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2章

魔法の料理4

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 俺たちはポニーに変身したスマホの背にまたがり、大通りを走っていた。犬の姿の俺は足が短いので乗っているだけに等しいが。

 風になびく耳がくすぐったいけど、急がないと鷹に変身したカメラの魔法が解けて落ちてしまう。

 馬上から見た流れる景色はカラフルな輝きに満ちている。カメラがあれば写真を撮りたいくらいだ。カメラを追いかけているし、今はそれどころではないのだが。

「悠人、ごめんなさい。鷹に追い付けない」

「良いんだスマホ、この距離ならゴールドボーイを……」

「それで良いのかな? これだけ人が入れば王に仕える騎士がいるよ?」

 ゴールドボーイが見つかるとまずい。でも、浮遊する能力が優れているのはゴールドボーイだけだ。猫となったセレストは楽しそうにこちらを見ている。

「それでも、やるしかない。カメラは俺の大切な仲間なんだ!」

 楽しそうだったセレストは表情を消した。

「効かずの加護」

 猫の姿のセレストが、元通りの少女に戻った。

「もう、魔法が解けて……!」

「私の魔法で打ち消しただけよ」

「でも、その魔法で打ち消せば助けられるかも」

「見て悠人!」

 スマホの視線の先で、鷹に変身したカメラは少女の姿になってしまう。

 俺がブカブカになった服からゴールドボーイを出そうとした時に、俺の手を止めたのはセレストだ。

「いたずら、やりすぎた。ごめんなさい」

 セレストはそのままポニーから降りて地面を蹴った。

「重力は有らずの加護」

 セレストの体が浮遊する。そのままカメラに近づき、カメラを受け止めて降りてきた。

「これで安全でしょ」

「ありがとうセレスト」

 セレストに下ろして貰ったカメラは大人しくしている。呆けている彼女に俺は声をかけた。

「大丈夫かカメラ、飛ぶのは怖かったか?」

「いえ、あまりにも楽しくてつい。魔法が解けるのは予想外でした。すみません」

「俺も注意書を読まないで食べさせた。次は気を付けよう」

「カメラ! 悠人は本当に心配していたんだからね!」

 強い口調で怒ったスマホは、カメラに詰め寄った。

「ごめんなさい」

「私も飛びたかった!」

 お前もか!

「心臓に悪いな……」

「で、撮れたんでしょ。空からの写真」

「はい。地図にするのにちょうど良い写真が」

「その為だったのか、ありがとう」

「風景も撮りました、共有したくて……」

 俺にかかった魔法が解けてから四人で大通りを抜けて、開けた場所まで移動した。そこには大きい川が流れている。

 ある程度舗装されて整備された川の側にあるベンチに腰かけた。この町は結構整えてあり過ごしやすい。魔法っぽい設備は使い方が分からないのだが。

 撮ってくれた写真をカメラからスマホに送った。スマホは少女の姿で、お腹の画面に写真を写した。俺たちは写真に目を通す。

「やっぱり、中央に大きな建物が有るな」

「そう。この世界では大体の国が古い作りをしている。守りを固める町が多いのは魔王との戦いの残り香でしょうね」

「見てください。悠人さまの好きそうな食べ物の屋台が並んだ通りがありますよ!」

「確かに好きだが、この世界の食べ物は魔法が掛かっている場合があるしな……」

 先ほどのエンチャントクレープのような大事は避けたい。目立つとゴールドボーイが捕まってしまう可能性が高まるからだ。

「私が居る時だけ食べれば良いでしょ。大抵の魔法なら何とかできます」

「そう言ってくれるなら食べようかな。魔法の効果が分かるまで、一人歩きしないようにしよう」

「はい!」

 セレストが写真を指差した。

「脇道に逸れてみたら、食材の店が多くなるよ」

「ぜひ行きたいな」

「悠人が好きそうだと思った、私もハチミツ貰えるし」

「沢山は分けてやれないからな」

「ケチ-!」

「でも、脇道に入ると道が分からなくなくなりそうだな」

「大丈夫、大通りまでなら戻れるから。後は悠人が宿まで案内してね?」

「あ!」

「不安な反応」

「ヤバい、宿の場所分からない!」

「凛音の保護者っぽく振る舞ってたけど、悠人って思ったより子供?」

「ごめん。旅行らしい旅行したことがないから、気が付かなかった」

 さっき凛音に会った時に聞くべきだった。

「まっ、いいんじゃない。泊まるお金は有るんだし」

「節約のために、必ず合流する」

「大真面目ねー」

「帰り道を探しながら、少し歩きたいけどな」

「どうせ迷ってるし、行こ」

 俺とセレストは、幻想的な街並みを歩いていた。店舗から漏れる光が街を彩っている。路地には出店が立ち並び、歩く人は立ち寄って買い物をする。

 俺は窯から出された魔法のパンを見つめる。その隣では、輝く果物を使った不思議なスムージーが提供されている。

「悠人、あれ欲しい!」

 セレストは喜びながら俺の腕を引っ張ると、スムージーの店に立ち止まった。

「たかる気だな」

「悠人と居ると、自由な気分になるの」

「財布は開かないぞ」

「私に見せびらかして食べるの?」

「ずるい言い回しだな。お金は持ってないのか?」

「大勢連れて歩いたから手持ちが……。無くはないけど」

「有るんかい!」

 彼女もまた、冒険をしてこの町にやって来た。しかも人助けまでしたのだ。

「今回は奢ってやるか、手間をかけたし」

「やったー!」

 町を歩きながら、通りの店に目を向ける。普段の買い出しと違うのは、ここが異世界でダンジョンの中。そして、隣に女性が居ることだ。

 セレストの気さくな感じや美しい容姿が俺の目を引く。草原の件、カメラの件など人助けをする彼女の心を美しいと思えた。お金の面では良いように使われている気もするが。
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