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3章
不名誉な傷
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魔法の講義を終えた俺は、ギルドの入り口に繋がる廊下を歩いている。
ここに来る前の俺の緊張や不安は落ち着いたが、代わりにこれからどうするべきか迷ってしまった。
俺は魔法を使えない。今はドラゴンに変身していてもいずれ解けてしまう。その方が気が楽だな魔法に振り回されてたし。
凛音の正体についても気がかりで、俺は途方にくれている。
俺は一先ず安心したため、廊下に施された飾りが目に入った。廊下の壁には、古代の魔法書が飾られている。どれも高価そうで触りがたい。今は特にドラゴンだから。
壁を目で追っていくと、絵画があった。剣を持つ男性と杖を持った少年、聖なる書物を持っている僧侶に大きなリュックを背負った男。勇者たちの絵だ。
リュックを背負った男の首には長いスカーフが巻かれている。俺の持つタクティカルスカーフと同じ色である。
良く確認しようとした俺の手を誰かが取った。驚いた俺が相手の顔を見ると凛音だった。
「悠人どうしたの?」
「いや、なんでもない」
俺は手を引っ込めようとしたが、凛音は掴んだまま離さない。それどころか顔を近づけて俺の手を擦っている。
「何している?」
「鱗生えてるよ」
「嘘だろ!」
俺は手を見る。肌の途中から指先にかけて、鋭く尖った鱗に覆われている。
「いつ魔法が切れるんだ?! 不便過ぎる」
「いや、この手ならわさび磨れるかもよ」
「確かに、それいいな!……。自分が食うにはな。衛生的にあれ過ぎる」
凛音が俺の手を撫でながら、こちらを見た。その綺麗な瞳に得体の知れない何かを感じる。気分を払拭する為にも、他の事を話さないと。
「そう言えば、なんであの時俺を連れ出したんだ?」
「公園での事? 私昔から、何となく分かる時があるんだよね。難しい問題の解決法とか、相手の気持ちとか、人が隠している秘密とか」
俺の手は自然とタクティカルスカーフに伸びた。口許の怪我を見られたくないから。
「私は悠人の事知ってるから」
「な、何を?」
「冒険家の中村悠大のお子さんでしょ?」
「そうだけど、なんで分かった?」
「顔が似てる」
「そっか。それはそうだよな。そろそろ手を離してくれ」
「ああ、ごめんね。オオトカゲみたいで面白くて」
「他の人にやるなよ? 失礼だぞ」
「大丈夫だよ。ドラゴンは触ったから」
「他の種族にもだ」
「けちー! ちゃんとお礼もするから!」
廊下を抜けて受付まで戻た。まだリュセラは魔法使いたちに囲まれていて、こちらを見つけると人をかき分けて合流した。
「まだ先は長いが、魔法について勉強を続けるといい。付け焼き刃だけでは王様には勝てんがな」
「その話だけど、誰か一人が勝てばいいのか?」
「ああ、それで通してくれる」
「リュセラなら勝つことが出来そうだな」
「いや、厳しいな」
「なぜ?」
ここまでの戦闘で、リュセラは魔法すらも使わずに勝ってきた。それに伝説の魔法使いと呼ばれているのに。
「僕だけ魔法禁止で戦わないとならない。広範囲魔法ばかりだから。そして、ここの王様は近接格闘の名手だ」
「確かに魔法使いに魔法を使うなって言われたら厳しい戦いになるな」
「それでも負ける気はないがな」
リュセラは凛音の方をチラッと確認した。凛音の為にも意地で戦う気だな。
「僕は気になる事があるから、聞き込みをしてから帰る。宿には鍋ちゃんがいるから魔法の修行をしているといい」
「分かった。それじゃ後で」
リュセラを置いて魔法のギルドを出る。外は相変わらずの明るさだ。
「そう言えば悠人、迷ったらしいね」
「うっ。そうだけど、何とか着いたから」
「私の心配してる場合?」
「悪かったって、凛音を見くびってた」
「私も迷ったけどねー!」
「お前もか! でも、鍋と一緒だったから良かったな」
「今度は迷わない?」
「一度行ったからもう平気だろ」
俺たちは大通りを通って、町の中央へ行き宿に着いた。俺が部屋の扉を開けると、中には大勢の女性がいた。それぞれメイド服を着ている。
「すみません。部屋、間違えました!」
彼女らのあまりの寛ぎ方に慌ててドアを閉めた。凛音と顔を見合わせたが、彼女も驚いている。
「部屋、ここのはずだよな?」
「うん。間違ってない」
