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4章
機密保持
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凛音のお母さんに料理を振る舞った後に、俺たちは病院の暗いフロントまで来ていた。
「ありがとう悠人、リュセラ。お陰でお母さん元気になった!」
「お互い様だ。凛音が居なければ俺は回復の杖を探そうなんて思わなかったから」
俺は凛音に回復の杖を貰い、その重みを感じた。これかあれば、妹の足の怪我を治せる。まだ、誰の回復にも使ってないのが不安だが。
鍋は治らなかった。凛音のお母さんは使わなかった。本当に使えるのだろうか?
「ここでお別れだね、悠人」
「ああ、リュセラはどうするんだ?」
「僕も元の世界に帰る。鍋ちゃんもそろそろ治っている頃だろう」
「そうか。みんな元気でな」
別れの挨拶を終えると、凛音のお父さんが俺を連れて駐車場へと歩く。
「機密保持のために、本来なら記憶を消すのだが。悠人くん、どうしたい?」
「それが、規則なら仕方ないと思います。妹を治せればそれで良いんです」
「そうか、では提案がある。俺に雇われてみないか? 専属の冒険家として」
「雇うですか? でも俺は一般人ですよ?」
「それはない。魔法について知っていて、あそこまで扱えるからな」
「そうですが……」
俺の脳裏に母の顔が浮かんだ。夢にまでみた、冒険家になれると言うのに。決意もしたのに。
「母さんに相談させてください」
「構わない。冒険家は危険な仕事だ。悠大が居ればあいつに頼んだが、気がつくとどっか行ってしまうからな」
「父さんと親しいのですか?」
「悠大と俺は高校の同級生だ、良くつるんで訓練していたからな」
「だから、父さんと一緒に勇者として冒険をしたんですね」
「ああ、長い旅だった。学生の時からだ」
「そんなに昔からダンジョンが有ったんですか?」
「もっと大昔から有ると、異世界の賢者に聞いた。迷いこんだ人々も大勢いた。だから、俺と悠大で解決しようと思った。秘密裏にな」
麗音さんの案内で車に着いた。たが……。
「くれぐれも機密を漏らさないようにね」
「でも、この車リムジンじゃん!」
「大丈夫、このリムジン安めの方だから」
「リムジンの時点でアウトだよ!」
学校帰りにリムジン乗る奴居ないだろ。俺がしらないだけかもだが。
「遠くに停めてくださいよ」
「気にしすぎじゃないか? 悠大の親族なら俺も行こう、お礼の品も持って」
「母さんは父さんと離婚したので、止めときましょうよ」
「む、そうだな。では、お礼品で名前入りのカステラを……」
「隠す気ゼロか!」
「悠大より厳しいな、悠人くん」
「自分の指示を思い出してください……」
「仕方ない。今回は止めておこう。冒険家の件、考えておいてくれ。私の電話番号を教えておく」
「分かりました」
結局俺はリムジンに乗って徒歩五分の辺りで降りた。あちらの世界で手に入れた調味料は凛音のお母さんに全て渡してきた。
俺の持ち物はいつもの鞄に、回復の杖。これ、どう説明しよう……。
「劇の小道具って言えばいいじゃない!」
「お、スマホか。こっちの世界でも喋れるんだな」
「そう、私たちも気を付けるからね。バレないように」
「ありがとう」
俺たちが住んでいる小さなアパートの一部屋。妹の事を考えて下の階に住んでいる。ドアを開ける。
「ただいま」
自分の家に帰ってきた安心感。母さんが玄関まで顔を見せる。
「お帰り、遅かったじゃない」
「学校の行事なら仕方ないけれど。また、どこかへスパイス探しの旅に出たのかと思って心配した」
「その際はごめんなさいって。家計に迷惑掛けない範囲でやるから」
「そう、とにかく無事で良かった」
母さんは杖のことには触れずに、俺を中へ招き入れる。
とにかく、怪しまれないで良かった。
俺が何をもっていても驚かないのか母さん? 確かにハムの原木とか持って帰ったこと有ったけど。
玄関から上がった俺の腹に母さんが手を置いた。
「悠人、太ったね」
確かに。あっちの世界で色々食べたけどそんな。俺は自分の腹に触れる。柔らかな感触、膨れた腹だ。
だから、麗音さんは隠そうとしなかったのか。もろバレてるじゃん!
