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2部3章

見える未来

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 焚き火を囲い、小さな宝石造りの小屋の中で俺たちは天理火と対面して座っている。天理火の放つ熱は弱まってもなお高熱、体に汗が滲む。

「あっ、そうだ悠人。悠大おじさまに会うとかどう?」

「それだ。父さんに悪いから俺を父さんのところに少しの間転移させてもらえますか?」

「無理」

「そっかー」

「何でもヨイぞ?」

「ここまで全部却下されてますけど!?」

 褒美を貰える流れだが、俺はまだ天理火に弄ばれている気がする。それはそれと、心配事があった。

「そういえば魔神の盾が居ないな」

「居るぞソコに」

 天理火は指差した、焚き火の中を。粉々になった上に天理火の放った炎の中で溶けつつある魔神の盾。

「魔神の盾ー!」

「無事……。だ。火力に抗って他の機能を全て再生能力に回している」

「いっぱいいっぱいじゃん! 早く決めないと……」

「ヌルい」

 天理火は尻尾から炎を出して焚き火に入れた。燃え上がった炎は部屋の温度を上げた。

「魔神の盾ー!」

「ああ、これサウナですね。ならば仕方ありません。魔神様に私が叱られるだけなので……」

「ごめんな、急に呼んじゃって……」

 焦るほど願いは決まらなくなって来た俺。アザレアへの申し訳なさもある。物理的にも汗かいてるがならサウナで。

「なら、畑とかホシイか?」

「確かに調味料になるバジルとか、野菜とかも自分で育てられれば嬉しいですが。近場じゃないと俺いどう出来ませんよ?」

 俺はまだ学生だ。原付も持っていない。自転車なら何とかなるが、市内でなきゃ行けない。毎日、水やりもしないとだし。

「安心せい、異界の一つをヤロウ」

「スケールデカすぎ! 扱い切れないですって」

「世界は放って置いても生きていく。現地民に悠人が神だと知らせといてやろう」

「重積すぎー!」

「もう言っといた」

「手が早い! でも、まだ俺受け取れる気が……」

「悠人はそれを貰うぞ。未来で見た」

「未来予知出来るんですか!?」

「出来る。恐れ多いからと頑なに断り続けて、他の人と共同でとか、現地民との折り合いがと不安になりまくった後に仲間を呼んでいいと提案したら受け取った」

「確かに悠人っぽい……」

「俺だな……」

 天理火は尻尾を上に向けて弧を描くと、そこに映像が現れた。

「広大な敷地に、山とか川とか。果てには海まであるんですけど!」

「ヨカろう。拒否権はない。そう決まっているから」

「分かりました。ありがたくいただきます。でも、俺世界を移動する魔法は使えませんよ?」

「アア。畑行きたいと思ったら移動できる魔法を掛けといたぞ」

「それなら。はい」

 天理火は映像を消して、焚き火の火を弱めた。中から魔神の盾だった物を取り出したので慌ててリヴァイアサンの水を召喚し冷やした。すかさずアザレアが魔道書に仕舞う。

「言っておく。ワレが却下した願いはいずれ叶う物だからだと」

 天理火は小屋の背後を開いて、俺たちを外に出してくれた。

 俺は天理火に頭を下げた。そしてスカーフを撫でて思いを馳せる。天理火の言う通りなら俺は、未来で父さんに会えるのだから。
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