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3章

ドラクの歓迎

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 城の中、玉座に座るドラク。玉座の周りには、古代の鎧や剣が並べられており、重厚な雰囲気が漂っていた。

 中庭からは輝く鉱石の美しい光景が広がっている。玉座の背後には、歴代の王たちの肖像画が掲げられている。

「本当に一瞬で直したな」

「ああ、覚えてる形なら直ぐに直せる。何度も直したからな」

「そんなに頻繁に壊すものか……?」

 ここはけっこう頑丈そうな城に見える。俺の見たところ城内は綺麗にしてあるけど。清潔を保ったのではなく。常に直したてなのか。

「では、本題に入ろう。いつ地図と鍵は盗まれた?」

「だいたい八時間は睡眠を取っていたから、昨日だな」

「目撃者はいるか?」

「庭の手入れをしていた騎士が、光る帯が風に乗って飛ばされているのを見たとよ」

「じゃあ、あいつしかいない」

「知っているの?」

「この町で噂になっていたスリ、縦ロールだ」

「俺も幻想の食卓で聞いたな、スリが出るって」

「スリが、こんな大事件を起こすのかな?」

「確かにな。だが、予告状が届いたんだ。僕のところにな」

「なぜリュセラの所に?」

「嫌がらせだ。そして僕にこんなことをするのは奴らしかいない」

「悲劇教団だな。協力者かも」

「探して取り返すしかないね」

「その必要はない、アジトは皆知っているからなこの町の外れに有る洋館だ」

「何で捕まえに行かないの?」

「入れないんだよ。あの洋館は昔の貴族が財産を守るために罠を仕掛けたんだ。たくさんな」

「そうと決まれば、行こうぜ。今回は俺も行く」

 ドラクは斧の柄に触れた。彼の戦闘能力はリュセラに並ぶ。ここまで来ると過大戦力なのだが。安心ではある。

 みんなが暴走しなければだ。トライ狂い、物好き、戦闘狂。ここまでの冒険でやりすぎるところは有った。俺も人の事言えないかもだが。

「助かる。僕らのパーティーにヒーラーが居なくてな」

「ヒール教えてー?」

「良いぜ。楽しんだから、礼だ。とは言え魔法使いなら使えるもんだぜ。ただの魔法だから」

 凛音は自分の杖を出して自分に向けて傾ける。

「ヒール」

 杖から柔らかな光が溢れ、凛音の体の傷が瞬く間に消えた。

「出来たー」

「筋がいいな。コツとか教えてやろうと思ったが」

「教えてー!」

「後でだ」

 ドラクは手を叩いた。片付けに勤しんでいた騎士が部屋を出て、戻ってきた時にはポットとカップを持ってきた。他にもテーブルや椅子を用意してくれる。

「ハーブティーだ。疲労に効く」

「この世界のハーブティー、俺もトライしたい!」

 凛音ではないが、興味が止まらない。味は香りは、効能は?

「悠人はそう言うの好きだね。私も飲むよ!」

 セットして貰ったテーブルに全員揃って、騎士にハーブティーを注いで貰う。俺もお茶うけにとクラッカーを皿に出して並べた。

 俺がハーブティーを頂こうとした時に、横から手が伸びてきてカップを取られてしまう。カップを取ったのはセレストだった。

「セレスト、さっきはよくも逃げたな」

「悠人も逃げなから戦ったでしょ?」

「そうだけども」

「私も機を伺っていたのよ。待避するね」

「結局逃げるんかい!」

「だって私、シスターですから。戦闘は避けるものです」

「拳銃持ってるくせに……」

「セレストも参加してくれるのー?」

「今回はごめんなさい。いつか共に戦いましょうね」

「いろんな魔法見たかったなー」

 俺のハーブティーを入れて貰い、全員でハーブティーを飲んだ。

「セレストもクラッカーいかがか?」

「猫だけ頂きますね」

 俺のとなりに座ったセレストはテーブルに手を伸ばしてクラッカーを食べた。

「あーそれか……」

「何か?」

「頭触ってみて」

「なにこれ!」

 セレストの頭には、横長の角が生えていた。

「水牛だな」

「おもしろーい。私も!」

 凛音も同じ皿からいただいて、角を生やした。

「ねこちゃんがよかった……」

「猫は胡椒味だ、黒い粒入ってる奴」

「はーい。効かずの加護」

 セレストの角は消えた。凛音が興味津々でセレストに質問をして、会話が弾む。セレストもみんなと打ち解けてきたな。リュセラとは距離があるけど。

「それにしてもこのハーブティー美味しいな。初めて飲んだが、めちゃくちゃパワフルだ。異世界の食材だから分からないけど、味はスパイシーで力強い香り。なんだか体が元気になって、力がみなぎってきたみたいだ」

「饒舌だな、気に入ったなら何よりだがよ。ドラゴンのブリーズ、フェニックスの羽って名前の植物を使ってる」

「それと、シナモンカルダモンジンジャークローブだな」

「俺より詳しいなお前」

「悠人だからな」

「みんなも、クラッカーどうだ?」

「美味しそうだが、遠慮しとく」

「なぜ?」

「お前みたいになるからな」

 自分の現状忘れてた。魔法まみれだった。新生物みたいだし。ドラゴン、水牛、鹿、猫、鬼。ごちゃ混ぜだ。

「あー。でも強くなるぞ?」

「そうか、じゃあ俺は頂くかね」

「正気かドラク?!」

「未知のもの食うならともかく、悠人で思い知った。強ええぜ。お前」
 
「だろー。味もいいぞ」

「容姿がヤバすぎなんだよ!」

「えー。リュセラ、お揃いは嫌?」

 凛音の頭も俺と同じ魔法まみれになっている。

「そんなことは無いぞ!」

 クラッカーを食べまくったリュセラも二の舞になった。

 これで準備は整った。いざ、縦ロールのアジトへ。通報されてもドラクが居るから、なんとかなる。後は、恥じらいを捨てる事が出来れば良いんだがな。
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