の近くから、講堂の入口はかなり遠い。音楽も流れ人々がさざめく会場でこれだけ声が聞こえるとは。
講堂の入口へ行こうとすると、遠くに見える人集りの隙間からピンクの髪の毛が見えた。
え?ローゼ?
いや、誰かのドレスの色かも…
早足で入口へ近付こうとするイヴァンの耳に女性の金切り声が飛び込んで来た。
「何よそんな格好で!目立って男の目を引き付ける作戦!?」
「……す」
対する相手の声はよく聞こえない。
でも、ローゼの声のような…
「貴女っていつもそうよね!私はそんなつもりじゃありません~ってかわいこぶって!そうやって『可哀想な私』を慰めてもらうのが快感なんでしょう?」
「そうよ。そうやっていつも私たちを悪者に仕立てて!」
「…がい……」
「何が違うのよ!」
「先生と付き合ってるなら他の男に色目を使うのやめなさいよね!」
「色目なんて使ってません」
近付くにつれ、声がハッキリと聞こえる。
やはりローゼと、エリカサンドラ、ドロワ、サフィ、エレノア、デボラの五人か。
「色目を使ってる自覚がないのは無意識だからでしょ?」
ランドールの婚約者サフィが口元を扇で隠して口角を上げる。
「…さすが、実の父親まで籠絡するだけあるわね」
ザワッ
サフィの言葉に、会場は騒めき、そして静まり返った。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです
エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」
塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。
平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。
だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。
お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。
著者:藤本透
原案:エルトリア
とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい
みおな
恋愛
何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。
死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。
死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。
三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。
四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。
さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。
こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。
こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。
私の怒りに、神様は言いました。
次こそは誰にも虐げられない未来を、とー
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる