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4章
地の底にて2
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周囲の安全を確認してから、俺は焚き火を起した。凛音からもらったリュックに調理用具が有ったから。それと、ネリーが落ち込んで居たから、料理を振る舞う為に。
焚き火を囲んで座る。火が俺とネリーをゆらゆらと照らす。俺は小さな鍋でに野菜を幾つか入れてシチューを作った。食材は遺跡に来る前に買ったもの。シチューのルウは当然俺の鞄にストックしてあった。
「シチューは嫌いか?」
「いいえ、好物でした」
ネリーは俺が渡したお茶を一口飲んだ。
「甘過ぎます。こんなのセレストと同じです!」
「ごめんよ。でも、良かった。怒る元気は有って」
ネリーは恥ずかしそうに視線を下げた。悲劇教団の隊長だとしても、やはり普通の女の子なのだ。リュセラには辛辣だったが。
ある程度シチューを煮込んだ後に、俺の持参した皿に盛り付けて簡易テーブルに乗せて差し出した。他にも持っている食品をテーブルに並べた。
「私は敵ですよ、弱っている時に倒せば良かったのに」
「敵はお礼にお金を渡さないだろ。リュセラとは敵対していても、今は食べな」
ネリーは回復の杖を抱きしめたまま、キャンプ用のスプーン(百均製)でシチューを食べた。
「ううっ……」
俺はまた、ネリーを傷つけたのかと思ったが。彼女は俺を手で制止した。
「ごめんなさい。彼を思い出してしまって、悲しくなったのです」
「それが回復の杖を折れなかった理由なんだな」
「…………」
「ネリーはやっぱり、悪いやつじゃない」
「いいえ、私が悪いんです」
シチューを食べる手を止めて、ネリーは話し始めた。
「私は恋人の彼を救えなかった。恋人とは子供の頃からの付き合いでした。一緒に冒険者をして、お金を稼いで彼と結婚する予定でした。家を買った後に彼が病気になってしまって」
「そうか、治る病だったのか?」
「はい、けれど高価な薬草が必要でした。凄腕の冒険者でも難しいような、危険なダンジョンにある薬草」
「それはどうしようもなかったな」
「薬草は取ってきましたよ」
出来るのか……。悲劇教団の隊長だから。それに、冒険者もやっていたから強いんだな。
「でも帰りに他の冒険者に会って、その人も病気で動けなくて。薬草を渡してしまったんです」
「そうか。優しいな」
「彼を一人に出来ないので、帰りました。彼は笑って許してくれました。俺はまだ平気だと。でも次の日の朝には……」
涙を流すネリー。俺は彼女の辛さに共感する。
「そうか。辛かったろうな……」
「はい、まさか小鳥になって仕舞うなんて」
「なんて?」
「変身病と言います。原因も分からず、治す方法も変身する前に薬草を食べさせるしかないんです。今ではゲージの中で、私の餌やりを待つ小鳥。ううっ……」
「確かに、治せないから。今までの付き合いが出来ないもんな」
「後で知ったのは、ダンジョンで出会った冒険者は詐欺師だったこと。今ではあいつは……」
「許せないな!」
「はい、ですのでぶちのめして牢屋に送りました」
「ネリーって割と荒くれ者なのか?!」
「彼を治したいですが、回復の杖でも治せない。だから、悲劇に使おうとしました」
「でも出来なかった」
「私どうすれば良いのでしょうね……。悲劇教団をここまで私的に動かして、結局みんな振り回しただけで」
「悲しくて暴走してしまっただけだ。まだやり直せる」
「迷う私は結局悪なのです」
「迷って良いんだ。間違いを犯すなら俺が止めてやる。恋人もきっとそうするだろ」
ネリーは涙を拭いた。そして、テーブルにあるお菓子を食べる。
「あ、それは……」
「ありがとうございます。少し元気になれました」
「ごめん」
「なぜ謝るのですか?」
「頭に触ってみてくれ」
ネリーが触れるとそこには、横長の水牛の角があった。
「なんですこれ!」
「エンチャントお菓子だ。つい出してしまった」
「ちょっと彼みたいと思った私がバカでした!」
