拾った狼が絶倫の聖獣だった。

狼拾いました。

sideウォル③

人間がいる。
目が合った。
紺色の瞳。そこに光が入って、それはまるで俺が意識を手放す前に見た夜空のようだ。
金色の髪は健康な狼の毛並みくらいさらさらで、肩までまっすぐに伸びている。
動こうとして、ずきん、と痛みが走った。
そうだ、俺はけがをしていたんだった。
そして、俺にけがを負わせたのは、この目の前にいる男と同じ、人間。
俺は、俺が今できる最大限の威嚇をした。
目の前の男は少し困ったような顔をしたが、しばらくすると鍋の中身を器によそい始めた。
何やらいい香りがすると思っていたがもしかしたら、あの鍋の中身から発せられているのかもしれない。
だが信用はできない。
もしかしたらあの中には俺を害そうと何か入れているかもしれない。
男は器によそい終わると、こちらに向かいながら声をかけてきた。
「まあ、とりあえずスープでも飲みなよ。
けがの修復を助ける効果のある薬草とか栄養たっぷりで作ったから…」
 
―――人間は信用できない。
 
ガシャンッ！！
俺は目の前に置かれた器を前足でひっくり返した。
「…っつ！」
男が一瞬手を庇う動作をした。そして。
「…っの、こいつ…っ！」
男は俺を睨むと、ばっと手を伸ばしてきた。
逃げようにも足を怪我していて逃げられず、これから与えられるであろう痛みに備え目をぎゅっと瞑った。