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2部、1章

カインの魔法

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 作戦会議の後に、自衛隊のエリカ大尉たちは武装や探検の道具を整理している。

 会議の終わりに呆然としていた俺の前にエリカ大尉がやってきた。彼女はカートを押して俺の前に来た。カートにはリュックが三つ乗っている。

「悠人君。作戦開始までの間に準備をしておきなさい。これは冒険の道具です」

「ありがとうございます」

「必要なものが有ったら、言ってくれ。こちらも、君たちの安全のために協力を惜しまないつもりだ」

「じゃあ、調理場に案内してください」

 俺の発言にエリカ大尉は首をかしげる。

「俺はエンチャントお菓子を作ります。冒険の際に役立つ魔法を用意したいので」

「ああ、なるほど。まだ魔法を完全には使えないんだったな。了解した」

 ちょうどお昼時なので調理場は空いていないかと思ったが、広い基地なのですぐ用意してくれた。向かう前に、藍華に声をかける。

「備えがないとな。藍華も手伝ってくれるか?」

「いいよ。私も無いと魔法使えないし」

 調理場へ向かう俺たちの元にセレストとカインが近づいてきた。

「セレストも手伝ってくれるのか。助かる」

「味見だけね」

「それ食べたいだけだろ……。確かに魔法打ち消してくれるから助かるけどさ」

 俺はカインが藍華のもとへ向かったのを見逃さず。入れ替りの魔法で、藍華と自分の位置を入れ換えた。カインは驚いたものの。笑顔で応対する。

「僕も手伝って良いでしょうか?」

「構わないけど、料理の経験はあるか?」

「いえ。まったく。映画として撮したことは有りますが」

「じゃあ俺の指示に従ってくれ」

「はい」

 カインは素直に答えた。俺の先程の意地悪な行いを気にしていないのか。腹が黒いのか。探るしかない。手の内を探るのだ。

 基地を歩き、すぐに食堂のある小屋にたどり着く。後ろから追ってきた、凛音とリュセラ。そして、アキラさんだ。

「私たちも欲しい!」

「僕は必要がないかもしれんが、凛音が作ると言うなら」

「良いぞ。食材はそこそこ持っている」

「…………」

「アキラさんは、なぜここに?」

 アキラさんはしゃべらずに、チラッと凛音とリュセラを見た。見張りだな恐らく。

「じゃあ、お菓子を作ろう。スマホ、何にしようかな?」

 俺はポケットに触れる。ポケットから現れたスマホは近未来的な白いボディースーツ少女の姿になる。お腹に画面を写し出した。

「藍華、何かリクエストとかあるかな?」

「うーん。おにーちゃんのお菓子は全部美味しいから迷う。ねえ、カインは何が食べたい?」

 お前には聞いてない。と言いたいが、藍華が聞いたので、俺は否定できない。俺が藍華の交友関係に干渉しない方がいいのだが。彼が異世界の人でなければだ。

 カインは俺たちには魔法すら教えていない。まだ、敵かどうか分からないのだ。

 スマホの画面を見せて少しスクロールしたカインはレシピの一つを指差した。

「これ、気になります。ヤツハシ」

「ん、知らない割に良いチョイスだな。保存も効くし、小さくて持ちやすい」

「でも、悠人。米粉は流石に置いてないよ。一応自衛隊の施設だし」

「有るぞ。俺の鞄にな」

「何で持ってるの……。悠人に突っ込むのは野暮か。じゃあ作ろー!」

 調理台に立った俺はボウルに米粉を入れて、水を加えながら混ぜる。この工程を凛音と藍華に手伝って貰っていた。

 砂糖を誰かにとって貰おうと声を出した瞬間だった、隣にやってきたカインが砂糖の袋を差し出したのだ。

「バカな、素人のはず!」

「レシピに書いてあったので」

「それはそうか……」

 確かに俺と一緒にレシピ見ていたけど。見回した時に気がついてしまった。全員に砂糖を差し出しているカインが居ることに。

「な、分身だと」

「いえ、コピーです。僕の魔法は操作魔法。この世界のパソコンみたいに、コピー、カット、ペースト、保存ができます。彼らは僕のコピーです」

 俺に手の内を晒しただと? 確かに隠す必要がない強力な魔法だ。まだだ、俺は騙されんぞ。ただの気配りかもしれないが。
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