彼女の説得に失敗したが、元気になったなら良かった。ネリーの頭が重くなったのはごめんなさい。
焚き火を囲んで座る。火が俺とネリーをゆらゆらと照らす。俺は小さな鍋でに野菜を幾つか入れてシチューを作った。食材は遺跡に来る前に買ったもの。シチューのルウは当然俺の鞄にストックしてあった。
「シチューは嫌いか?」
「いいえ、好物でした」
ネリーは俺が渡したお茶を一口飲んだ。
「甘過ぎます。こんなのセレストと同じです!」
「ごめんよ。でも、良かった。怒る元気は有って」
ネリーは恥ずかしそうに視線を下げた。悲劇教団の隊長だとしても、やはり普通の女の子なのだ。リュセラには辛辣だったが。
ある程度シチューを煮込んだ後に、俺の持参した皿に盛り付けて簡易テーブルに乗せて差し出した。他にも持っている食品をテーブルに並べた。
「私は敵ですよ、弱っている時に倒せば良かったのに」
「敵はお礼にお金を渡さないだろ。リュセラとは敵対していても、今は食べな」
ネリーは回復の杖を抱きしめたまま、キャンプ用のスプーン(百均製)でシチューを食べた。
「ううっ……」
俺はまた、ネリーを傷つけたのかと思ったが。彼女は俺を手で制止した。
「ごめんなさい。彼を思い出してしまって、悲しくなったのです」
「それが回復の杖を折れなかった理由なんだな」
「…………」
「ネリーはやっぱり、悪いやつじゃない」
「いいえ、私が悪いんです」
シチューを食べる手を止めて、ネリーは話し始めた。
「私は恋人の彼を救えなかった。恋人とは子供の頃からの付き合いでした。一緒に冒険者をして、お金を稼いで彼と結婚する予定でした。家を買った後に彼が病気になってしまって」
「そうか、治る病だったのか?」
「はい、けれど高価な薬草が必要でした。凄腕の冒険者でも難しいような、危険なダンジョンにある薬草」
「それはどうしようもなかったな」
「薬草は取ってきましたよ」
出来るのか……。悲劇教団の隊長だから。それに、冒険者もやっていたから強いんだな。
「でも帰りに他の冒険者に会って、その人も病気で動けなくて。薬草を渡してしまったんです」
「そうか。優しいな」
「彼を一人に出来ないので、帰りました。彼は笑って許してくれました。俺はまだ平気だと。でも次の日の朝には……」
涙を流すネリー。俺は彼女の辛さに共感する。
「そうか。辛かったろうな……」
「はい、まさか小鳥になって仕舞うなんて」
「なんて?」
「変身病と言います。原因も分からず、治す方法も変身する前に薬草を食べさせるしかないんです。今ではゲージの中で、私の餌やりを待つ小鳥。ううっ……」
「確かに、治せないから。今までの付き合いが出来ないもんな」
「後で知ったのは、ダンジョンで出会った冒険者は詐欺師だったこと。今ではあいつは……」
「許せないな!」
「はい、ですのでぶちのめして牢屋に送りました」
「ネリーって割と荒くれ者なのか?!」
「彼を治したいですが、回復の杖でも治せない。だから、悲劇に使おうとしました」
「でも出来なかった」
「私どうすれば良いのでしょうね……。悲劇教団をここまで私的に動かして、結局みんな振り回しただけで」
「悲しくて暴走してしまっただけだ。まだやり直せる」
「迷う私は結局悪なのです」
「迷って良いんだ。間違いを犯すなら俺が止めてやる。恋人もきっとそうするだろ」
ネリーは涙を拭いた。そして、テーブルにあるお菓子を食べる。
「あ、それは……」
「ありがとうございます。少し元気になれました」
「ごめん」
「なぜ謝るのですか?」
「頭に触ってみてくれ」
ネリーが触れるとそこには、横長の水牛の角があった。
「なんですこれ!」
「エンチャントお菓子だ。つい出してしまった」
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彼女の説得に失敗したが、元気になったなら良かった。ネリーの頭が重くなったのはごめんなさい。
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