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2部、1章

恐れ

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 装甲車は無事に軌道を戻し、山林地帯を走行している。

 だが、少しだけ空いた窓から紛れ込んだネズミが、藍華の膝の上で彼女を見上げている。

「なんか白くて綺麗なネズミだー」

「そうだな、家に出るやつとは違う」

 ネズミは鼻を効かせながら、藍華の膝の上でうろちょろした。攻撃をしてくる様子はない。

「大人しくって可愛いかも」

「触っちゃダメだぞ、野生動物は細菌などのリスクがある」

 しばらくネズミを観察していると、リュセラがこちらに気がつく。

「悠人! 刺激せずにそいつを捕まえろ!」

「ただのネズミじゃないのか?」

「微量な魔力が有るだろう!」

 俺も観察すると、ネズミの体に揺れ動く魔力の流れを感じた。

「なら、こうだな」

 俺は物を創造する魔法を用いて、ネズミの体の周りに広めの檻を作る。底と天板を付けて。

「閉じ込めた。後は外に逃がしてやるだけだな」

「いや、僕が始末する」

 リュセラは杖を構えていた。

「リュセラさん。何をする気なの!」

「魔法を使える生物は危険なんだ。僕の魔法で何とかする。その檻を渡してくれ」

「嫌、攻撃しないであげて!」

 藍華は檻を持って立ち上がった。檻の中のネズミはリュセラを見ている。

「そいつは必ず攻撃を仕掛けてくる。野生の動物は臆病だからな」

「リュセラ。いじめちゃダメだよ……」

 凛音はリュセラを見つめる。やや、躊躇いながらも杖を構え直した。

「非常事態だ、凛音。冒険でドラゴンが出た時はどう対処する?」

「どんな魔法で倒せるか試す!」

「聞いた相手が悪かったか……。外敵として排除するだ」

「召喚魔法、無見回廊」

 リュセラは魔法を放った、杖から闇が放たれ藍華へ向かって行く。

「させるか! 位置入れ換え!」

 俺は創造する魔法で石ころを作り出し、藍華と手の檻ごと入れ換えた。

「邪魔するな悠人!」

「藍華に当たったらどうする?!」

「安心しろ。何も見えない闇に閉じ込める魔法だ。害はない」

「藍華まで閉じ込めるつもりか!」

 俺は藍華の前に立った。

 その瞬間だった。車体が再び大きく揺れる。

「ネズミが犯人でないのか?!」

 今度の衝撃は強く。それによって立っていた俺とリュセラ、藍華とカインは転ぶ。

 一番最初に動いたのは檻の中のネズミだった。ネズミは膨れ上がったかと思うと、体からもう一匹のネズミが現れ、更に現れ。繰り返していく。

 増えたネズミによって檻が破られた。更に倍増したネズミは車内を満たし、ネズミの増殖によって俺たちは壊れたドアから外へ押し流される。

 俺は藍華に手を伸ばした。だが既に遠くに。

 エリカ大尉たちも、凛音もリュセラもみんな山の林へと流され、山林の木々により誰も見えなくなった。

 そんな中、俺が最後に見たのは藍華の方へ飛び上がった、吸血鬼の翼が生えたカインだった。
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