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3章
魔法のギルド
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朝食を終えた俺たちは町に出た。全員が寝たから多少時間が過ぎていると思ったが、町は明るいままだった。
「ずっと昼間みたいだね!」
「ダンジョンの中で太陽は届かないからか」
「その通りだ。ダンジョンの大結晶の明かりは消せないから、昨日のように夜の帳を下ろして寝るのが習慣なんだ」
「私たちにとっては欠かせない魔法の一つでもあるのです」
「帳の悪用も出来るようだがな」
リュセラはセレストを睨み付ける。セレストの方は気に掛ける様子もない。
「今日は魔法ギルドへ行って、最低限の知識と基礎魔法を覚えるといい」
「勉強みたいなものか。苦手だが、やるしかない」
「楽しみ!」
俺たちは大通りを歩く。周囲には飲食店が立ち並び、どこもかしこも賑やかだ。道沿いの店から漏れる鉱石の光は鮮やかに道を照らしている。
足を止めた俺は鞄に手を伸ばす。中から水筒を取り出して、コーヒーをカップに注いだ。シナモンも欠かさずに入れて一口飲む。
「悠人、不安だね?」
「なぜ分かったんだ」
「不安になるとシナモン使うから」
「ちゃんとやれるか心配でな」
「大丈夫だよ、手遅れだし。自分の頭触ってみて」
確かめるために俺は頭に触れた。何かに触れる。固い尖ったものが。
「なんだこれ!」
「そのシナモン、マジカルシナモンでしょ」
「そうだけど。コーヒーでも魔法発動するのか?」
「ああ、マジカルスパイスは扱いにくい。摂取量が多いと魔法が出てしまう」
「もはや危険物だな……」
「悠人がシナモン入れ過ぎてるだけだと思うけど……」
朝の支度の時に百均のスパイスボトルに移しておいたのが仇となった。今日はこっちしか持ってない。
「着いたぞ」
俺は見上げる。魔法のギルドは大きな建物で、中から青く輝く鉱石から発せられる柔らかな光が漏れている。
「じゃ、私はここで」
セレストは俺たちの集団から離れた位置にいた。
「セレストは来ないのか」
「通う必要があると思う?」
彼女は確かに強い。それに、俺たちのように国の王さまに勝つ必要もない。
「だろうな。恐らく独学か、もっと強い奴に習ったのだろうな」
「さて、どうでしょうか?」
セレストと別れた。彼女は宿で合流するだろう。もう道を知っているし。迷ったのは俺だけど。
魔法のギルドに入ると、大きな広間があった。壁には奇妙な記号や魔法陣が刻まれ、その周囲には魔法使いたちが集まっていた。彼らはローブやマントをまとい、手には古びた魔法書を抱えていた。
奥には図書館がある。その前にカウンターがあり、魔法使いが受け付けをしている。
リュセラに先導されて、俺と凛音はカウンターに移動した。
「こんにちは、ご用件は……。あなたはリュセラ様!」
カウンターの魔法使いがリュセラを見て声を上げた。魔法ギルドの中にいる魔法使いたちが一斉にこちらを見る。
「この二人の魔法の講習を頼みたい」
「はい。手続きしますね。お会いできて光栄です」
カウンターの魔法使いはペンを持ったが、それを色紙と共にリュセラに差し出した。
「サイン下さい」
「構わないが……」
ペンを受け取ったリュセラは手慣れた手付きでサインを書いた。
返却されたペンは、すぐさま他の魔法使いの手に渡りリュセラのサイン会が始まった。
「あの、俺たちの手続きは?」
「大丈夫ですよ」
カウンターの魔法使いの手には何も持たれていない。だが、カウンターの上で勝手に動くペンが居る。
「擬人化したペン?」
「はい。当魔法ギルドの受け付け係が書いてくれています」
「じゃあ、あなたは何者なの?」
「当魔法ギルドの長です」