「ありがとう悠人、リュセラ。お陰でお母さん元気になった!」
「お互い様だ。凛音が居なければ俺は回復の杖を探そうなんて思わなかったから」
俺は凛音に回復の杖を貰い、その重みを感じた。これかあれば、妹の足の怪我を治せる。まだ、誰の回復にも使ってないのが不安だが。
鍋は治らなかった。凛音のお母さんは使わなかった。本当に使えるのだろうか?
「ここでお別れだね、悠人」
「ああ、リュセラはどうするんだ?」
「僕も元の世界に帰る。鍋ちゃんもそろそろ治っている頃だろう」
「そうか。みんな元気でな」
別れの挨拶を終えると、凛音のお父さんが俺を連れて駐車場へと歩く。
「機密保持のために、本来なら記憶を消すのだが。悠人くん、どうしたい?」
「それが、規則なら仕方ないと思います。妹を治せればそれで良いんです」
「そうか、では提案がある。俺に雇われてみないか? 専属の冒険家として」
「雇うですか? でも俺は一般人ですよ?」
「それはない。魔法について知っていて、あそこまで扱えるからな」
「そうですが……」
俺の脳裏に母の顔が浮かんだ。夢にまでみた、冒険家になれると言うのに。決意もしたのに。
「母さんに相談させてください」
「構わない。冒険家は危険な仕事だ。悠大が居ればあいつに頼んだが、気がつくとどっか行ってしまうからな」
「父さんと親しいのですか?」
「悠大と俺は高校の同級生だ、良くつるんで訓練していたからな」
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「ああ、長い旅だった。学生の時からだ」
「そんなに昔からダンジョンが有ったんですか?」
「もっと大昔から有ると、異世界の賢者に聞いた。迷いこんだ人々も大勢いた。だから、俺と悠大で解決しようと思った。秘密裏にな」
麗音さんの案内で車に着いた。たが……。
「くれぐれも機密を漏らさないようにね」
「でも、この車リムジンじゃん!」
「大丈夫、このリムジン安めの方だから」
「リムジンの時点でアウトだよ!」
学校帰りにリムジン乗る奴居ないだろ。俺がしらないだけかもだが。
「遠くに停めてくださいよ」
「気にしすぎじゃないか? 悠大の親族なら俺も行こう、お礼の品も持って」
「母さんは父さんと離婚したので、止めときましょうよ」
「む、そうだな。では、お礼品で名前入りのカステラを……」
「隠す気ゼロか!」
「悠大より厳しいな、悠人くん」
「自分の指示を思い出してください……」
「仕方ない。今回は止めておこう。冒険家の件、考えておいてくれ。私の電話番号を教えておく」
「分かりました」
結局俺はリムジンに乗って徒歩五分の辺りで降りた。あちらの世界で手に入れた調味料は凛音のお母さんに全て渡してきた。
俺の持ち物はいつもの鞄に、回復の杖。これ、どう説明しよう……。
「劇の小道具って言えばいいじゃない!」
「お、スマホか。こっちの世界でも喋れるんだな」
「そう、私たちも気を付けるからね。バレないように」
「ありがとう」
俺たちが住んでいる小さなアパートの一部屋。妹の事を考えて下の階に住んでいる。ドアを開ける。
「ただいま」
自分の家に帰ってきた安心感。母さんが玄関まで顔を見せる。
「お帰り、遅かったじゃない」
「学校の行事なら仕方ないけれど。また、どこかへスパイス探しの旅に出たのかと思って心配した」
「その際はごめんなさいって。家計に迷惑掛けない範囲でやるから」
「そう、とにかく無事で良かった」
母さんは杖のことには触れずに、俺を中へ招き入れる。
とにかく、怪しまれないで良かった。
俺が何をもっていても驚かないのか母さん? 確かにハムの原木とか持って帰ったこと有ったけど。
玄関から上がった俺の腹に母さんが手を置いた。
「悠人、太ったね」
確かに。あっちの世界で色々食べたけどそんな。俺は自分の腹に触れる。柔らかな感触、膨れた腹だ。
だから、麗音さんは隠そうとしなかったのか。もろバレてるじゃん!
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