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2部、1章

心配

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 自衛隊の基地で、エリカ大尉が次に呼んだのは優しい表情をした男性と真剣な面持ちのオールバックの男性だ。二人は若く、俺たちと同じ位の身長だ。

 オールバックの男性が前に出た。彼は胸元のポケットから木製の櫛を取り出す。櫛は荒々しい堀込から手彫りの櫛だと分かった。その櫛で髪を整えてから声を出す。

「俺は工兵の山本ケンタ軍曹だ。危険物を見つけたら、慌てずに俺を呼べ」

 簡素な紹介を終えたケンタさんは直ぐに引き下がった。冷静な自衛官という印象を受ける。すると、隣のユウキさんが俺のハイドラの頭に近づいた。

「ケンタは仕事が出来る人っすよ。櫛を持ってなければ」

「なぜです?」

「不安になると櫛で髪の毛を整える癖があるっす」

 そういう癖は誰にでもある。俺もシナモンコーヒーを飲むし。ケンタさんは自己紹介の時点で不安だったってことなのだが……。

 エリカ大尉はもう一人、男性を呼んだ。穏やかな笑みを浮かべた男性だ。背が高く、彼が自分の前に立つと熊に見下ろされているような感覚になる。

「私は通信兵、曹長の田中カズヒロです。今回の山林地帯は予め調査をする間が無かったため、先行隊に調査をして貰いながら大穴を目指します。協力者の悠人君たちの安全を第一に考え……」

「調査を行ってないだと? 仕事しろよ、カズヒロ曹長。民間人の安全を考えるなら慎重に動くべきだ!」

 文句を言ったのはケンタさんだ。彼は苛立ち、大声を上げた。

「不足の事態に備えて調査をせずに何が安全だ! あなたの仕事だろう!」

 場に緊張が走った。だが、穏やかな笑みを崩さずにカズヒロさんは話を進める。

「すみませんね。人員が少ない隊ですから、対応が間に合わない。地形等については調査をしてありますが。なにぶん魔法が絡むと、その危険性は未知数」

 話を進めるカズヒロさん。ケンタさんの方を見ると、すでに櫛で髪を整えていた。ケンタさんが櫛をしまう瞬間にカズヒロさんは話し始めた。そこまでに妙な間がある。

「大穴まで続く山道があり、道は整っていますが崩落の危険が有ります。大荷物を持つ方は警戒を」

 また、間があってケンタさんが櫛をしまうと話し始める。

「あと、道幅が狭く大人は歩くのに注意してください。さらに、攻撃的な魔物の目撃情報、熊などの危険な生物も……」

 やたらに長い注意事項を言うカズヒロさん。すでに整った髪の毛に櫛をかけ続けるケンタさん。

「ケンタさん、髪の毛か心配だな……」

「大丈夫っすよ、いつも通り。仕返ししてるだけなんで」
 
 陰湿だな……。この隊って割りと仲悪いのではと思い始めた頃にはカズヒロさんは話を終えた。
ケンタさんは未だに櫛をかけ続けてるけど。
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