「受け付けもしてるのか……」
「ええと、あなたの種族は?」
ギルドの長からの質問が誰に向けられたのか分からなかった。だが、彼は俺を見ている。今、俺は角生えてたな。
「人間です。よね?」
「魔法がかかって角が生えちゃったの」
「なら人間ですな。手続きは終わりましたので、この紙を持って講堂へ進み下さい。そこで教本を渡して、座学をしましょう。私が」
「あなたがやるんかい! 人手不足なのか?!」
「普段は外部の高名な魔法使いを雇いますね」
「人手不足なんだな?」
「人手は有りませんが、私の道具たちが働いています困ることは有りませんよ。講師が見つかればですが」
ギルドの長はリュセラに目を向ける。視線を受けたリュセラは目をそらした。
「僕でなくても、優秀な魔法使いは居る」
「あなたより優秀な魔法使いは居ない。でしょう?」
「リュセラが教えてくれるの?!」
凛音は瞳を輝かせてリュセラを見た。
「個人でなら教えてもいいが、ここで講師はやらない」
「それは残念。ではお二人は講堂へギルドの奥にお進みください」
それから講習の料金を支払った。それほど値段は高くなかった。払えなかったらどうしようかとも思ったので一安心。料金の相場は知らないけれど。
俺たちは移動する前にリュセラに近づこうとしたが、人が多くて近づけない。彼は手を上げて行ってこいと示したので先を急ぐ。
「異世界の施設だからどうなるかと思ったが、問題は無さそうだな」
「入る前に問題が起きたけどね」
「それはそうだが、取り敢えず授業は受けることが出来るな」
奥に有る扉の前で止まった。上に講堂と書いてある。ドアノブを軽く捻り中に入る。積もりだった。
「悠人。入らないの?」
「入れないかも……」
軽く捻ったドアノブは軽くネジ曲がった鉄屑になる。
「パワフル! 良かったね習う前から強いよ」
「俺、何になったんだ?!」
「分からないけど、強くなりすぎたね」
「どうしよう……」
俺はネジ曲がったドアノブを手に立ち往生した。マジカルシナモン、次から摂取量を変えないと危険だ。日に三杯飲みたいのに。
「ずっと昼間みたいだね!」
「ダンジョンの中で太陽は届かないからか」
「その通りだ。ダンジョンの大結晶の明かりは消せないから、昨日のように夜の帳を下ろして寝るのが習慣なんだ」
「私たちにとっては欠かせない魔法の一つでもあるのです」
「帳の悪用も出来るようだがな」
リュセラはセレストを睨み付ける。セレストの方は気に掛ける様子もない。
「今日は魔法ギルドへ行って、最低限の知識と基礎魔法を覚えるといい」
「勉強みたいなものか。苦手だが、やるしかない」
「楽しみ!」
俺たちは大通りを歩く。周囲には飲食店が立ち並び、どこもかしこも賑やかだ。道沿いの店から漏れる鉱石の光は鮮やかに道を照らしている。
足を止めた俺は鞄に手を伸ばす。中から水筒を取り出して、コーヒーをカップに注いだ。シナモンも欠かさずに入れて一口飲む。
「悠人、不安だね?」
「なぜ分かったんだ」
「不安になるとシナモン使うから」
「ちゃんとやれるか心配でな」
「大丈夫だよ、手遅れだし。自分の頭触ってみて」
確かめるために俺は頭に触れた。何かに触れる。固い尖ったものが。
「なんだこれ!」
「そのシナモン、マジカルシナモンでしょ」
「そうだけど。コーヒーでも魔法発動するのか?」
「ああ、マジカルスパイスは扱いにくい。摂取量が多いと魔法が出てしまう」
「もはや危険物だな……」
「悠人がシナモン入れ過ぎてるだけだと思うけど……」
朝の支度の時に百均のスパイスボトルに移しておいたのが仇となった。今日はこっちしか持ってない。
「着いたぞ」
俺は見上げる。魔法のギルドは大きな建物で、中から青く輝く鉱石から発せられる柔らかな光が漏れている。
「じゃ、私はここで」
