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4章
回復の杖
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家に帰った俺は自分の部屋に戻り荷物を置いてから妹、藍華の部屋のドアをノックした。
待ち時間に俺は思い返す。藍華は凛音と同じ年齢で、学校では補助員の世話になり、通院もする。自由な生活を奪ったのは俺なのだ。
俺は手に回復の杖を持っている。スカーフとスマホ、カメラだけ持っていった。
部屋の中から声がして。俺はドアを開ける。
「お帰りなさい、おにーちゃん」
藍華はベッドに横になりながら俺に顔を向けてくれた。その姿にはいつも胸を締め付けられる。俺のせいで大ケガをした藍華はずっと歩けない生活をしていた。
幼い俺と出掛けた藍華は、高い段差から落ちて歩けない体になった。それも俺の冒険ごっこのせいで。
「今日もいっぱい写真を撮ってくれたの?」
「ああ、それと信じて貰えないかもしれないが足を治す方法を持ってきた」
いきなり切り出した俺。素直に言う他無かった。足については触れないようにしていたから。申し訳なさで、つぶれてしまいそうな自分を杖で支える。
「信じるよ。おにーちゃんは嘘つかない、攻撃しない、文句も言わないから」
「少し疑ってくれたほうがやりやすいんだが?」
「それとも私が文句を言った方が嬉しい?」
「そんなことはない。ずっと優しかった藍華に感謝している」
「そんなのそうだよ。おにーちゃんいつも申し訳なさそうに接するから。私の方が気を遣っちゃった」
「ごめん。一旦起こすよ」
俺は藍華のベッドに近づき、ベッドを起こした。藍華は座った状態になる。
「手に持っているそれは何?」
「これは回復の杖。最近出来たダンジョンに入って取ってきた。明確には借りたんたが」
「すごい! あのニュースでやってたダンジョンに入ったんだ」
「しっ、静かにな。母さんにバレると怒られる」
「足が治った時点でバレバレだよ?」
「そう言えばそうじゃん……」
どうしようかと迷った俺から、藍華は回復の杖を取り上げた。何度か振ってみるものの、効果は出ない。
「何も起こんないね」
「ああ、魔力がないからか」
俺は藍華から回復の杖を預かり、藍華の足へと振った。杖から光が出てきて藍華の足に当たる。
「何か光ってた?」
「藍華、手を出して」
俺は藍華の足をベッドから外し、ベッドに座らせてから彼女の手を握った。
恐る恐る俺は、藍華を引っ張って立たせた。ふらふらとしながらも、藍華は立ち上がった。俺は手をゆっくりと離すと。転ぶことはなかった。
「本当に治った!」
俺は目頭が熱くなり、涙が出た。
「すごい、立てるよ! 何をしたの?」
「魔法を使ったんだ」
俺は手のひらを広げ、氷の魔法を使って見せた。突然現れた氷の塊に藍華は興味津々に見つめる。
「私もダンジョンに行ってみたい! 楽しそうだから」
「ダメだよ藍華、リハビリしないと」
「おにーちゃんばっかりズルいじゃん!」
「危ないことはダメだよ」
藍華が抗議しようと俺に向かって一歩踏み出すが、ふらっと倒れそうになる、すかさず俺は藍華を支える。
「お母さんに、ダンジョンのこと言っちゃおうかな?」
「なっ、それは……」
「嘘だよ。ありがとうね、おにーちゃん」
からかわれただけで良かった。でも、安全そうなエンチャントお菓子をあげる位ならと。我ながら甘い気もするが。藍華には幸せになって欲しいから。
藍華を連れていくのは恐怖を伴う。かつての失敗は俺が連れ出したことで藍華に怪我をさせたから。
それに、麗音さんも止めるだろう。本来なら立ち入り禁止、俺たちですら入ってはいけないのだから。杖を返しに行くのだが。
今回の件はこれで一件落着。再び凛音とリュセラと共に杖を返しに行き。(麗音さんも付いて来た)バトルを終えて帰還した。滞在期間は短い。調味料は買い漁って来たが、時間も止まっているし。
