入替令嬢と最果ての恋人

ねーさん

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 王宮からの帰りの馬車の中でマークがアレクサンドラに聞く。
「前世のローズは攻略対象者の中でロイド殿下を一番好きだった、と言っていたが、アリは誰を気に入っていたんだ?」
「え?」
マークではなかったんだろう?それにロイド殿下でもない」
 素朴な疑問のように言うマークに、アレクサンドラは言いにくそうに言う。
「…クリストファー」
「クリスか…」
 マークが少し眉を顰めて呟く。
「あのね、前世の私は父親と病院の先生や看護師以外の男性とは話した事もなかったから、男男した人より、クリストファーやサイモン殿下みたいな中性的な感じの人の方が好ましいと思ってたのよ」
「じゃあ今は違う?」
「違うわ。何しろ辺境伯領で騎士に囲まれて育ったんだもの」
 アレクサンドラは薄っすら頬を染めて言う。
 前世から通じても初恋はマークだし…
「そうか。まあ念のためクリスには会わせないようにしよう」
 マークは小さな声で言う。
「え?」
「いや。『アレクサンドラ』は国外追放の後どうなったんだ?リザに聞かれた時に濁しただろ?」
「うん…リザも、もしかしてそれが自分の行く末だったかもと思ったら気分が良くないかと思って…でもぼんやりとしか描かれていないのは本当なのよ」
 マークの向かいに座るアレクサンドラは俯いて視線を彷徨わせる。
「国外追放されてからは…身を売って、生活してたような描写があったわ」
 マークは眼を見開く。
「…では…国外追放にならない場合は?」
「王子に婚約破棄されたらもうお嫁に行く先もないし、最終的にはうんと年上のひとの後妻になるの。でも、その人が被虐趣味で…」
 そう言った処でマークが席から立ち上がると、ガバッとアレクサンドラを抱き締めた。
「ひゃっ!どうしたの?マーク」
「…アリがそんな目に合わなくて良かった」
 アレクサンドラの頬に、マークの頬のガーゼが当たった。

-----

 領地に帰るため王都を立つ日の朝、マークがアレクサンドラの部屋へやって来る。
「どうしたの?」
 部屋の中へは入らずドアを開けた所に立っているマークに駆け寄って前に立つと、アレクサンドラが問い掛けた。
「今日、家に行って来る」
「家?ってスペンサー家?」
「ああ。辺境伯様がアリと俺の婚約を申し込む文書を持たせてくださったんだ」
「え?じゃあ私も一緒に行くわ」
「いや、それはまた今度で。今日は俺一人で行くからアリは予定通り皆と一緒に出発してくれ」
「でも…」
「…俺はまだ父と母に事件の事を謝っていないから…」
 マークは俯く。
 アレクサンドラはマークの頭を両手でくしゃくしゃと撫でた。
「そう言って、実はスペンサー家の方たちに私との婚約を反対されそうだから、じゃないの?…マークが自分を取り戻したなら王都に戻って来いって言われるとか」
「それはないな」
「…どうして?」
「父は辺境伯様のファンなんだ」
「え?」
 マークは頭を撫でるアレクサンドラの手を握ると、手の平に口付けた。
「父も騎士だからな。俺が辺境伯様の騎士団に預けられる事になった時にも口には出さないが羨ましそうだったし」
「羨ましいものなの?」
 辺境伯騎士団に入れられるのは一種の罰ではないの?ご褒美になる人もいるって事?
「騎士の中の騎士だろう?辺境伯様は」
「まあ…そうね」
 アレクサンドラにとっては父は父だし、辺境伯領にいる騎士以外の騎士の事は知らないのだ。
「王都で姿絵が売られる程の人気だぞ」
「絵姿!?」
 ブ…ブロマイド!?アイドルの生写真状態?お父様が…
 王族や人気のある貴族は巷で絵姿が売られるのだ。今一番多く出回っているのは王太子のサイモンの物だろう。ロイドやクリストファーの物もある。絵姿を買うのは若い女性が多い中、辺境伯様の絵姿を持っているのは男ばかりだが、とマークは笑った。

「何と言っても俺は罪を犯したし、それを忘れて王都に戻る事はできない。父もそれは求めないし、認めないと思う。それに、俺は辺境伯様の騎士団に骨を埋めたいと思っているし。…父は辺境伯様と親類になれる事は密かに喜びそうだ」
「喜ぶの?」
「ああ、俺のこの傷が残ったとしても、辺境伯様に付けられた傷なら羨ましがられるかもな」
 マークはガーゼを貼った自分の頬を指差す。
「ええ~」
 マークのお父様、どれだけお父様のファンなの!?
「婚約を整えたら追い掛ける。馬を走らせればすぐに追い付けるから」
 マークはアレクサンドラの頬に手を当てる。
「うん」

 ゆっくりと、二つの影が重なった。


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