セレストは俺たちの集団から離れた位置にいた。
「セレストは来ないのか」
「通う必要があると思う?」
彼女は確かに強い。それに、俺たちのように国の王さまに勝つ必要もない。
「だろうな。恐らく独学か、もっと強い奴に習ったのだろうな」
「さて、どうでしょうか?」
セレストと別れた。彼女は宿で合流するだろう。もう道を知っているし。迷ったのは俺だけど。
魔法のギルドに入ると、大きな広間があった。壁には奇妙な記号や魔法陣が刻まれ、その周囲には魔法使いたちが集まっていた。彼らはローブやマントをまとい、手には古びた魔法書を抱えていた。
奥には図書館がある。その前にカウンターがあり、魔法使いが受け付けをしている。
リュセラに先導されて、俺と凛音はカウンターに移動した。
「こんにちは、ご用件は……。あなたはリュセラ様!」
カウンターの魔法使いがリュセラを見て声を上げた。魔法ギルドの中にいる魔法使いたちが一斉にこちらを見る。
「この二人の魔法の講習を頼みたい」
「はい。手続きしますね。お会いできて光栄です」
カウンターの魔法使いはペンを持ったが、それを色紙と共にリュセラに差し出した。
「サイン下さい」
「構わないが……」
ペンを受け取ったリュセラは手慣れた手付きでサインを書いた。
返却されたペンは、すぐさま他の魔法使いの手に渡りリュセラのサイン会が始まった。
「あの、俺たちの手続きは?」
「大丈夫ですよ」
カウンターの魔法使いの手には何も持たれていない。だが、カウンターの上で勝手に動くペンが居る。
「擬人化したペン?」
「はい。当魔法ギルドの受け付け係が書いてくれています」
「じゃあ、あなたは何者なの?」
「当魔法ギルドの長です」
「受け付けもしてるのか……」
「ええと、あなたの種族は?」
ギルドの長からの質問が誰に向けられたのか分からなかった。だが、彼は俺を見ている。今、俺は角生えてたな。
「人間です。よね?」
「魔法がかかって角が生えちゃったの」
「なら人間ですな。手続きは終わりましたので、この紙を持って講堂へ進み下さい。そこで教本を渡して、座学をしましょう。私が」
「あなたがやるんかい! 人手不足なのか?!」
「普段は外部の高名な魔法使いを雇いますね」
「人手不足なんだな?」
「人手は有りませんが、私の道具たちが働いています困ることは有りませんよ。講師が見つかればですが」
ギルドの長はリュセラに目を向ける。視線を受けたリュセラは目をそらした。
「僕でなくても、優秀な魔法使いは居る」
「あなたより優秀な魔法使いは居ない。でしょう?」
「リュセラが教えてくれるの?!」
凛音は瞳を輝かせてリュセラを見た。
「個人でなら教えてもいいが、ここで講師はやらない」
「それは残念。ではお二人は講堂へギルドの奥にお進みください」
それから講習の料金を支払った。それほど値段は高くなかった。払えなかったらどうしようかとも思ったので一安心。料金の相場は知らないけれど。
俺たちは移動する前にリュセラに近づこうとしたが、人が多くて近づけない。彼は手を上げて行ってこいと示したので先を急ぐ。
「異世界の施設だからどうなるかと思ったが、問題は無さそうだな」
「入る前に問題が起きたけどね」
「それはそうだが、取り敢えず授業は受けることが出来るな」
奥に有る扉の前で止まった。上に講堂と書いてある。ドアノブを軽く捻り中に入る。積もりだった。
「悠人。入らないの?」
「入れないかも……」
軽く捻ったドアノブは軽くネジ曲がった鉄屑になる。
「パワフル! 良かったね習う前から強いよ」
「俺、何になったんだ?!」
「分からないけど、強くなりすぎたね」
「どうしよう……」
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