「じゃあ、一体彼女らは?」
部屋のドアが開き出てきたのは鍋だ。少女の姿にメイド服を着ている。
「お帰りなさい」
「リュセラの仲間だったのか」
「そう。お世話を手伝うから、二人は修行に専念してね」
「リュセラって本当に金持ちなんだな」
「そうよ。金遣いが荒いだけで……」
「ツボとか欲しがってたしな」
俺と凛音は部屋に入った。すぐに近づいてきたメイド。彼女は落ち着いた雰囲気の女性だ。急に手を伸ばしてタクティカルスカーフに触れたので急いで俺は身を引いた。
「何をする?」
「不潔、没収」
「大丈夫だよ。昨日洗ったから」
「でも、冒険してきましたよね?」
メイドが腕を振り上げた。受け止めた俺はその力強さに驚く。彼女はリュセラの仲間だ相応に強い。負けると思ったが、彼女は動かない。
「勝てる!」
「力が拮抗してる?」
「すごい、ドラゴンパワーだ!」
怖い顔をしたメイドは俺から距離を取った。
「ならば本気で!」
「止しなさい、洗濯板」
止めに入ったのは鍋だ。
「悠人も、洗濯した方かいいよ。ずっと着けていたでしょ?」
「でも……」
俺は傷を見られたくなかった。訳を聞かれたくないから。
「それでいいのか? 悠人」
少年の声がした。それは俺の首から聞こえる。
「仲間に隠し事しているのは辛いぞ、何より悠大が嫌うことだ」
「あんたはスカーフ?」
「そうだ、お前は父の名誉を守りたいのだろう?」
「そうだ、だってこの傷は……」
「誰のせいでもなかった。俺はそう言ってやれる。ずっと見てきたからな」
スカーフが俺の首から滑り落ちて、少年の姿になった。俺は慌てて口許を隠す。凛音たちに見られてしまった。
「それは悠大に連れられた冒険で遭難した時の傷、だが、救出したから悠人はここにいる」
「そっか。だから隠してたんだ。お父さんは有名人だから悠人を連れ出した事を責められる」
「隠しててごめん」
「仕方ないよ。他の人に知れ渡ったら大変だものね。私も秘密にするから」
「ありがとう」
「食べる時とかに丸見えだったけどね」
「まじか……。今までの苦労は一体……」
「みんな待ってくれたんだよ、悠人から言い出してくれるのを」
バレバレだったことはショックだったが、凛音は受け入れてくれた。
俺たちは宿に入り一息つく。
今日はドラゴンになったりと苦労したが、気が楽になった。異世界の人に見られても、現実世界では関係ないのに気がつくのはその日の夜だったが。
ここに来る前の俺の緊張や不安は落ち着いたが、代わりにこれからどうするべきか迷ってしまった。
俺は魔法を使えない。今はドラゴンに変身していてもいずれ解けてしまう。その方が気が楽だな魔法に振り回されてたし。
凛音の正体についても気がかりで、俺は途方にくれている。
俺は一先ず安心したため、廊下に施された飾りが目に入った。廊下の壁には、古代の魔法書が飾られている。どれも高価そうで触りがたい。今は特にドラゴンだから。
壁を目で追っていくと、絵画があった。剣を持つ男性と杖を持った少年、聖なる書物を持っている僧侶に大きなリュックを背負った男。勇者たちの絵だ。
リュックを背負った男の首には長いスカーフが巻かれている。俺の持つタクティカルスカーフと同じ色である。
良く確認しようとした俺の手を誰かが取った。驚いた俺が相手の顔を見ると凛音だった。
「悠人どうしたの?」
「いや、なんでもない」
俺は手を引っ込めようとしたが、凛音は掴んだまま離さない。それどころか顔を近づけて俺の手を擦っている。
「何している?」
「鱗生えてるよ」
「嘘だろ!」
俺は手を見る。肌の途中から指先にかけて、鋭く尖った鱗に覆われている。
「いつ魔法が切れるんだ?! 不便過ぎる」
「いや、この手ならわさび磨れるかもよ」
「確かに、それいいな!……。自分が食うにはな。衛生的にあれ過ぎる」
凛音が俺の手を撫でながら、こちらを見た。その綺麗な瞳に得体の知れない何かを感じる。気分を払拭する為にも、他の事を話さないと。
「そう言えば、なんであの時俺を連れ出したんだ?」
「公園での事? 私昔から、何となく分かる時があるんだよね。難しい問題の解決法とか、相手の気持ちとか、人が隠している秘密とか」
俺の手は自然とタクティカルスカーフに伸びた。口許の怪我を見られたくないから。
「私は悠人の事知ってるから」
「な、何を?」
「冒険家の中村悠大のお子さんでしょ?」
「そうだけど、なんで分かった?」
「顔が似てる」
