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2部3章
優しい試練
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林は夜の暗さと相まって、何も見通せない。一方、滝の方を見れば水量の多い滝が暗く深い大穴に流れ落ちる景色が見える。
大穴からは微量の光のモヤが溢れ出ていて、滝の水に反射して幻想的な風景を作っていた。
美しいが、このせいで林がダンジョンの侵食を受けているので怖い。凛音は楽しそうに召喚魔法で出した望遠鏡を覗いて観察しているが。
「これからダンジョンか」
「平気だ悠人。僕が二人も居る。一緒に凛音を見張ろう」
「それはそうだけど……」
「藍華ちゃんが心配なんでしょ?」
「ああ。カインと一緒で平気なのだろうか?」
「カインは貴族で身持ち固いから問題ないよ。ただ彼は恋愛経験がなくてね」
会話に入ってきたエルリックさんに露骨に顔をしかめるセレスト。彼女はちゃっかりと俺のハチミツを入れたコーヒーを飲んでいる。このハチミツは異世界で買ったものだ。
「不安だ……」
すると、俺の言葉の後にエルリックさんが立ち上がった。
「気晴らしをしようか」
エルリックさんは俺に目を向けてからセレストを見た。もしかして、俺の言ったセレストと仲良くなるための家族らしいやり方を……。
「試練を与えよう」
(そうじゃ無いだろ!)
「エルリック、今は休む時だ。お前の趣味に付き合っている暇はな……」
「つ、釣り対決とかどうかな?」
エルリックさんの言葉にリュセラとセレストは目を丸くした。
「バトルばかりのエルリックが……」
だが、セレストは笑みを浮かべる。
「戦闘以外は出来ないんじゃないですかー? だって勇者で忙しかったんですからぁ」
「え、何年も旅をしたから慣れているよ。セレストは自信無いのかい?」
「やってやります!」
こうして釣り対決が決まった。俺たちは移動しながら川を探す。
「そう言えば川が干上がってたよな?」
「そうだったのかい? なら水呼びの加護」
エルリックさんは呪文を唱え、滝の方を指差した。
すると、水音が迫ってくる。急いで川の有った方へと戻ると、水が流れる川になっていた。
「一体どうやって?」
「ああ。滝の水があったから、一時的にこっちに引っ張ってきたのさ。魔力で水路を作ってね」
「あれだけの広さの滝を囲い水路に……」
「エルリックのやることだ、そうやって干ばつから町を救ったりしてたからな。驚いていたらキリがない」
俺は水の戻った川を眺めながら、エルリックさんの力に驚き恐れを抱く。リュセラとセレストが勝てないのが良く分かった。
それと、しっかりセレストに向き合おうとしているのに俺は嬉しさを感じた。やり方が試練なのが相変わらずなのだが。
大穴からは微量の光のモヤが溢れ出ていて、滝の水に反射して幻想的な風景を作っていた。
美しいが、このせいで林がダンジョンの侵食を受けているので怖い。凛音は楽しそうに召喚魔法で出した望遠鏡を覗いて観察しているが。
「これからダンジョンか」
「平気だ悠人。僕が二人も居る。一緒に凛音を見張ろう」
「それはそうだけど……」
「藍華ちゃんが心配なんでしょ?」
「ああ。カインと一緒で平気なのだろうか?」
「カインは貴族で身持ち固いから問題ないよ。ただ彼は恋愛経験がなくてね」
会話に入ってきたエルリックさんに露骨に顔をしかめるセレスト。彼女はちゃっかりと俺のハチミツを入れたコーヒーを飲んでいる。このハチミツは異世界で買ったものだ。
「不安だ……」
すると、俺の言葉の後にエルリックさんが立ち上がった。
「気晴らしをしようか」
エルリックさんは俺に目を向けてからセレストを見た。もしかして、俺の言ったセレストと仲良くなるための家族らしいやり方を……。
「試練を与えよう」
(そうじゃ無いだろ!)
「エルリック、今は休む時だ。お前の趣味に付き合っている暇はな……」
「つ、釣り対決とかどうかな?」
エルリックさんの言葉にリュセラとセレストは目を丸くした。
「バトルばかりのエルリックが……」
だが、セレストは笑みを浮かべる。
「戦闘以外は出来ないんじゃないですかー? だって勇者で忙しかったんですからぁ」
「え、何年も旅をしたから慣れているよ。セレストは自信無いのかい?」
「やってやります!」
こうして釣り対決が決まった。俺たちは移動しながら川を探す。
「そう言えば川が干上がってたよな?」
「そうだったのかい? なら水呼びの加護」
エルリックさんは呪文を唱え、滝の方を指差した。
すると、水音が迫ってくる。急いで川の有った方へと戻ると、水が流れる川になっていた。
「一体どうやって?」
「ああ。滝の水があったから、一時的にこっちに引っ張ってきたのさ。魔力で水路を作ってね」
「あれだけの広さの滝を囲い水路に……」
「エルリックのやることだ、そうやって干ばつから町を救ったりしてたからな。驚いていたらキリがない」
俺は水の戻った川を眺めながら、エルリックさんの力に驚き恐れを抱く。リュセラとセレストが勝てないのが良く分かった。
それと、しっかりセレストに向き合おうとしているのに俺は嬉しさを感じた。やり方が試練なのが相変わらずなのだが。
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