上 下
78 / 210
2部、1章

頼れる大人

しおりを挟む
 母さんに見送られて、俺たちは装甲車に乗った。母さんどころかご近所さんも顔を出して、不思議そうにこちらを見ていたけど。自衛隊の人、本当に隠す気があるのか不安になる。

 時刻は朝の八時。春の日差しは柔らかく。お出掛け日和だ。今から行くのは危険な冒険なのだが。

 装甲車の中には男性が二人と女性が二人乗っていて俺たちを招くと、女性と男性が挟むように座った。座席は広く四人ほど乗れるシートが対面で二つあり、俺たちは車体の右側のシートに座る。

「大きな車だね、おにーちゃん!」

「そうだな、こんな細い道どうやって入ってきたんだ……」

「我が隊の運転手、伊藤アキラは腕が良い。どんな車であろうと悪路を走る訓練を積んでいる」

 俺たちの座る座席の前にいる女性が、俺たちの方を向いた。

「普通の車で来てください。大臣が秘密にって言っていましたよね……」

「魔法は秘匿する任務だが、迎えは隠す必要はない」

「一般人なので目立ちたくないのですが!」

「魔法が使えるのにか?」

「それはそうですけど……」

 何も言えない俺。確かに今日は位置を入れ換える魔法とかエンチャントしているが。

「お気持ち、分かりますよ。理不尽にもとんでもない出来事に巻き込まれたのですから」

 俺たちのとなりに座っている女性が気遣ってくれた。

「私は医療担当、鈴木ミホです。これ、酔わないように酔い止めです」

「ありがとうございます。俺は中村悠人です。隣は妹の中村藍華」

「ありがとうございます」

 ミホさんから薬を受け取り飲んだ。さらに彼女はペットボトルの水を手渡してくれる。

「基地に着くまで、三十分は掛かるから。寝ていても良いですからね」

「鈴木、下手に出るな。彼らは協力者だが、まだ子供。気を大きくして危険に飛び込んでしまう。緊張感を与えねば」

 前の座席に座る女性は鋭い目でこちらを見た。迫力のある人で、美人、スタイルがいい。俺は前の女性に見覚えがある。大臣の麗音さんに付き添っていた、自衛隊の女性だ。

「いけませんよ大尉。高圧的だと反発を招きます」

「む、そう言うものか。悠人君、藍華君。すまない、対人関係は苦手でな」

「心配しないで、大尉は怖いっすから。みんな緊張しまくりっす」

 もう片側に座った男性が言うと。大尉と呼ばれた女性は男性を睨んだ。男性は俺たちの方を向いて話しかけてくる。

「俺は木村ユウキ。今から君たちの荷物チェックをするけど、良いかな?」

「はい。よろしくお願いします」

 俺と藍華の鞄をユウキさんに手渡す。彼がチェックしている間に前の席の隊長と呼ばれた女性がこちらを見ているのに気がついた。

「遅れて名乗る。相上エリカ大尉だ。今回の作戦の指揮を執る。悠人君、藍華君の安全と作戦の成功のために協力をお願いしたい」

「「よろしくお願いします」」

 俺は少し安心している。装甲車といい、怖い大尉とどう接すれば良いのかと悩んだが。他の隊員たちの助け船があり、エリカ大尉も俺たちの安全を考えてくれている。優しい人なのだろう。

 だが、俺の鞄を見ていたユウキさんの手が止まった。

「あの、何か危険なものでも見つかりましたか?」

 エンチャントお菓子も一般では危険なものだ。怒られるかも知れない。

「酔った……」

「確かに強い臭いだ。木村にも酔い止めを」

 やや不安になりつつ、反省する。確かに俺の鞄は車内ではきつい臭い、かもしれない……。消臭の魔法を用意しようか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

処理中です...