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2部、1章
頼れる大人
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母さんに見送られて、俺たちは装甲車に乗った。母さんどころかご近所さんも顔を出して、不思議そうにこちらを見ていたけど。自衛隊の人、本当に隠す気があるのか不安になる。
時刻は朝の八時。春の日差しは柔らかく。お出掛け日和だ。今から行くのは危険な冒険なのだが。
装甲車の中には男性が二人と女性が二人乗っていて俺たちを招くと、女性と男性が挟むように座った。座席は広く四人ほど乗れるシートが対面で二つあり、俺たちは車体の右側のシートに座る。
「大きな車だね、おにーちゃん!」
「そうだな、こんな細い道どうやって入ってきたんだ……」
「我が隊の運転手、伊藤アキラは腕が良い。どんな車であろうと悪路を走る訓練を積んでいる」
俺たちの座る座席の前にいる女性が、俺たちの方を向いた。
「普通の車で来てください。大臣が秘密にって言っていましたよね……」
「魔法は秘匿する任務だが、迎えは隠す必要はない」
「一般人なので目立ちたくないのですが!」
「魔法が使えるのにか?」
「それはそうですけど……」
何も言えない俺。確かに今日は位置を入れ換える魔法とかエンチャントしているが。
「お気持ち、分かりますよ。理不尽にもとんでもない出来事に巻き込まれたのですから」
俺たちのとなりに座っている女性が気遣ってくれた。
「私は医療担当、鈴木ミホです。これ、酔わないように酔い止めです」
「ありがとうございます。俺は中村悠人です。隣は妹の中村藍華」
「ありがとうございます」
ミホさんから薬を受け取り飲んだ。さらに彼女はペットボトルの水を手渡してくれる。
「基地に着くまで、三十分は掛かるから。寝ていても良いですからね」
「鈴木、下手に出るな。彼らは協力者だが、まだ子供。気を大きくして危険に飛び込んでしまう。緊張感を与えねば」
前の座席に座る女性は鋭い目でこちらを見た。迫力のある人で、美人、スタイルがいい。俺は前の女性に見覚えがある。大臣の麗音さんに付き添っていた、自衛隊の女性だ。
「いけませんよ大尉。高圧的だと反発を招きます」
「む、そう言うものか。悠人君、藍華君。すまない、対人関係は苦手でな」
「心配しないで、大尉は怖いっすから。みんな緊張しまくりっす」
もう片側に座った男性が言うと。大尉と呼ばれた女性は男性を睨んだ。男性は俺たちの方を向いて話しかけてくる。
「俺は木村ユウキ。今から君たちの荷物チェックをするけど、良いかな?」
「はい。よろしくお願いします」
俺と藍華の鞄をユウキさんに手渡す。彼がチェックしている間に前の席の隊長と呼ばれた女性がこちらを見ているのに気がついた。
「遅れて名乗る。相上エリカ大尉だ。今回の作戦の指揮を執る。悠人君、藍華君の安全と作戦の成功のために協力をお願いしたい」
「「よろしくお願いします」」
俺は少し安心している。装甲車といい、怖い大尉とどう接すれば良いのかと悩んだが。他の隊員たちの助け船があり、エリカ大尉も俺たちの安全を考えてくれている。優しい人なのだろう。
だが、俺の鞄を見ていたユウキさんの手が止まった。
「あの、何か危険なものでも見つかりましたか?」
エンチャントお菓子も一般では危険なものだ。怒られるかも知れない。
「酔った……」
「確かに強い臭いだ。木村にも酔い止めを」
やや不安になりつつ、反省する。確かに俺の鞄は車内ではきつい臭い、かもしれない……。消臭の魔法を用意しようか。
時刻は朝の八時。春の日差しは柔らかく。お出掛け日和だ。今から行くのは危険な冒険なのだが。
装甲車の中には男性が二人と女性が二人乗っていて俺たちを招くと、女性と男性が挟むように座った。座席は広く四人ほど乗れるシートが対面で二つあり、俺たちは車体の右側のシートに座る。
「大きな車だね、おにーちゃん!」
「そうだな、こんな細い道どうやって入ってきたんだ……」
「我が隊の運転手、伊藤アキラは腕が良い。どんな車であろうと悪路を走る訓練を積んでいる」
俺たちの座る座席の前にいる女性が、俺たちの方を向いた。
「普通の車で来てください。大臣が秘密にって言っていましたよね……」
「魔法は秘匿する任務だが、迎えは隠す必要はない」
「一般人なので目立ちたくないのですが!」
「魔法が使えるのにか?」
「それはそうですけど……」
何も言えない俺。確かに今日は位置を入れ換える魔法とかエンチャントしているが。
「お気持ち、分かりますよ。理不尽にもとんでもない出来事に巻き込まれたのですから」
俺たちのとなりに座っている女性が気遣ってくれた。
「私は医療担当、鈴木ミホです。これ、酔わないように酔い止めです」
「ありがとうございます。俺は中村悠人です。隣は妹の中村藍華」
「ありがとうございます」
ミホさんから薬を受け取り飲んだ。さらに彼女はペットボトルの水を手渡してくれる。
「基地に着くまで、三十分は掛かるから。寝ていても良いですからね」
「鈴木、下手に出るな。彼らは協力者だが、まだ子供。気を大きくして危険に飛び込んでしまう。緊張感を与えねば」
前の座席に座る女性は鋭い目でこちらを見た。迫力のある人で、美人、スタイルがいい。俺は前の女性に見覚えがある。大臣の麗音さんに付き添っていた、自衛隊の女性だ。
「いけませんよ大尉。高圧的だと反発を招きます」
「む、そう言うものか。悠人君、藍華君。すまない、対人関係は苦手でな」
「心配しないで、大尉は怖いっすから。みんな緊張しまくりっす」
もう片側に座った男性が言うと。大尉と呼ばれた女性は男性を睨んだ。男性は俺たちの方を向いて話しかけてくる。
「俺は木村ユウキ。今から君たちの荷物チェックをするけど、良いかな?」
「はい。よろしくお願いします」
俺と藍華の鞄をユウキさんに手渡す。彼がチェックしている間に前の席の隊長と呼ばれた女性がこちらを見ているのに気がついた。
「遅れて名乗る。相上エリカ大尉だ。今回の作戦の指揮を執る。悠人君、藍華君の安全と作戦の成功のために協力をお願いしたい」
「「よろしくお願いします」」
俺は少し安心している。装甲車といい、怖い大尉とどう接すれば良いのかと悩んだが。他の隊員たちの助け船があり、エリカ大尉も俺たちの安全を考えてくれている。優しい人なのだろう。
だが、俺の鞄を見ていたユウキさんの手が止まった。
「あの、何か危険なものでも見つかりましたか?」
エンチャントお菓子も一般では危険なものだ。怒られるかも知れない。
「酔った……」
「確かに強い臭いだ。木村にも酔い止めを」
やや不安になりつつ、反省する。確かに俺の鞄は車内ではきつい臭い、かもしれない……。消臭の魔法を用意しようか。
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