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2部、1章

カインの素性

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 八ツ橋作りも佳境。ここまでで作った生地を蒸し器に入れて蒸す。

「後は生地をこねてから蒸して、冷まし整形するだけ」

「結構手間かかってるんだね」

「出来上がるのが楽しみ!」

 俺は自分の生地を持って保温した蒸し器の前に立った。

「だから、おにーちゃん退いて」
「だから、悠人退いて」

 今の俺はハイドラ。頭が十四本有るのだ。藍華と凛音の気持ちも分かる。さっと、自分の生地を入れて端に寄った。それでも肘で押し退けられたが。

 生地を蒸し終えて、熱々の生地を取り出そうと手を伸ばした俺。だが、もう一人手を伸ばした者がいた。

「カイン、熱いから俺に任せてくれ」

「いえ、僕は頑丈なので任せてください」

「じゃあ、敷いてあるクッキングシートを内側にまとめて、溢さないように持ち上げるんだ」

 カインは俺の言うとおりに丁寧にクッキングシートを纏めて持ち上げた。だが、気がつく。耐熱ミトン着けてないじゃん!

「危ないから、直ぐに置いて!」

 彼は火傷などせずに、クッキングシートを取り出して、ボウルに入れた。

 全員で生地をヘラで混ぜながら、カインの手を見る。傷など無い綺麗な手を。

 冷ます間も彼の動向を監視していた。不審な点もなく。藍華と談笑し、サメが出てくる映画について話す様は普通な少年だ。首の十本を用いてあらゆる角度から見たものの、アラ一つ見つからなかった。

「何か怪しい……」

「私から見たら悠人の方が怪しいんだけど、どうしたの?」

 俺に話しかけて来たのはセレスト。手にはコップを二つコーヒーが湯気を立てていた。甘い香りからハチミツも入っている。

「あげる。落ち着くんでしょ?」

「入れたハチミツは俺のだが……。ありがとう」

「二人の事、気に入らないの?」

「いや、俺が割って入るのは過干渉だな。でも異世界の人だし。どんな人かも分からないカインを信じることが出来なくてな」

「納得。でも、カインは悲劇教団の中でもまともな方よ。映画撮って、見せることで教団の主な魔力集めを担っている。穏健派ってところ」

「映画監督か、収入が不安だな」

「彼は印税生活の大金持ちよ。元から貴族でお金有るけど」

「ううん……。身なりも良い、お金もある。人当たりもいい、欠点がないなんて俺は藍華のために、引き下がるべきか……」

「まあ、吸血鬼だけどね」

 それを聞いた俺はゾッとした。吸血鬼は不死身の怪物。だから火傷もしなかった。回復したんだ。どれだけ、いい人であろうとも。藍華を守らねば。現状危険な様子は無いけど。
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