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2章

魔法の料理2

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 町を散策する途中で見つけた店のカウンター席に座った俺、スマホ、カメラの三人は店内の内装を見回してみた。
 黄色の光る鉱石が店内に柔らかな空気をもたらしている。カウンター席から観察すると、周囲のざわめきが陽気な雰囲気を際立たせた。

 店内は賑やかで、様々な人たちが会話を楽しんでいる。メニューを開くと、その中には見慣れない料理や飲み物の名前が並んでいる。

「悠人さま、私たちは料理について知りませんので注文はおまかせします」

「分かった。同じのにしよう」

「食べ方も教えてね」

「いいぞ、手の動きを真似してくれ」

 俺はメニュー開いて置いた。スマホとカメラにも見えるように。メニューには料理名と簡単な解説、イラストが描かれている。

「写真ではないのですね」

「手書きのメニューか、趣が有っていいな。これだけ描くのは大変だったろうけど」

「写真は嫌いですか?」

「そんなことはないよ。企業努力しているちゃんとした店だなって」

 異世界のお店なので、カメラがないのは当たり前なのだ。でも、俺たちの世界のものがある。さっきの物干しなど、もしかして俺たち以外にも人が来ている?

 俺は気を取り直してメニューに目を通す。

「料理の写真も撮りたいな」

「この、輝きトマトブルスケッタとかいかがですか? バジルなど、悠人さま好みですよ」

「おお、ダンジョンの奥深くで収穫したトマト。見てみたい」

「私はこの、新鮮魚介のパエリア! 透き通った魚を用いて、スパイスも豊富に使われてる」

「見たことない料理だな、それに未知のスパイスかもしれない」

「スパイスで釣るのは卑怯です!」

「あんただって派手な食材で気を引いたでしょ!」

「落ち着いてくれ。そうだ、何でこの料理を選んだ?」

「「映える」」

 スマホとカメラ、気が合うのか合わないのか。

「大体、ブルスケッタってのはね。ニンニクとか入ってるから、同じ部屋の三人がかわいそうでしょう!」

「言われると、その通りだった。気がつかなかった。友達とお泊まりしたこと無いからな」

 俺は貧乏ゆえ家と学校、バイト先を行き来する生活だったから。ややへこむ。スパイス屋の店員さんとは仲がいいけど。

「パ、パエリアだって、ちょっと値が張りそうです。悠人さまは銀貨一枚しか持ってないんですよ?!」

「大丈夫だよ、動物たちにもらった宝物が……」

 背中をさすった俺は気がつく。宝物の入ったリュックを宿に置いてきた事を。俺の鞄は持っているが、財布には俺たちの世界のお金が入っている。この世界では使えないお金だけ。

「ヤバイ、取り敢えず店を出よう」

 金がないなら食事は出来ない。ここで疑われる訳には行かない。

 カウンター席の前にある調理場から氷の入ったコップが差し出された。調理場に立っていたのは女性。微笑みながら水を注いでくれる。


「ご注文は?」

「すみません、お金を忘れてきたので……」

「金もなく、店に入ったと?」

 まずい。疑われている。

「こうしたお店、不慣れでして……」

「若い方のようですし、言い分は分かります。ですが、いちおう騎士を呼びましょうか」

「な、なぜ?」

「スリに遭った可能性もあります。この辺りは多いんですよ大通りに面してますから、混雑に紛れて、ね?」

 どうしよう。身体検査されたら、ゴールドボーイが見つかってしまう。そしたら、この町を追放されて……。金もなく、目的も果たせずにダンジョンを引き返す事になる。

 背後から走り寄ってくる音がする。擦れる金属音がカチャカチャと。騎士かと思い、振り返ると凛音が布の袋を持って立っていた。

「大丈夫?」

「なんでここに?」

「旅行に慣れてないみたいだったから、拾った道具を換金してから後を追ったの。悠人の事だから料理屋に居そうって思って」

 凛音は手に持った袋をカウンターに置いた。カチャカチャと鳴っていたのはこの袋だった、覗いてみると金貨や銀貨が一杯入っている。

「この世界では金貨が一万円で、銀貨は千円位の価値だよ」

「ありがとう」

「お礼は後で。後で悠人も換金するでしょ?」
 
「ああ、換金したら金貨を分配しよう」

 凛音は去っていった。帰り際にメニューをジーッと見ていたので、やや長い時間居たのだが。

 気を取り直して、凛音に借りたお金を見る。袋一杯なので、食事代金は足りるだろう。銀貨一枚で買えるものをと考えていたが。三品くらいいいよな。

「ブルスケッタは止めておこう。新鮮魚介のパエリアを頼む」

 俺の発言にカメラはシュンと暗い表情となった。

「でも、輝きトマトは食べたいから輝きトマトのテリーヌにしよう」

 カメラはこちらを見て笑顔になる。だが、スマホが続けて。

「私も知的好奇心で食べてみたいけど、テリーヌってニンニクを使う料理じゃない?」

「どうだろう……」

 悪手かと思ったが、側にいる店員が寄ってくる。

「ニンニクを使わないで、スパイスで味を調整しています。ニンニクが苦手な方でも食べられるように」

「分かりました。では新鮮魚介のパエリアと、輝きトマトのテリーヌ……」

「魔女のエンチャントクレープ4つ!」

 誰かが俺の背後から発言し、カウンターのテーブルから身を乗り出した。

「セレスト。なぜここに?」

 側に来た人はセレストだった。

「悠人は匂いで探せるって言ったでしょ」

「冗談だと思ってた。なんか変態じみている気もするけど」

「あなたの方が変態でしょ! 異常にスパイス持ち歩いてるし。不安があるとすぐシナモン吸いしてる」

「シナモン、嫌いなのか?」

「好きよ。デザートの香り付けだから」

「おお、分かり合えそうだ。だが、デザートまでは頼まな……」

「ここのエンチャントクレープはシナモン使ってるよ」

「頼まない分けないな、よろしくお願いします」

「悠人さまの節約心が負けた?!」

「ごっそりお金手に入ったから、良いじゃない」

 頼んでしまった。エンチャントクレープ。聞いたことの無い料理だったし、シナモンも入っている。
 俺はこの世界のスパイスに興味がある。この誘惑にだけは勝てない。それはそうと自然な流れでセレストにも奢る感じになってないか?
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