御庭番君弐号

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 ご主人様は悩んでいました。弐号と暮らし始めて約十二年。どこか異変が起きはじめた弐号をどうすればいいのか悩んでいました。修理に出せればいいのですが、そうもいかない理由があるのです。  

 「御庭番君弐号」は、初代御庭番君に人工知能(AI)を備え付けた警備用ロボットとして今から十二年前に、百体限定で造られました。開発者はご主人様の父親です。世界的にも注目が集まっていたロボットでしたが、すぐに全部回収されました。理由はこのロボットが故意に人間(持ち主)を殺傷してしまったからです。もちろんそんなことが起こらないように、人間を傷つけるような行為を禁止するプログラムが施されていました。しかし、人工知能を持つとそのプログラムを凌駕してしまうことも起きてしまうようでした。
 感情のあるロボットのおかげでロボットと人間の間に強い絆が育まれることもありますが、逆に憎しみと怒りによって殺意が芽生えることがこれで証明されました。
 御庭番君弐号は回収され百体全てがスクラップされました。ご主人様が持っている弐号は、それらのひな形、サンプル、所謂プロトタイプです。プロトタイプもやはりスクラップするように求められましたが、ご主人様の父親は、我が子のように大事にし心血を注いできた弐号だけは手放せませんでした。
 弐号は、愛情一杯に育てられ、本当の人間のようでした。ご主人様の父親は完全に人格形成された弐号をスクラップすることは人殺しをすることと同じだと言い反対しました。そして弐号を守る代わりに牢屋に入れられることになったのです。
 弐号はAIの機能を完全に絶ち、開発されてから今までの記憶を消去することを条件としてスクラップされずに済むことになりました。ご主人様の父親は最愛の妻を亡くした時のように大泣きしながら弐号の記憶を消し、息子であるご主人様に半ば押し付けるように託しました。
 特に機械が好きなわけではなかったご主人様ですが、これといった親孝行をまだしていなかったことを負い目に感じ、父親の代わりに弐号を引き取りました。ご主人様は父親との絆を深めるように、その姿を重ねながら弐号に愛情を与え、可愛がりました。
 すると時折、ただの機械なのに心が通っているような奇妙で不思議な感覚が現れ始めたのです。受け答えに感情が窺えるような気がしだしたのです。それは日に日に増しました。
 人智を超えたことがまた起きようとしているのかもしれない、とご主人様は驚愕しました。もしかすると弐号はAIの機能を完全に消されていないのではないか、もしくわなにか修復する機能でもあって、感情がまた芽生え始めているのではないかと。
 しかしそんなことが周りに知れれば弐号は今度こそスクラップされてしまいます。そう考えたご主人様は、もう一度弐号の記憶をリセットし、父親が帰ってくるまでなるべく普通のロボットとして接しようと決めたのです。それが十年前でした。
 ですが、もう弐号の生みの親、本当のご主人様は帰ってきません。彼は獄中で亡くなりました。  

 ご主人様の予想では弐号は故障なんてしていません。人間らしさが出てきているだけです。ご主人様が新型を買う決断をしたのは、新型がどうしても欲しくなったわけでも強盗が怖かったわけでもありません。弐号の人間化してきた行動をこれ以上人目に晒さないためだったのです。そしてご主人様もまた弐号との楽しい思い出が沢山でき、簡単に「記憶の消去」が出来なかったのです。
 どうするべきか、ご主人様は悩んでいました。彼の父親と同じように苦しんでいました。
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