入替令嬢と最果ての恋人

ねーさん

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「マーク今は何を見てるの?」
 木の上で、アレクサンドラは隣に座り遠くを見ているマークに問い掛ける。
「何と言う事はないが…もう癖だな」
 マークは苦笑いすると、アレクサンドラを見る。
「そう言う時、何考えてるの?」
「いや…特に何も考えてないな…ぼんやりしてる」
「ふーん」
「ああ、アリの事はよく考えてるな」
「…そんな取って付けたように。私が言わせたみたいじゃない?」
 アレクサンドラはじとっとマークを見ながら足をブラブラと前後に振る。マークはふっと笑った。
「本当だ。そういう意味ではローズの事も考える」
「え?」
 眼を見開いて自分を見るアレクサンドラに、マークは破顔してアレクサンドラの肩を抱き寄せる。
「ローズの事と言うより、ゲームの事か」
「…わざとローズって言ったわね?」
 アレクサンドラは上目遣いでマークを睨む。
「済まない。アリに嫉妬されるのが嬉しくて」
 マークはアレクサンドラの頬に唇を当てる。
 アレクサンドラはマークにしがみつくように背中に腕を回した。
「…ゲームの事って何を考えるの?」
 マークがアレクサンドラの波打つ髪を撫でる。
「もし、ローズが他のルートを選んでいたらどうなっていたんだろうか…とか」
「もし…ローズがマークのルートを選んでいたら…」
「俺は何の疑問もなくリザとドロシー嬢を断罪してローズと結ばれていたんだろうな」
「…そうね」
 ゲームの画面で見たマークとローズのスチルを思い浮かべる。
 その場合、アレクサンドラには何の影響もなかった筈だ。クリストファーやランドルフのルートでも同じだ。唯一ロイドのルートのみが今の結果を生んでいる。

 マークはアレクサンドラをぎゅっと抱きしめた。
「ロイド殿下のルート以外では、俺はアリと出会えなかった」
「そうね」
「違うルートでもアリと出会う方法がないか、よく考えている」
 アレクサンドラは顔を上げて、下からマークを見る。
「そうなの?」
「ああ、ぼんやりしてる時は大概」
「出会えそう?」
「アリが王都の侯爵家に生まれていればロイド殿下の婚約者として学園で出会うが、それでは断罪されてアリが不幸になるし、俺の事を好きになったりはしないだろうし…」
「それだとマークだって悪役令嬢の私を憎みこそすれ、好きになったりはしないわ」
「そうなんだ…だから、今のところ出会える展開を思い付かない」
「やっぱり」
「でも出会わなければ、アリはウリエルや他の騎士団員や、辺境伯と身分の釣り合う貴族と結婚してしまう」
 マークはアレクサンドラを見つめる。
「そうね。きっとそうなっていたでしょうね」
「アリが他の男と…なんて、想像するのも嫌だ」
 ぎゅっとアレクサンドラを抱きしめる。
 マークってどうしてこう時々かわいいんだろう…
「私だってマークがローズと結ばれるのも、ドロシーと婚約したまま結婚しちゃうのも、想像したくないわ。でも…」
「でも?」
「マーク、ドロシーと…キスした事あるんでしょ?」
 アレクサンドラは眉を寄せて言う。
「実際にあった事を想像するのは、可能性を想像するのとはまた違う感じで嫌だわ」
「…婚約してたからな。でも軽く一回だけだ」
「軽く?」
 マークはアレクサンドラの後頭に手を添えると、アレクサンドラの唇に自分の唇をちょんと当てた。
「このくらい軽く」
「…本当に?」
「本当だ。そう言えばシンシアがここでもキスくらいできるって言ったんだったか」
「そうよ。その時ドロシーが『私とは一回しかした事ないのに』って言ったの」
「そうだったな」
 アレクサンドラはため息混じりに呟く。
「マークのファーストキスはドロシーかぁ…」
「……」
 ん?この沈黙は?
「もしかしてドロシーの前にも、あるの?」
 マークは視線を空に上げる。
「幼馴染と…」
「え!?」
「子供の頃だ。五、六歳の」
 …まあ子供の頃なら…ドロシーが初めてよりは良いわ。
「それ以外は全てアリが初めてだからな」
「え?」
「例えば深いキスも」
 そう言ってマークは甘い瞳でアレクサンドラを見つめると、後頭に添えた手に力を入れた。



       ー完ー
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