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2章

リュセラ様貯金

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 町の噴水と店から漏れる光が合わさり水滴の一つ一つが虹色に輝くなかで、暗めの色のローブに身を包んだ悲劇教団の隊員たちが俺を取り囲む。

「待っていましたよ、リュセラ一行」

 集団の中心に居るのは悲劇教団の助けたかっ隊長ネリー。彼女の手には杖が握られている。

 リュセラがお玉を構える。凛音も有刺鉄線の鞭と拾った杖を手に対立した。

 俺はゴールドボーイを出せない。町で彼を使えば、彼が捕まってしまう。所有している俺は仕方ないにしても、凛音達まで捕まるのはダメだ。
 俺も首に巻いていたタクティカルスカーフをいつでも使えるように持った。

「弱る瞬間を待っていたのか!」

 ネリーは俺たちに何かを向けた。それは紙で出来た筒。だが、放たれたのは細かな紙切れに、キラキラ輝く火花。

「花火?」

「アライさんを連れてきていただきありがとうございました」

「攻撃、じゃないのか?」

「歓迎です。仲間を助けてくれた人に攻撃はしません」

「魔力は奪うくせに……」

 リュセラは呆れている。彼は既にお玉を鞄にしまっていた。

「この世界の花火! どんな仕組みー?」

 興味津々な凛音はネリーに近づく。いつもなら無警戒な凛音を止めるが、拍子抜けていた俺は素通ししてしまった。

「これはですね、魔力を使って念じれば火がつく花火なんです」

 敵であるネリーも使い方を凛音に教える。さらに、一本の魔法の花火を分けてやったりしている。

「ご入り用の時は劇場まで来てくださいね。映画を見れば銀貨十枚差し上げます。日に三度の上映ですが、深夜にも上映しますので」

「宣伝?」

「はい。異世界の方は知らないと思うので」

 ネリーは俺の方にも来て、一枚の銀貨を手渡した。

「なぜ、お金を?」

「魔力を頂いた方には対価を。アライさんが報告してくれたので」
 
「助かるが、無理やり奪うのは良くない」

「すみません。私も上司の指令には逆らえなくて……」

 うつむいたネリーは、ダンジョンで戦闘した時とは違って弱々しく身を縮めた。こちらが、彼女の本心なのかも知れない。俺も責めたことを後悔するほどに弱っている。

「僕は金はいらない!」

 相変わらずキツイ態度を取るリュセラ。俺の知る限りでは、彼は司教から執拗に狙われている為に苛立つのも分かる。なぜ、リュセラが狙われているのか分からないのだが。

「では、リュセラ様貯金に入れておきますね」

「リュセラ様貯金?」

「彼が断ったお金は貯金しておけと、司教様が仰ったので」

「優しいね!」

 凛音が花火を使いながらリュセラに声をかける。嬉しそうな彼女の視線を受けたリュセラは顔を背ける。苛立った顔を見せないのは彼の意地だろう。その代わりに俺を睨んでいるのだが。

「あいつは自分のために使うに決まってる!」

「旅も入り用でしょう? 引き出すのはいつでも可能ですからね」

「だから、いらない!」

「本当にそうでしょうか?」

 ネリーは後の団員に手で合図をした。すると手押しカートに乗せられた品物が運ばれてくる。上には布が掛けられている。

「司教様が買い付けた物ですが、売りに出そうとお思いです」

 布を取り払うと大きなツボだった。細かな模様が彫り込まれており、年期の入った見た目の割には手入れが行き届いているため、美しい芸術品だろう。

「旧王朝の最初期のツボ!」

 反応したリュセラ。彼は拳を強く握り興奮を隠せないでいる。

「欲しいのか?」

「めちゃくちゃ希少な品だぞ! 玄関ホールに飾りたい! 何千年も昔に王が作らせた一品もののオーダーメイド」

「リュセラは物知りだね!」

 凛音がリュセラを誉めると、彼は照れる。

「当時の魔法技術では彫り込めない模様、手彫りなんだ」

「必要か?」

 節約をしている俺から見ると、置物のツボなどは欲しいとは思わない。あの大きなツボは醤油などを作れそうで良いなとは思うが。

「飾ると映える!」

「そうか、リュセラが良いなら良いんじゃないか」

「でも手持ちが……」

「高価な品ですから仕方有りませんね。では他の方に」

「待ってくれ、いつか買うから!」

「私たちも商売でないのでー」

 カートを下げたネリーたち。去り際にリュセラに向けて微笑む。

「リュセラ様貯金使いますか?」

「や、やだ!」

「では、さようなら」

「あああ!」

 絶望したリュセラはその場に膝をつく。その時にネリーは魔石を出した。

「悲劇をここに」

 リュセラから漏れた光が魔石に吸収された。リュセラは疲れきった表情になる。

 悲劇教団は去っていった。カートのガタガタと言う音をリュセラは目で追っていた。

「そんなに欲しければリュセラ様貯金ってのを使っても良いんじゃないか?」

「使ったら負けな気がするんだよ! 相手の思うツボだ!」

「魔力を取られるのも思うツボだよな……」

 俺はリュセラに肩を貸した。町の中ほどまで歩いて公園のベンチを見つけて彼を座らせた。

「他の人は解散したぞ」

「なら良かった。僕の肩の荷も降りた」

「みんな感謝していた。俺からもありがとう」

 彼らは手持ちの宝飾品を渡してくれた。鍋と俺で分けて貰い受けた。後でみんなに分けないと。

「リューセーラー!」

「な、鍋ちゃん?!」

「まーた、してやられたわね!」

「ごめん」

「すぐに物を欲しがるから、してやられるのよ!」

「でも希少なもので……」

「いっぱい持っているでしょ! 装飾品やツボもある、宝剣もある、杖だって一杯あるのに」

「道具が好きだから、つい……」

「そう言って、いつも負かされるじゃない!」

 鍋は怒りながら涙を流した。怒っていた筈なのに、泣いている。

「リュセラは最強なんだから……」

 泣いてしまった鍋にリュセラは立ち上がり、彼女を抱き締めた。

「僕はもっと強くなるよ、道具のみんなを守れるように」

 俺たちは待った、二人が落ち着くまで。リュセラが時折見せる、悲しげな表情は悲劇教団に負けたことが原因ではない。

 それにはもっと深い理由が有るように感じた。それに鍋が関わり有るのではと思う。

 公園の噴水は周りから光を受けて、キラキラ輝く。町の景色はきれいだ。

 後で自分たちの宿を探そう、二人を早く休ませてやりたい。凛音は町の店を見てそわそわしている。行きたいのだろうな。俺も調味料を補充したいのだが。
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