仮として冒険者のバイト扱いとなったが、藍華が歩けるようになったこと以外は変わらぬ日常が続く。
その後電話が来るまでは、の話しだが。
待ち時間に俺は思い返す。藍華は凛音と同じ年齢で、学校では補助員の世話になり、通院もする。自由な生活を奪ったのは俺なのだ。
俺は手に回復の杖を持っている。スカーフとスマホ、カメラだけ持っていった。
部屋の中から声がして。俺はドアを開ける。
「お帰りなさい、おにーちゃん」
藍華はベッドに横になりながら俺に顔を向けてくれた。その姿にはいつも胸を締め付けられる。俺のせいで大ケガをした藍華はずっと歩けない生活をしていた。
幼い俺と出掛けた藍華は、高い段差から落ちて歩けない体になった。それも俺の冒険ごっこのせいで。
「今日もいっぱい写真を撮ってくれたの?」
「ああ、それと信じて貰えないかもしれないが足を治す方法を持ってきた」
いきなり切り出した俺。素直に言う他無かった。足については触れないようにしていたから。申し訳なさで、つぶれてしまいそうな自分を杖で支える。
「信じるよ。おにーちゃんは嘘つかない、攻撃しない、文句も言わないから」
「少し疑ってくれたほうがやりやすいんだが?」
「それとも私が文句を言った方が嬉しい?」
「そんなことはない。ずっと優しかった藍華に感謝している」
「そんなのそうだよ。おにーちゃんいつも申し訳なさそうに接するから。私の方が気を遣っちゃった」
「ごめん。一旦起こすよ」
俺は藍華のベッドに近づき、ベッドを起こした。藍華は座った状態になる。
「手に持っているそれは何?」
「これは回復の杖。最近出来たダンジョンに入って取ってきた。明確には借りたんたが」
「すごい! あのニュースでやってたダンジョンに入ったんだ」
「しっ、静かにな。母さんにバレると怒られる」
「足が治った時点でバレバレだよ?」
「そう言えばそうじゃん……」
どうしようかと迷った俺から、藍華は回復の杖を取り上げた。何度か振ってみるものの、効果は出ない。
「何も起こんないね」
「ああ、魔力がないからか」
俺は藍華から回復の杖を預かり、藍華の足へと振った。杖から光が出てきて藍華の足に当たる。
「何か光ってた?」
「藍華、手を出して」
俺は藍華の足をベッドから外し、ベッドに座らせてから彼女の手を握った。
恐る恐る俺は、藍華を引っ張って立たせた。ふらふらとしながらも、藍華は立ち上がった。俺は手をゆっくりと離すと。転ぶことはなかった。
「本当に治った!」
俺は目頭が熱くなり、涙が出た。
「すごい、立てるよ! 何をしたの?」
「魔法を使ったんだ」
俺は手のひらを広げ、氷の魔法を使って見せた。突然現れた氷の塊に藍華は興味津々に見つめる。
「私もダンジョンに行ってみたい! 楽しそうだから」
「ダメだよ藍華、リハビリしないと」
「おにーちゃんばっかりズルいじゃん!」
「危ないことはダメだよ」
藍華が抗議しようと俺に向かって一歩踏み出すが、ふらっと倒れそうになる、すかさず俺は藍華を支える。
「お母さんに、ダンジョンのこと言っちゃおうかな?」
「なっ、それは……」
「嘘だよ。ありがとうね、おにーちゃん」
からかわれただけで良かった。でも、安全そうなエンチャントお菓子をあげる位ならと。我ながら甘い気もするが。藍華には幸せになって欲しいから。
藍華を連れていくのは恐怖を伴う。かつての失敗は俺が連れ出したことで藍華に怪我をさせたから。
それに、麗音さんも止めるだろう。本来なら立ち入り禁止、俺たちですら入ってはいけないのだから。杖を返しに行くのだが。
今回の件はこれで一件落着。再び凛音とリュセラと共に杖を返しに行き。(麗音さんも付いて来た)バトルを終えて帰還した。滞在期間は短い。調味料は買い漁って来たが、時間も止まっているし。
仮として冒険者のバイト扱いとなったが、藍華が歩けるようになったこと以外は変わらぬ日常が続く。
その後電話が来るまでは、の話しだが。
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