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2部、1章

一本の電話

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 俺たちの世界に突如現れたダンジョンは、人々に恐れと未知の興奮をもたらしている。俺、中村悠人の目の前で駄々をこねる妹の藍華にも。

「おにーちゃん、私も連れていってよー!」

 スマホに掛かってきた一本の電話。居間でくつろぐ藍華の前で電話したのがまずかった。

「だから、俺はバイトで行くだけだから」

「そんな楽しそうなバイトあるわけ無いじゃん!」
 
「いいか、藍華。ダンジョンは命がけの危険な場所なんだ。俺は防衛大臣の佐々木麗音さんに依頼されたから行けるけど、藍華は麗音さんと面識も無いじゃないか」

「普通なら立ち入り禁止の場所でしょ、絶対行きたい」

 引き下がらない藍華に戸惑っている俺。通話越しに妹の声を聞いたのか、麗音さんが声をかけてくる。

「どれ、俺が説得しよう。法律も学んでいるから、説得は得意だ」

「お願いします。凛音のお父さん」

「君のお父さんでない! だが、親族を大切に思うのは良いことだ」

 藍華に俺のスマホを貸して数分後。

「許可取れた!」

「嘘だろ……」

 俺はスマホを返して貰い麗音さんに話しかける。

「ううっ、なんて不憫で健気な子なんだ……。足の怪我で外に行けないなんて、可哀想だ。今回は連れていってやってくれ」

「あの、説得は?」

「凛音と同じ歳なのに、出掛けられなかった子を無下に出来ない……」

「泣き落としされてる……」

「バイト代金も出そう。二人分。荷物はこちらで用意しよう。要望も聞く。旅行だと思って楽しんでくれ」

「ダンジョンの調査が依頼ですよね?」

「そうだ。詳しい説明は後でするが、今回は部隊で動く。余程の危機でない限りは安全だ」

「不安だ……」

「分かるぞ、悠人くん。俺も凛音のことが不安でならない。だから、人数が多ければ対応力も上がる。生存率も高くなる。凛音の危険なトライも減るだろう」

「最後のが本音ですね?」

「如何にも。今回は自衛隊の相上エリカ大尉を付けよう。彼女の部隊が同行する」

「自衛隊の部隊ですか」

「ああ、ダンジョンの調査を担当するために、特別な訓練を受けている。魔法が使える部隊だ。エリカ大尉はエリートで良い働きもする。信頼の置ける方だ」

「自衛隊の人が付いてくるなら、まあ……」

「大尉に迎えを頼んだ、バレないように来てくれ」

「あの、母にはどのように説明すれば……?」

「俺が話を付けよう」

 麗音さんに言われて、母さんにスマホを渡す。そして、スマホが帰って来た。

「自衛隊の施設見学ですって、悠人? 泊まりで」

「そ、そうだよ」

「藍華も連れていくの?」

「そうなるね」

 母さんは呆れた顔だが、責める口調ではない。

「気を受けてね。大人の言うことをしっかり聞くのよ? 藍華も」

「分かった」

 俺たちは軽い荷物(調味料セット、小麦粉などの非常用食材、手作りのお菓子数種類の入った鞄。カメラにスマホを、財布にゴールドボーイ、スカーフ)を持った。我ながら持ちすぎと思うが、いつも持っているので大丈夫。

 藍華も小さなリュックを持った。何が入っているのかは分からない。だが、麗音さんが冒険の道具を用意してくれるので、信頼する。説得は失敗していたが。

 俺たちが玄関に行くと、外から車の音が聞こえてきたのでドアを開ける。大きめの車だ、リムジンではないよな?

 外には狭い生活道路をどうやって通ってきたんだと考える装甲車が停まっていた。慌ててドアを閉める。

「お迎えが来るなんて、まるで特別待遇みたいね」

「あ、ああ。最近の自衛隊は気が利いてるんじゃないかな……」

 俺の苦しい言い訳に怪訝な母さん。ドアをちょっと開けて藍華を先に外に出してから俺も行く。

「行ってきます」

「装甲車で酔わないようにね。行ってらっしゃい」

 バレバレかよ! 

 母さんに見送られ俺はまた、ダンジョンへと向かう。藍華の事が心配ながら、自衛隊の大人たちが頼りになることを信じたい。早速隠せてないのだけれど。
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