「そっか。それはそうだよな。そろそろ手を離してくれ」
「ああ、ごめんね。オオトカゲみたいで面白くて」
「他の人にやるなよ? 失礼だぞ」
「大丈夫だよ。ドラゴンは触ったから」
「他の種族にもだ」
「けちー! ちゃんとお礼もするから!」
廊下を抜けて受付まで戻た。まだリュセラは魔法使いたちに囲まれていて、こちらを見つけると人をかき分けて合流した。
「まだ先は長いが、魔法について勉強を続けるといい。付け焼き刃だけでは王様には勝てんがな」
「その話だけど、誰か一人が勝てばいいのか?」
「ああ、それで通してくれる」
「リュセラなら勝つことが出来そうだな」
「いや、厳しいな」
「なぜ?」
ここまでの戦闘で、リュセラは魔法すらも使わずに勝ってきた。それに伝説の魔法使いと呼ばれているのに。
「僕だけ魔法禁止で戦わないとならない。広範囲魔法ばかりだから。そして、ここの王様は近接格闘の名手だ」
「確かに魔法使いに魔法を使うなって言われたら厳しい戦いになるな」
「それでも負ける気はないがな」
リュセラは凛音の方をチラッと確認した。凛音の為にも意地で戦う気だな。
「僕は気になる事があるから、聞き込みをしてから帰る。宿には鍋ちゃんがいるから魔法の修行をしているといい」
「分かった。それじゃ後で」
リュセラを置いて魔法のギルドを出る。外は相変わらずの明るさだ。
「そう言えば悠人、迷ったらしいね」
「うっ。そうだけど、何とか着いたから」
「私の心配してる場合?」
「悪かったって、凛音を見くびってた」
「私も迷ったけどねー!」
「お前もか! でも、鍋と一緒だったから良かったな」
「今度は迷わない?」
「一度行ったからもう平気だろ」
俺たちは大通りを通って、町の中央へ行き宿に着いた。俺が部屋の扉を開けると、中には大勢の女性がいた。それぞれメイド服を着ている。
「すみません。部屋、間違えました!」
彼女らのあまりの寛ぎ方に慌ててドアを閉めた。凛音と顔を見合わせたが、彼女も驚いている。
「部屋、ここのはずだよな?」
「うん。間違ってない」
「じゃあ、一体彼女らは?」
部屋のドアが開き出てきたのは鍋だ。少女の姿にメイド服を着ている。
「お帰りなさい」
「リュセラの仲間だったのか」
「そう。お世話を手伝うから、二人は修行に専念してね」
「リュセラって本当に金持ちなんだな」
「そうよ。金遣いが荒いだけで……」
「ツボとか欲しがってたしな」
俺と凛音は部屋に入った。すぐに近づいてきたメイド。彼女は落ち着いた雰囲気の女性だ。急に手を伸ばしてタクティカルスカーフに触れたので急いで俺は身を引いた。
「何をする?」
「不潔、没収」
「大丈夫だよ。昨日洗ったから」
「でも、冒険してきましたよね?」
メイドが腕を振り上げた。受け止めた俺はその力強さに驚く。彼女はリュセラの仲間だ相応に強い。負けると思ったが、彼女は動かない。
「勝てる!」
「力が拮抗してる?」
「すごい、ドラゴンパワーだ!」
怖い顔をしたメイドは俺から距離を取った。
「ならば本気で!」
「止しなさい、洗濯板」
止めに入ったのは鍋だ。
「悠人も、洗濯した方かいいよ。ずっと着けていたでしょ?」
「でも……」
俺は傷を見られたくなかった。訳を聞かれたくないから。
「それでいいのか? 悠人」
少年の声がした。それは俺の首から聞こえる。
「仲間に隠し事しているのは辛いぞ、何より悠大が嫌うことだ」
「あんたはスカーフ?」
「そうだ、お前は父の名誉を守りたいのだろう?」
「そうだ、だってこの傷は……」
「誰のせいでもなかった。俺はそう言ってやれる。ずっと見てきたからな」
スカーフが俺の首から滑り落ちて、少年の姿になった。俺は慌てて口許を隠す。凛音たちに見られてしまった。
「それは悠大に連れられた冒険で遭難した時の傷、だが、救出したから悠人はここにいる」
「そっか。だから隠してたんだ。お父さんは有名人だから悠人を連れ出した事を責められる」
「隠しててごめん」
「仕方ないよ。他の人に知れ渡ったら大変だものね。私も秘密にするから」
「ありがとう」
「食べる時とかに丸見えだったけどね」
「まじか……。今までの苦労は一体……」
「みんな待ってくれたんだよ、悠人から言い出してくれるのを」
バレバレだったことはショックだったが、凛音は受け入れてくれた。
俺たちは宿に入り一息つく。
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