上 下
99 / 210
2部、1章

危機が去って

しおりを挟む
 林を照らす太陽は、依然としてそのままにしてある。他のメンバーを探さないとならないから。

 相手が気づいてこちらに来てくれるかもしれないし。俺だったら突然現れた太陽とか近づきたくないけど。

「藍華、良かった。無事で!」

 藍華は隠れた木の後ろから上半身のみを出した。

「カインが助けてくれたの。あの大きな熊を撹乱してくれたから隠れて逃げようと思ってた。その必要無かったけど……」

 俺は藍華の体を確認したが怪我もない。衣服の乱れもない。良かった。何もされてないみたいだ。心配ないかもだか、カインも奥手そうだし。

「あの、ありがとうございます。今の僕では倒すのが難しい相手でしたので。僕も助かりました」

「別にカインを助けたわけではないからな。仲間だから助けただけだ。それと、藍華を庇ってくれてありがとう」

 俺は藍華に近づいた。その時に藍華がカインと手を繋いでいるのに気がついた。その瞬間に俺は叫んだ。

「グオッー!!」

 咆哮した俺。大気が大地に振動が響き渡り、林の木々が揺れ、隠れた動物やモンスターが勢い良く飛び出して、逃げていく。

「どうしたの悠人、とうとうモンスターになっちゃった?」

「俺は人間だ! カイン、藍華から手を離せー!」

 俺はハイドラの頭を全てカインへと向け、牙を見せる。物質を創造する魔法で熱線ビームでも照射しようと思っていた。

 カインの怪我を見つけるまでは。

「カインは私を守ってくれたの、ネズミに流されて木にぶつかりそうだった時も熊に攻撃されたときも!」

「そうだったのか。俺の誤解だった。すまない」

 ハイドラの頭をおろした俺。カインは素直に藍華の手を離した。

「いえ。藍華さんが無事ならそれで良かったので。でも藍華さんと手を繋ぐとドキドキしてしまいますね」

「グオッー!!」

 再度の咆哮。木々以外には動くものがない。モンスターも全部逃げたみたいだ。慣れたのか、誰も反応はしなかったのだが。

「とにかく良かった。一緒にみんなを探そう」

「うん。今ので逃げてないと良いけど……」

「大丈夫。リュセラとセレストは強いから、きっと……」

 風を切る音と共に、何かが飛来した。俺は慌てて藍華の前にハイドラを集めたが。狙いは藍華でなかった。

 俺の腹に何かが突き刺さり止まった。それは剣だった。いかにも勇者が使いそうな金色で、きれいな模様の剣。俺は剣の飛んできた方向を見た。

「悠人だったのか。すまない。今抜いてやる」

「リュセラ。確認してから攻撃してくれ。すごい痛い……」

「明らかに神話の怪物の声だったからつい、心臓に……」

「それ大丈夫かな!? 俺、死んでない?」

「平気だ。神話の怪物なら即死する」

「絶対大丈夫じゃないやつじゃん!!」

 リュセラと合流することが出来た。死にかけた気がしたが、そんなことはなく。剣を抜いて、ヒールもかけてもらった。剣が抜けたら再生したけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...