63 / 210
4章
地の底にて2
しおりを挟む
周囲の安全を確認してから、俺は焚き火を起した。凛音からもらったリュックに調理用具が有ったから。それと、ネリーが落ち込んで居たから、料理を振る舞う為に。
焚き火を囲んで座る。火が俺とネリーをゆらゆらと照らす。俺は小さな鍋でに野菜を幾つか入れてシチューを作った。食材は遺跡に来る前に買ったもの。シチューのルウは当然俺の鞄にストックしてあった。
「シチューは嫌いか?」
「いいえ、好物でした」
ネリーは俺が渡したお茶を一口飲んだ。
「甘過ぎます。こんなのセレストと同じです!」
「ごめんよ。でも、良かった。怒る元気は有って」
ネリーは恥ずかしそうに視線を下げた。悲劇教団の隊長だとしても、やはり普通の女の子なのだ。リュセラには辛辣だったが。
ある程度シチューを煮込んだ後に、俺の持参した皿に盛り付けて簡易テーブルに乗せて差し出した。他にも持っている食品をテーブルに並べた。
「私は敵ですよ、弱っている時に倒せば良かったのに」
「敵はお礼にお金を渡さないだろ。リュセラとは敵対していても、今は食べな」
ネリーは回復の杖を抱きしめたまま、キャンプ用のスプーン(百均製)でシチューを食べた。
「ううっ……」
俺はまた、ネリーを傷つけたのかと思ったが。彼女は俺を手で制止した。
「ごめんなさい。彼を思い出してしまって、悲しくなったのです」
「それが回復の杖を折れなかった理由なんだな」
「…………」
「ネリーはやっぱり、悪いやつじゃない」
「いいえ、私が悪いんです」
シチューを食べる手を止めて、ネリーは話し始めた。
「私は恋人の彼を救えなかった。恋人とは子供の頃からの付き合いでした。一緒に冒険者をして、お金を稼いで彼と結婚する予定でした。家を買った後に彼が病気になってしまって」
「そうか、治る病だったのか?」
「はい、けれど高価な薬草が必要でした。凄腕の冒険者でも難しいような、危険なダンジョンにある薬草」
「それはどうしようもなかったな」
「薬草は取ってきましたよ」
出来るのか……。悲劇教団の隊長だから。それに、冒険者もやっていたから強いんだな。
「でも帰りに他の冒険者に会って、その人も病気で動けなくて。薬草を渡してしまったんです」
「そうか。優しいな」
「彼を一人に出来ないので、帰りました。彼は笑って許してくれました。俺はまだ平気だと。でも次の日の朝には……」
涙を流すネリー。俺は彼女の辛さに共感する。
「そうか。辛かったろうな……」
「はい、まさか小鳥になって仕舞うなんて」
「なんて?」
「変身病と言います。原因も分からず、治す方法も変身する前に薬草を食べさせるしかないんです。今ではゲージの中で、私の餌やりを待つ小鳥。ううっ……」
「確かに、治せないから。今までの付き合いが出来ないもんな」
「後で知ったのは、ダンジョンで出会った冒険者は詐欺師だったこと。今ではあいつは……」
「許せないな!」
「はい、ですのでぶちのめして牢屋に送りました」
「ネリーって割と荒くれ者なのか?!」
「彼を治したいですが、回復の杖でも治せない。だから、悲劇に使おうとしました」
「でも出来なかった」
「私どうすれば良いのでしょうね……。悲劇教団をここまで私的に動かして、結局みんな振り回しただけで」
「悲しくて暴走してしまっただけだ。まだやり直せる」
「迷う私は結局悪なのです」
「迷って良いんだ。間違いを犯すなら俺が止めてやる。恋人もきっとそうするだろ」
ネリーは涙を拭いた。そして、テーブルにあるお菓子を食べる。
「あ、それは……」
「ありがとうございます。少し元気になれました」
「ごめん」
「なぜ謝るのですか?」
「頭に触ってみてくれ」
ネリーが触れるとそこには、横長の水牛の角があった。
「なんですこれ!」
「エンチャントお菓子だ。つい出してしまった」
「ちょっと彼みたいと思った私がバカでした!」
彼女の説得に失敗したが、元気になったなら良かった。ネリーの頭が重くなったのはごめんなさい。
焚き火を囲んで座る。火が俺とネリーをゆらゆらと照らす。俺は小さな鍋でに野菜を幾つか入れてシチューを作った。食材は遺跡に来る前に買ったもの。シチューのルウは当然俺の鞄にストックしてあった。
「シチューは嫌いか?」
「いいえ、好物でした」
ネリーは俺が渡したお茶を一口飲んだ。
「甘過ぎます。こんなのセレストと同じです!」
「ごめんよ。でも、良かった。怒る元気は有って」
ネリーは恥ずかしそうに視線を下げた。悲劇教団の隊長だとしても、やはり普通の女の子なのだ。リュセラには辛辣だったが。
ある程度シチューを煮込んだ後に、俺の持参した皿に盛り付けて簡易テーブルに乗せて差し出した。他にも持っている食品をテーブルに並べた。
「私は敵ですよ、弱っている時に倒せば良かったのに」
「敵はお礼にお金を渡さないだろ。リュセラとは敵対していても、今は食べな」
ネリーは回復の杖を抱きしめたまま、キャンプ用のスプーン(百均製)でシチューを食べた。
「ううっ……」
俺はまた、ネリーを傷つけたのかと思ったが。彼女は俺を手で制止した。
