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1章

金貨団

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 ダンジョンの中程、川を辿って着いたのは金貨の山だった。この部屋には水源である湖が広がっていて、その一端、水のない地面にびっしりと積まれた金貨。

 俺たちは落ちている金貨を拾う。リュセラは慣れているのか魔法を使ってかき集めて袋に入れている。それを見た凛音も真似をして集まった金貨の下敷きになったり。

 大騒ぎをしている凛音を見ながら、俺は金貨を少しずつ拾い上げている。この金貨があれば妹の人生も豊かになる。この危険なダンジョンから持ち帰り、すぐに渡したい。足を治せなくても大丈夫に思えてしまう。
 
「これだけあれば、海外の希少なスパイスが買える」

「食べ歩きした方が早くないか?」

「何を言っているのリュセラ、料理にトライするのも楽しいよ!」

「そ、そうだな。それもいいよな」

 金貨の上でクロールを始めた凛音は手を止めて笑顔になる。

「悠人とリュセラはこれだけの金貨があったら何が欲しい?」
 
「僕は沢山の道具を買い付けたい。そちらの世界の道具も沢山欲しい。観賞用に」

「使った方が楽しいよー」

「使う用のも買うから、君も一緒に……」

「俺は世界の調味料を買いまくる」

「いいね! 私も料理したい!」

「いや、使わないぞ」

「なんでよ!」

「高価なものを使うのは気が引ける」

「買ったのに?」

 俺たち三人は欲しいもの、やりたいことの話で盛り上がった。

 その時だった。沢山の金貨の山が全部崩れたのは。俺たちは回避するまもなく埋まって、動きを封じられる。トラバサミも鍋も皆金貨の下敷きになった。

 だが、息が出来るように顔だけは覆われなかった。まるで金貨に意思があるように。

「しまった、悲劇教団の罠か!」

「ちがう……」

 声が聞こえて、そちらを向く。そう言えばアライが居るのを忘れてた。部屋の端に有る金貨の山からぐったりした顔のアライがいるのが見える。

「じゃあ、誰の仕掛けた物だ?」

「ハッーハッハ。この俺様だ!」

 金貨の山から一つの金貨が転がり落ちて、俺の目の前に来た。金貨は人の形へと変化する。ジャケットにジーパンを履いた青年だ。彼の体は金ぴかだった。

「この金貨団のボスであるゴールドボーイ様にひれ伏せ、今より下がれないだろうがな!」

「金貨団? あの伝説の窃盗団か!」

「リュセラは知ってるんだ」

「王の倉から全ての金を盗んだと噂されてる窃盗団だ、その技量から世界で最も危険視されている」

「よーく知ってるじゃないか、この俺が盗んできたのはそれだけじゃないぜ。貴族の倉に、大商人の倉庫、私腹を肥やした奴らから全てを奪ってきた」

 ゴールドボーイは手を上げる、すると彼の側に落ちていた金貨たちに細い手足が生えて彼に並び立った。

「俺は世界の全てを手に入れる、この世の宝全てをなあ!」

 俺たちは金貨の拘束から逃れようと体を動かしたが、金貨の重みと金貨それぞれから生えた手によってガッチリ捕えられている。

「こんなところで止まるわけには行かないのよ!」

「ハッーハッハ。俺は攻撃はしない、出すもん渡せば解放するぜ」

「俺たちが持っているのは、冒険に必要な最低限たけだ、欲しがるようなもんは持っていないぞ!」

「今、スパイス必要かはともかく、お宝なんて持ってない」

「いいや。全て渡して貰うぞ、財布の中身を!」

「「「え?」」」

「硬貨を全ていただくと言っている!」

「なんか、思ったより」

「ショボい……」

「何でだよ、王からも奪ったんだぞ!」

「硬貨だけを?」

「王なら宝石とか秘宝を溜め込んでいるのに……」

 リュセラと凛音は拍子抜けした様子だけれど俺は違った。

「何て非道なんだ!」

「そうだろ、そうだろ!」

「俺が頑張って節約して貯めた百円を奪うのか!」

 俺の財布から現れたのは薄幸そうな女性だった。彼女らはゴールドボーイにの方へと歩いていく。

「というか、俺のだけ出てきてない?」

「私、小銭切らしてて」

「僕はすぐに宝石に変えちゃうのでな」

「裏切り者!」

 俺は歩いていく女性に声をかけた。

「待ってくれ、あなたが居ないと俺は……」

「私、ずっと寂しかったんです。会う硬貨は直ぐに財布から連れ去られてしまう」

「仕方がなかったんだ、俺は貧乏だから」

「でも、お金遣い荒いですよね、調味料の時だけ……」

「そうだけど……」
 
 それは俺の趣味だから、家族にも料理を振る舞っていたとしても言い訳できない。

「私だって賑やかな世界に憧れていたんです、例え量産された私でも!」

「待ってくれ、百円!」

 硬貨は走ってゴールドボーイの側に立った。同時に金貨による拘束が解かれた。

「俺は全てを失った……」

「まあまあ、現実に帰ればまた出会えるから」

 一方、ゴールドボーイは百円に向けてひざまづいて、彼女の手を取った。

「俺と一緒にならないか? 大勢の家族に囲まれて過ごそう」

「そんな生活を夢に見ましたけれど、あなたは私には眩しいです」

「俺様、何か気にさわったなら謝るよ」

「だってあなた、一人ですよね」

「そうだ、俺様は分身している。でも君を愛してる」

「ごめんなさい。あなたに夢を押し付けてしまってすみません」

 百円はそう言うと俺の元へと戻ってきた。

「振り回してすみません……」

「良いんだ。また、百均に連れていく。あなたが寂しくないように」

「はい!」

 うなだれたゴールドボーイを俺は見た。彼はここで一人きりだった。その寂しさから分身をしたのだ。

「さて、どうしてくれるかな?」

 リュセラがお玉を構えた。凛音も有刺鉄線の鞭を手にする。俺は二人の前に出た。そして、ゴールドボーイに手を差しのべる。

「一緒に来ないか?」

「正気か悠人? 窃盗団だぞ」

「でも、断られても暴れたりしなかった。悪いやつじゃない。こいつ言ってたろ、私腹を肥やした奴から盗ったって」

「さっき拘束されたろう! 財布だって奪われそうになった」

「俺だけな!」

「悠人が良いなら良いんじゃない? 私たち狙われる理由ないし」

「それもそうだが」

「いいのか? 俺は分身が解けなくなっちまったんだ」

「凛音。鞄だけ使いたいから、冒険の荷物を返してもいいか?」

「いいよー。元々予備だし」

 鞄の口を開く。リュックは市販の物よりかなり大きい。さらに、頑丈だ。凛音もリュセラもかなりの荷物を持っていたから分かる。

「入りきるか?」

「入れる。見せかけで倍にしてたが、半分くらいの量なんだ」

 ゴールドボーイは金貨たちを動かしてみるみる内にリュックへと収まった。

「それで、誰が持つの? この量の金貨は重いよ」

「それは考えてなかった……」

「俺が持つ、自分だしな!」
ゴールドボーイが仲間になった。彼の寂しそうな表情に絆されたのもあるが、彼の強さは本物だ。頼れる仲間は多いほど良いだろう。フラれた手前、気まずいかもだが。
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