「ごめんなさい。彼を思い出してしまって、悲しくなったのです」
「それが回復の杖を折れなかった理由なんだな」
「…………」
「ネリーはやっぱり、悪いやつじゃない」
「いいえ、私が悪いんです」
シチューを食べる手を止めて、ネリーは話し始めた。
「私は恋人の彼を救えなかった。恋人とは子供の頃からの付き合いでした。一緒に冒険者をして、お金を稼いで彼と結婚する予定でした。家を買った後に彼が病気になってしまって」
「そうか、治る病だったのか?」
「はい、けれど高価な薬草が必要でした。凄腕の冒険者でも難しいような、危険なダンジョンにある薬草」
「それはどうしようもなかったな」
「薬草は取ってきましたよ」
出来るのか……。悲劇教団の隊長だから。それに、冒険者もやっていたから強いんだな。
「でも帰りに他の冒険者に会って、その人も病気で動けなくて。薬草を渡してしまったんです」
「そうか。優しいな」
「彼を一人に出来ないので、帰りました。彼は笑って許してくれました。俺はまだ平気だと。でも次の日の朝には……」
涙を流すネリー。俺は彼女の辛さに共感する。
「そうか。辛かったろうな……」
「はい、まさか小鳥になって仕舞うなんて」
「なんて?」
「変身病と言います。原因も分からず、治す方法も変身する前に薬草を食べさせるしかないんです。今ではゲージの中で、私の餌やりを待つ小鳥。ううっ……」
「確かに、治せないから。今までの付き合いが出来ないもんな」
「後で知ったのは、ダンジョンで出会った冒険者は詐欺師だったこと。今ではあいつは……」
「許せないな!」
「はい、ですのでぶちのめして牢屋に送りました」
「ネリーって割と荒くれ者なのか?!」
「彼を治したいですが、回復の杖でも治せない。だから、悲劇に使おうとしました」
「でも出来なかった」
「私どうすれば良いのでしょうね……。悲劇教団をここまで私的に動かして、結局みんな振り回しただけで」
「悲しくて暴走してしまっただけだ。まだやり直せる」
「迷う私は結局悪なのです」
「迷って良いんだ。間違いを犯すなら俺が止めてやる。恋人もきっとそうするだろ」
ネリーは涙を拭いた。そして、テーブルにあるお菓子を食べる。
「あ、それは……」
「ありがとうございます。少し元気になれました」
「ごめん」
「なぜ謝るのですか?」
「頭に触ってみてくれ」
ネリーが触れるとそこには、横長の水牛の角があった。
「なんですこれ!」
「エンチャントお菓子だ。つい出してしまった」
「ちょっと彼みたいと思った私がバカでした!」
彼女の説得に失敗したが、元気になったなら良かった。ネリーの頭が重くなったのはごめんなさい。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?
サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに――
※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。
その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?
荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。
突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。
「あと、三ヶ月だったのに…」
*「小説家になろう」にも掲載しています。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話
ルジェ*
ファンタジー
婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが───
「は?ふざけんなよ。」
これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。
********
「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください!
*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした
鈴木竜一
ファンタジー
健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。
しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。
魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ!
【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】
※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる